第19話 模範生
アーヴィン・ルクレールは、模範生だ。
それは教師だけでなく、
生徒全員が、なんとなく理解している事実だった。
「では、この問題は――」
教師が問いかける前に、
アーヴィンの背筋が、すっと伸びる。
「ルクレール君」
「はい」
即答。
淀みなし。
説明も簡潔。
(完璧だな)
教室の空気が、自然と彼を中心に回り始める。
「皆さん、こういう考え方です」
教師が、黒板にアーヴィンの答えを書き写す。
(“正解例”にされた)
セリスは、少しだけ眉をひそめるが、否定はしない。
エルナは、静かに頷いている。
カイルは、途中で理解を諦めた顔だ。
俺は、黙って板書を写す。
行動評価:
協調的
(いい位置だ)
休み時間。
アーヴィンの周りには、自然と人が集まる。
「さっきの、どうやって考えたんだ?」
「すげぇな」
「いや、普通だろ」
本人は、本気でそう思っている。
(それが一番すごい)
教師も、彼を信頼し始めているのが分かる。
「ルクレール君、これを配ってくれますか」
「はい!」
(雑務を任される=信用)
アーヴィンは、嬉しそうでも、嫌そうでもない。
ただ、当然のように引き受ける。
その様子を見て、
俺は内心で納得した。
(この世界は、こういう人間が好きだ)
午後の課題。
数人で組む、小さなグループ作業。
振り分けは、教師が決めた。
「ルクレール君、こちらの班で」
「アルノーさんも」
「……レオン、あなたも一緒に」
(まとめ役+天才+よく分からない枠)
カイルは、別の班。
ノアも、別だ。
作業が始まる。
「まず、これを整理しよう」
アーヴィンが、自然に進行を担う。
セリスは、必要な部分だけ口を出す。
「そこ、計算が甘いわ」
「……なるほど」
二人の連携は、悪くない。
(“完成度”を上げる班だ)
俺は、黙って全体を見る。
問題点。
無駄な手順。
改善案。
(言えば、一気に良くなる)
(でも――)
俺は、
一番小さな修正だけを口にする。
「……ここ、先に決めた方が、早いかも」
アーヴィンが、少し驚いた顔をした。
「……確かに」
セリスも、頷く。
「無駄が減るわね」
(これ以上は出さない)
発言量:
最小
効果:中
結果、班の評価は高い。
だが。
「良い連携でした」
「特に、ルクレール君」
教師の視線は、
ほぼ彼に向いている。
(そうなるよな)
俺には、軽い一言。
「……レオンも、協調的でしたね」
(協調的)
(能力じゃなくて、姿勢評価)
放課後。
アーヴィンが、俺に声をかけてきた。
「なあ」
「なに?」
「さっきの案」
「最初から分かってただろ?」
(来た)
俺は、少しだけ考えるふりをする。
「……なんとなく」
「……そうか」
アーヴィンは、納得したようで、していない。
「君、変だな」
悪意はない。
ただの疑問だ。
(正解)
その少し離れた場所で、
エルナが、俺たちを見ている。
目が合う。
彼女は、何も言わず、
小さく肩をすくめた。
(“気づいた”顔だな)
その日の記録。
評価要約:
ルクレール:模範生
アルノー:高水準
レオン:協調的・観察型
(……分けられた)
俺は、帰り道で空を見上げる。
(この制度では)
(目立つ者が、先に進む)
(読める者が、評価される)
なら。
(読まれないまま進むのが、最適解だ)
アーヴィンは、前を歩いている。
堂々と。
迷いなく。
俺は、その少し後ろを歩く。
影に入る位置。
(今は、それでいい)
模範生がいる限り、
俺は――
自由に動ける。
それを、
まだ誰も理解していなかった。
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