第11話 王都への道
馬車の揺れは、一定だった。
石畳に入ると硬くなり、
土道に戻ると柔らかくなる。
その繰り返し。
(……遠ざかってるな)
音で分かる。
村の道とは、もう違う。
御者は、ほとんど喋らない。
護衛の男たちも同様だ。
無駄な会話がないのは、
これは業務だからだ。
現在環境:移送中
自由度:極低
安全度:高
(守られてる、か)
(便利な言葉だ)
俺は、眠ったふりを続けていた。
赤ん坊としては、それが一番“自然”だから。
だが、意識は冴えている。
途中、何度か馬車が止まった。
関所だ。
外から聞こえる声。
「魔術監査局の移送です」
「……確認しました」
(完全に公的ルート)
逃げ道は、最初から用意されていない。
昼頃、馬車が大きく揺れた。
坂を下っている。
(……都市圏に入った)
空気が変わる。
人の匂いが、濃くなる。
やがて――
音が、増えた。
車輪の数。
足音。
呼び声。
布越しでも分かる。
(……でかいな)
馬車が止まる。
扉が、開いた。
光が、差し込む。
「着きました」
抱き上げられる。
視界が、一気に開けた。
――王都。
高い城壁。
整備された石畳。
規則正しい建物。
人の数が、村とは比べものにならない。
現在地点:王都外郭
環境評価:高密度・高管理
(……別世界だ)
俺は、無意識に周囲を見る。
だが、誰も俺を見ていない。
正確には――
特別視していない。
それが、逆に分かった。
(ここでは、俺は“珍しくない”)
それは、少しだけ救いだった。
連れて行かれたのは、
王城ではない。
だが、
普通の家でもない。
白い壁。
整った庭。
門には、紋章。
施設種別:教育・管理複合施設
表向き名称:養育院
実質機能:選別・観測
(……学園の前段階、か)
中は、静かだった。
子どもの声は、ほとんどしない。
案内役の女が、淡々と説明する。
「ここでは、才能の兆しがある子どもたちをお預かりします」
「安全で、教育的な環境です」
(“お預かり”ね)
部屋に通される。
清潔な寝台。
柔らかい布。
完璧すぎる。
居住環境:最適
心理的快適度:低
(そりゃそうだ)
扉が、閉まる。
鍵の音は、しない。
だが――
出られないことは、分かる。
俺は、天井を見上げる。
村の天井とは、違う。
装飾がある。
均一で、冷たい。
(……ここからか)
パネルが、静かに切り替わった。
生活フェーズ:変更
育成対象:有効
観測頻度:上昇
(歓迎されてるな)
俺は、ゆっくりと息を吐く。
怖くない、と言えば嘘になる。
だが。
(もう、戻れないなら)
(進むしかない)
ここで泣いても、
誰も返してくれない。
力を隠す。
目立たない。
学ぶ。
――そして。
(次に“選ばせる側”になる)
小さな手を、ぎゅっと握る。
内部状態:
適応開始
静かな部屋で、
俺は一人、目を閉じた。
世界は変わった。
だが――
終わってはいない。
ここからが、
本当の始まりだ。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




