第17話 数年後、静かに
時間は、音もなく進む。
気づけば、
揺りかごは消え、
低い寝台も不要になっていた。
俺は、歩いている。
(……慣れたな)
廊下を一人で歩く。
背は低いが、足取りは安定している。
年齢:推定4〜5歳相当
身体成長:標準
(“標準”って便利だ)
養育院の奥。
かつて「保護」と呼ばれた区画は、
今では俺の生活圏ではない。
代わりに――
初等教育区画。
白い壁。
少しだけ賑やかな声。
だが、
騒がしすぎない。
(管理された活気)
教室の前で、立ち止まる。
扉の向こうから、
子どもたちの声が聞こえた。
「それでね――」
「ちがうよ!」
(普通だ)
(ちゃんと“子ども”の世界だ)
扉が開く。
「入っていいですよ」
若い教師が、微笑む。
俺は、一歩中に入った。
視線が、集まる。
数十人。
年齢は、ほぼ同じ。
(ここからだな)
教師が言う。
「今日から一緒に学ぶ子です」
「名前は――レオン」
ざわり、と空気が揺れる。
小さな声。
「……あの?」
「“保護”の……?」
(もう噂、来てるか)
教師が、軽く咳払いする。
「今は、同じ生徒です」
「特別扱いは、しません」
(“今は”ね)
俺は、軽く頭を下げる。
やりすぎない礼。
行動評価:
礼儀:良
主張:弱
(ちょうどいい)
席に案内される。
前でも後ろでもない。
真ん中。
(観測しやすい位置だ)
授業が始まる。
文字。
数。
簡単な理屈。
(……遅い)
だが、
顔には出さない。
分からないふりはしない。
分かりすぎる反応もしない。
“少しだけ飲み込みがいい子”。
理解度調整:
平均+少し
隣の子が、ちらりとこちらを見る。
「……ねえ」
「なに?」
「ほんとに、ずっと一人だったの?」
(直球だな)
俺は、少し考えるふりをしてから、頷く。
「……うん」
それ以上は言わない。
相手も、それ以上聞かない。
(距離感、成功)
休み時間。
数人が集まってくる。
「ねえねえ」
「魔法、できる?」
(来るよな)
俺は、首を振る。
「……できない」
嘘ではない。
“見せない”だけだ。
「ふーん」
「じゃあ、普通じゃん」
(よし)
周囲評価:
普通
少し不思議
それで十分だ。
夕方。
教室を出ると、
少し離れた場所に、職員が立っている。
見ている。
だが、
近づいてはこない。
観測距離:
遠
(成功してる)
部屋に戻る。
机と、本と、窓。
空が、少し見える。
(前より、ずっといい)
パネルが、静かに更新された。
生活フェーズ:
教育段階・初期
(……ここからが本番だ)
俺は、窓の外を見る。
村は、もう見えない。
だが――
(ここで、力を蓄える)
(奪われないために)
静かな部屋で、
俺は今日という日を終える。
数年は、こうして過ぎていくだろう。
だが。
同じ場所に、同じ立場で、
同じ評価のままでは終わらない。
それだけは、
はっきりと分かっていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




