第18話 小さな選抜
選抜、と言っても大げさなものではない。
正式な試験でもなければ、順位が張り出されることもない。
教師が言ったのは、ただ一言。
「今日は、少しだけ“理解の確認”をします」
教室に、緊張が走る。
(来たな)
俺は、机に両手を置いたまま、周囲を見渡す。
アーヴィンは、背筋を伸ばしている。
いつも通りだ。
隣の列には、セリス。
すでに答えを計算し終えたような顔。
後ろの方では、
カイルが小さく欠伸を噛み殺し、
エルナは静かに教師を観察している。
ノアは……
少し肩をすくめていた。
(全員、分かりやすい)
教師が、紙を配り始める。
「難しい問題ではありません」
「“考え方”を見るためのものです」
(順位付ける気満々じゃないか)
問題は、三つ。
数。
簡単な論理。
魔力の流れを図で示す設問。
(……なるほど)
(満点取ると、目立つ)
(落としすぎると、別の意味で目立つ)
俺は、計算を始める。
わざと、
一拍置く。
思考速度:調整
アーヴィンは、すでに一問目を書き終えている。
早い。
そして、正確。
(あいつは、いつも通り全力だ)
二問目。
セリスが、ペンを止めた。
(……悩んでないな)
(確信している)
三問目。
魔力図。
ここで差が出る。
(普通に書けば、評価が上がる)
(だが……)
俺は、
最適解ではないが、破綻しない形を選んだ。
解答方針:
正解寄り
だが洗練しすぎない
紙を置く。
終了。
教師が回収する。
教室に、微妙な沈黙。
しばらくして、教師が言った。
「……結果は、今は伝えません」
(伝える気、ないな)
「ですが」
「いくつか、確認しておきたいことがあります」
教師の視線が、
自然にアーヴィンへ向く。
「ルクレール君」
「はい!」
「非常に良いです」
「考え方も、速度も」
アーヴィンは、少しだけ胸を張った。
(そりゃそうだ)
次に、セリス。
「アルノーさん」
「こちらも、ほぼ完璧です」
セリスは、当然といった表情。
(この二人は“分かりやすい”)
教師は、少し間を置いて――
こちらを見る。
「……レオン」
(来た)
「あなたも、良い」
「ただ……」
一瞬、言葉を探す。
(ほら、来たぞ)
「考え方が、少し独特ですね」
教室が、ざわつく。
(“独特”は便利な言葉だ)
「間違いではありません」
「ただ、標準的ではない」
(正解)
教師は、それ以上言わなかった。
次に、エルナ。
「……よく見ていますね」
「細かいところまで」
エルナは、にこっと笑う。
カイル。
「実技なら、問題ないでしょう」
(座学はノーコメントか)
ノア。
「……今回は、少し難しかったですね」
ノアは、小さく頷いた。
それで、終わりだ。
順位発表もない。
評価表も出ない。
だが。
(線は、引かれたな)
非公式評価:
アーヴィン:上
セリス:上
レオン:保留
休み時間。
アーヴィンが、こちらに来た。
「レオン」
「なに?」
真っ直ぐな目。
「……君、手を抜いただろ」
(直球すぎる)
俺は、少し首を傾げる。
「……そう見えた?」
「見えた」
即答。
(やっぱ鋭いな)
アーヴィンは、続ける。
「君なら、もっと――」
言いかけて、止まった。
俺の顔を見て、
言葉を選んでいる。
「……いや、いい」
(飲み込んだか)
離れた場所で、
エルナが、こちらを見ている。
目が合う。
彼女は、何も言わず、
ただ、少しだけ笑った。
(気づいてるな)
カイルは、セリスに怒られている。
「なんで分からないのよ」
「図を見なさい!」
「いや、剣なら分かるんだが……」
(いつもの)
ノアは、一人で紙を見直していた。
(……大丈夫か)
俺は、静かに息を吐く。
(これでいい)
(最初の選抜は、
“上に行く”ためのものじゃない)
(“分類される”ためのものだ)
そして、
俺は――
まだ分類されていない。
それが、
今の最適解だった。
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