第21話 評価の分かれ道
評価は、本人のいない場所で決まる。
それが、この施設のやり方だった。
会議室は、以前と同じ。
長机。
記録板。
淡々とした声。
「では、初等教育区画の経過報告に入ります」
職員の一人が、資料をめくる。
「全体として、順調です」
「問題行動は見られません」
(いつも通りの前置き)
騎士団から来ている男が、頷く。
「では、個別に」
最初に名前が出たのは――
「アーヴィン・ルクレール」
空気が、少しだけ前向きになる。
「理解速度、記憶力ともに優秀」
「集団内での振る舞いも模範的」
「指示への反応が早い」
「規律順守も問題なし」
誰かが言った。
「推薦候補として、妥当では?」
反論は、出なかった。
評価:
高
将来性:明確
次に、セリス・アルノー。
「理論、魔法制御ともに突出」
「感情面に不安はあるが、指導で補正可能」
「管理下での成長が見込めます」
(“管理下”が前提だな)
評価:
非常に高
要観察:感情面
エルナ、カイル、ノア。
それぞれ、想定通りの評価。
そして――
最後に、俺の名前が出た。
「……レオン」
一瞬、間が空く。
資料をめくる音が、やけに大きい。
「成績は、上位」
「理解力も高い」
(ここまでは、いつも通り)
「だが――」
その一言で、
結論が近いと分かる。
「突出していない」
「はい」
「常に、平均より少し上」
「波がない」
「癖もない」
(それ、褒めてるのか?)
別の職員が、首を傾げる。
「問題がなさすぎる、という印象です」
騎士団の男が、口を開く。
「それは、問題か?」
「……判断が、難しいのです」
正直な言葉だった。
「才能がないわけではない」
「だが、特化も見えない」
(見せてないだけだが)
しばらく、沈黙。
誰かが言った。
「……保留で良いのでは?」
全員が、ゆっくり頷く。
評価:
保留
処遇:
経過観察継続
判子が押される。
それで、終わりだ。
その頃。
俺は、教室で板書を写していた。
アーヴィンは、前の席。
教師と視線を交わし、自然に頷く。
(あいつは、もう“選ばれてる”)
休み時間。
教師が、アーヴィンを呼び止める。
「ルクレール君」
「少し、いいですか」
(来たな)
アーヴィンは、少し緊張した顔で、
それでも誇らしげに立ち上がる。
セリスも、別の教師に呼ばれていた。
俺は、呼ばれない。
(……当然だ)
外部評価:
変化なし
エルナが、隣で囁く。
「……また、呼ばれなかったわね」
「うん」
「気にしない?」
「……少しだけ」
嘘ではない。
だが――
後悔は、ない。
放課後。
アーヴィンが、戻ってきた。
少し、表情が引き締まっている。
「……話、聞かれた」
(おめでとう)
俺は、何も言わず、頷く。
アーヴィンは、俺を見て、言った。
「次は」
「俺が、先に行く」
「知ってる」
その言葉に、
彼は少しだけ、笑った。
誇らしさと、
わずかな戸惑いが混じった笑顔。
(それでいい)
俺は、帰り道で、空を見上げる。
内部認識:
制度評価:固定化
(……理解した)
この場所では、
俺は上に行けない。
行けない、というより――
行かせてもらえない。
だが。
(だから、外に出る)
その考えは、
怒りでも、焦りでもなかった。
ただの、選択だ。
評価の分かれ道は、
もう見えた。
そして、
俺の進む道も。
この制度の外に――
次のステージがある。
静かに、
だが確実に。
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