神界サイド 管理ログ:言語未実装案件について
神界・第三管理局。
そこは、世界の仕様とログを監視する部署だ。
壁一面に浮かぶのは、無数の世界ウィンドウ。
「……で?」
椅子にだらしなく座った神が、欠伸混じりに言った。
「例の赤ん坊、また何かやったの?」
「はい……やった、というか……」
報告担当の下級神が、困ったようにログを拡大する。
個体ID:人族・男児
識別名:レオン
年齢:0
「言語能力、未実装のままです」
「それ、普通じゃない?」
別の神が首を傾げた。
「赤ん坊だよ?」
「いえ、問題はそこではなく……」
ログがさらに展開される。
意思伝達:
・感情誘導(成功率:高)
・非言語コミュニケーション(成功率:中)
・誤解誘発による回避行動(確認)
「……誤解誘発?」
「はい」
下級神は、淡々と続ける。
「泣きそうな表情で危険行動を止めさせています」
「身振りで状況を誘導しています」
「本人は“言語を意図的に使っていない”と推測されます」
沈黙。
「……え?」
数秒後、別の神が笑った。
「いやいやいや、無理でしょ」
「赤ん坊が“使わない”選択するとか」
「それ、普通は“できない”から実装されてないだけだし」
議場に、軽い笑いが広がる。
「気にしすぎだよ」
「たまたま感情表現が豊かな子なんでしょ」
その時。
ログの端に、小さな注釈が浮かんだ。
備考:
言語能力実装時期:本人選択
「……ん?」
一柱の神が、画面を指差す。
「これ、誰が設定した?」
「……初期設定です」
「初期?」
神たちは顔を見合わせた。
「そんな仕様、入れた覚えある?」
「いや、普通は“成長段階で自動実装”だよね?」
空気が、ほんの少しだけ変わる。
「……まぁ」
最上位席にいた管理神が、軽く手を振った。
「誤差だよ、誤差」
「言語なんて、早くても遅くても大差ない」
「それに――」
ログを見つめながら、にやりと笑う。
「今はまだ、何も“壊して”ない」
その言葉に、神々は頷いた。
「そうそう」
「発光も収まったし」
「這うのが速いだけだし」
下級神は、少しだけ迷った末、最後のログを表示した。
注意:
当該個体は「世界認識文言」を部分的に改変可能
影響範囲:ローカル
沈黙。
「……それ、前からだっけ?」
「いや、あれは……」
だが、管理神は興味なさそうに言った。
「ローカルでしょ?」
「世界全体に影響しないなら、放置でいい」
「むしろ――」
笑って付け足す。
「面白いじゃない」
「観測対象としては、当たりだよ」
会議は、そこで終わった。
ログは「様子見」にチェックが入り、
対応優先度は――低。
神々は知らない。
その“言語を持たない赤ん坊”が、
すでに世界の前提条件を読み、使い分け始めていることを。
そして。
将来予測:
神界想定:低脅威
実際危険度:未測定(算出不能)
この一行が、
後に「最大の見落とし」と呼ばれることになるのを。
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