第14話 保護
養育院では、「保護」という言葉がよく使われる。
やたらと使われる。
「安全のために保護します」
「念のため保護対象です」
「規則上、保護が必要です」
(便利な言葉だな)
俺は、揺りかごの中から天井を見上げていた。
現在状態:
保護対象
自由度:極低
(守られてるのか、隔離されてるのか分からん)
その日、少しだけ騒がしかった。
廊下を行き交う足音が増え、
職員の声が、わずかに高い。
「……今日でしたっけ」
「ええ、“念のため”です」
(また念のためか)
やがて、部屋の扉が開いた。
入ってきたのは、
いつもの女職員ではない。
鎧姿の男。
胸には、王都の紋章。
(騎士か)
「……この子が?」
騎士が、俺を見下ろす。
視線は鋭いが、
敵意はない。
だが――
信用もない。
観測主体:
王都騎士団
評価:未確定
「本日は、この子を“保護”します」
職員が、きっぱり言った。
騎士が眉をひそめる。
「……すでに保護下だと聞いているが」
「ええ、二重の意味で、です」
(二重の意味って何だよ)
俺は、内心でツッコミを入れる。
騎士は、腕を組んだ。
「つまり?」
「念のため、より安全な場所へ」
(それ、昨日も聞いた)
俺は、抱き上げられる。
いつもより、
明らかに人数が多い。
前後左右、四人。
(要人警護が本格化してきたな)
廊下を進む。
他の子どもたちが、遠巻きにこちらを見ていた。
その中の一人が、小さく呟く。
「……あれ、あいつ」
「なんで、いつも……」
(出た、視線)
だが、誰も近づかない。
周囲反応:
興味
距離維持
(完全に“変なやつ”枠だ)
移動先は、
院内の一番奥。
窓の少ない部屋。
扉が、重い。
(あ、ここは“安全”だ)
中に入ると、
何もない。
寝台。
机。
以上。
「……保護環境、確認」
職員が、淡々と告げる。
騎士が、俺を見る。
「……小さいな」
(赤ん坊です)
騎士は、少し困った顔をした。
「これで、本当に危険なのか?」
職員は、即答した。
「分かりません」
「だから、保護します」
(理屈が完璧すぎて反論できない)
評価ロジック:
危険か不明 → 念のため保護
(無敵理論だな)
騎士は、ため息をついた。
「……分かった」
「だが、過剰になりすぎるな」
職員が、深く頷く。
「もちろんです」
「“必要な範囲で”」
(必要の定義、曖昧すぎる)
騎士たちが去り、
扉が閉まる。
――静寂。
環境評価:
安全
自由度:最低
(守られてるなぁ……)
(檻の中で)
俺は、天井を見つめる。
村では、
「外に出るな」と言われても、
空は見えた。
ここでは、
空すら見えない。
だが。
(悪くない)
(情報は、十分集まる)
現在戦略:
保護されるふり
扉の向こうで、職員の声が聞こえた。
「……やっぱり、何も起きませんね」
「ええ」
「“静かすぎる”くらいです」
俺は、目を閉じる。
(それでいい)
(今は)
この世界では、
“保護されている間”が、一番自由だ。
誰も、
その意味に気づいていないだけで。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




