第7話 最初の守る理由
――嫌な予感、というものは大体当たる。
(静かすぎる)
その日の夕方、村は妙に落ち着いていた。
風が止み、鳥の声も遠い。
俺は柵の中で、天井を見つめていた。
環境変化:局地的
魔力流動:微弱な乱れ
警告:低位魔物反応
(……来るな)
だが、願いは聞き入れられなかった。
外で――
悲鳴が上がった。
「きゃあっ!」
母の声ではない。
だが、村の誰かの声だ。
次の瞬間、父が剣を掴んで外へ飛び出していく。
「レオンは中にいろ!」
(言われなくても出られない)
だが、胸の奥がざわつく。
(魔物だ)
低位。
だが、人を殺すには十分。
俺は、必死に耳を澄ませる。
金属音。
叫び声。
混乱。
脅威判定:小型魔物(複数)
想定被害:村人負傷・死亡の可能性あり
(……まずい)
俺は、歯を食いしばる。
(俺は、ここで何もできないのか?)
立てない。
走れない。
声も出ない。
ただ、知っているだけだ。
(このままじゃ……)
ふと、脳裏に浮かんだ顔があった。
ミア。
広場で、棒で絵を描いていた少女。
(あの子……外にいる可能性、高い)
保護対象:未指定
感情反応:強
(……守りたい)
初めてだった。
この世界で、
「生き延びたい」以外の理由が、
はっきりと形を持ったのは。
(……やるしかない)
俺は、パネルを開いた。
現在可能操作:
・魔力流れ調整(限定)
・周囲環境への間接干渉(低)
(直接攻撃は無理)
(なら……)
俺は、視点を「村」に向ける。
地形:木造建築密集
弱点:路地・角
(追い込みやすい)
次に、魔物のログ。
魔物種:グレイハウンド
知能:低
行動傾向:音と血に反応
(……なら)
(音だ)
俺は、家の中にある金属製の鍋に意識を向けた。
対象:金属器具
干渉可能範囲:低
(低でいい)
――カンッ!
突然、家の中で鍋が倒れた。
乾いた音。
外にまで、はっきりと響く。
「……?」
魔物の唸り声が、一瞬止まる。
次の瞬間。
音の方向へ、魔物が動いた。
(来い)
さらに、床板に軽い振動を与える。
ドン、ドン。
連続音。
誘導:成功
だが。
「きゃっ!」
別の方向から、幼い声。
(……ミア!?)
脅威対象:人族幼体
距離:近
(間に合え)
俺は、全力で魔力を流した。
目標は――
路地の角。
環境干渉:
木材歪曲(微)
ぎしっ、と音がして、
路地の柵が一瞬だけ傾いた。
魔物が、躓く。
「――っ!」
その隙を逃さず、父の剣が閃いた。
血飛沫。
魔物は倒れた。
だが、俺は――
安堵する余裕がなかった。
魔力消費:過多
警告:負荷限界接近
(……っ)
視界が、少し暗くなる。
その瞬間。
誰かに、強く抱きしめられた。
「レオン!」
母だ。
声が震えている。
「無事で……よかった……」
(……あ)
俺は、ようやく理解した。
怖かったのは、
魔物じゃない。
失うことだ。
感情記録:恐怖・安堵
新規フラグ:守護意識
外では、村人たちが集まり、
父が剣を下ろしていた。
ミアは、母親に抱きついて泣いている。
――無事だ。
それを見た瞬間、
全身の力が抜けた。
魔力状態:不安定
回復:必要
(……やりすぎたな)
だが。
後悔は、なかった。
(これが……)
(俺が、力を使う理由か)
その夜。
俺は、熱を出した。
母は一晩中、そばにいてくれた。
父は、何も言わなかったが、
時折こちらを見て、深く息を吐いていた。
パネルの端に、
小さく、しかし確かな文字が浮かんでいた。
役割候補:
・観測対象
・調整因子
・守護者(新規)
(……守護者、か)
赤ん坊には、
少し重い肩書きだ。
でも。
(嫌いじゃない)
俺は、静かに目を閉じた。
村は、まだ無事だ。
だが――
この日を境に。
世界は、レオンを「無害な存在」とは見なくなる。
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