第4話 魔力、流れすぎ問題
結論から言うと――
この世界、赤ん坊に優しくない。
(というか、魔力設計がおかしい)
それに気づいたのは、夜だった。
家の中は暗い。
父も母も眠り、静寂が支配している。
そのはずなのに。
(……明るくない?)
視界が、うっすらと青白い。
(え、月明かり? いや、違う)
俺は自分の手を見た。
――光っている。
ほんのり、淡く。
だが確実に、俺自身が発光していた。
(おいおいおいおい)
慌ててパネルを開く。
魔力:流入過多
状態:制御不能(自動吸収中)
警告:器の破損リスクあり
(は!?)
どうやらこの世界、人は生まれた瞬間から周囲の魔力を吸収するらしい。
普通なら、成長とともに自然に制御できる。
だが俺の場合――
(脳が先行しすぎて、吸収効率が異常)
結果。
(ダダ漏れ発光赤ん坊、爆誕)
「……レオン?」
母の声。
(やばい)
布の隙間から、母がこちらを覗き込む。
次の瞬間、息を呑んだ。
「……光ってる?」
(見えるよな、そりゃ)
母は慌てて俺を抱き上げた。
「あなた、起きて!」
父が飛び起きる。
「どうした――」
俺を見て、固まった。
「……なんだ、これは」
父の手が、無意識に剣の柄にかかる。
(それはやめて! 敵じゃない!)
泣こうとするが、感情が先に走り、声が裏返る。
(冷静になれ。泣くと魔力の流れがさらに乱れる)
パネルを凝視する。
魔力:流入過多
原因:吸収制限未設定
備考:世界初期設定の仕様
(初期設定のまま!?)
要するに。
(魔力に上限キャップがない)
赤ん坊だろうが関係なく、
「入るだけ入る」仕様。
(そりゃ危険個体も出るわ)
俺は一瞬、考えた。
(筋力みたいに、直接いじるのは無理……)
なら。
(“流れ”を変える)
魔力項目に、慎重に意識を向ける。
魔力:流入過多
→ 魔力:分散循環中(暫定処理)
文字が、静かに書き換わった。
次の瞬間。
すっと、体の内側が静まった。
光が、消える。
「……止まった?」
母が、震える声で言う。
父は、しばらく俺を見つめてから、深く息を吐いた。
「……奇跡、か?」
(奇跡じゃない。応急処置だ)
だが、説明できない。
魔力状態:安定(仮)
副作用:感覚鈍化(軽)
(副作用まで付くのかよ)
確かに、少しだけ体の感覚が遠い。
(……まぁ、死ぬよりマシだ)
母は俺を強く抱きしめた。
「よかった……レオン……」
その声に、胸の奥がちくりとする。
(ああ……)
守られている。
でも同時に。
(これ、隠し通せる問題じゃないな)
パネルの下部に、新しい項目が追加されていた。
異常事象:記録済
外部観測:上昇
推奨行動:秘匿・分散
(やっぱり)
そして――
遠く、別の場所。
神界。
「ちょっと待って」
「今のログ、見た?」
「魔力流入を“循環”で処理した?」
「そんな仕様、入れてないよ!?」
騒ぎが起きていた。
だが俺は、それを知らない。
ただ、暗くなった部屋の中で、思った。
(……この世界)
(思った以上に、危なっかしい)
赤ん坊の体で、俺は小さくあくびをした。
魔力:安定(暫定)
警告:恒久対策未実施
(宿題が増えたな)
こうして――
「光る赤ん坊事件」 は、家族だけの秘密として始まった。
だがそれは、
世界がレオンを見逃せなくなる、最初の合図でもあった。
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