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世界を書き換えられる転生幼児は、 評価を保留させたまま学園を出る  作者: 黒羽レイ


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第9話 見られている

 最初に変わったのは、空気だった。


(……増えてる)


 俺は、揺りかごの中から、家の中を見回す。

 いつもと同じ天井。

 同じ壁。

 同じ匂い。


 なのに、何かが違う。


外部観測:有

観測強度:弱 → 中

備考:断続的



(来たな……)


 それは、視線だ。


 誰かが“見ている”。

 家の外から。

 村の外から。


 父も、それに気づいていた。


 朝、剣の手入れをしながら、動きが少しだけ硬い。


「……最近、知らない顔が増えた」


 母は、笑って誤魔化そうとする。


「行商人じゃない?」

「祭りの噂を聞いたのよ、きっと」


 だが、父は首を振った。


「違う」

「動きが……兵のそれだ」


(正解)


観測主体候補:

・王都関係者

・貴族配下

・魔力調査員



(しかも複数)


 昼過ぎ。


 家の前を、馬が通る音。


 窓の隙間から、影が落ちる。


(重装……)


 パネルが、淡く警告色を帯びる。


外部干渉:接近

推奨行動:秘匿強化



(無理だろ)


 すでに、村全体が“目印”だ。


 案の定、午後になって、村長が家を訪ねてきた。


「……失礼する」


 その後ろに、見慣れない男が立っている。


 黒に近い濃紺の外套。

 装飾は少ないが、質がいい。


(貴族の犬だ)


「王都より、調査の者が来ている」


 村長の声は、明らかに硬い。


「例の……祭りの件でな」


 母の腕が、わずかに強くなる。


 男が、一歩前に出た。


「初めまして」

「王都魔術監査局の者です」


 声は丁寧。

 だが、視線は――


(俺を“物”として見ている)


対象評価:

人族幼体

魔力反応:異常履歴あり

危険度:未確定



(ログ見て来てるな)


 男は、にこやかに言った。


「少し、子どもを見せていただけますか?」


 母は、反射的に一歩下がった。


「……この子は、まだ小さいんです」


「ええ、承知しています」

「ですから“確認”だけです」


(言葉が丁寧なほど、拒否権はない)


 父が、前に出た。


「確認とは?」


 男は、少しだけ視線を上げる。


「魔力の流れです」

「異常があれば、保護対象になります」


(保護)


(来たな、この単語)


キーワード検出:

「保護」

意味解析:強制移送の可能性あり



 男が、ゆっくりと手を伸ばす。


 魔力測定具。


(触らせるな)


 だが、叫べない。

 止められない。


(……秘匿)


 俺は、全力でパネルを開いた。


魔力状態:安定(暫定)

編集可能:表現のみ



(数値は触れない……なら)


 俺は、文言を“弱める”。


魔力:安定

→ 魔力:安定(外部影響下では沈静化)



 文字が、静かに変わった。


 同時に、体の内側が、ひやりと冷える。


副作用:出力低下・倦怠



(……耐えろ)


 測定具が、俺の胸元に触れた。


 男の眉が、わずかに動く。


「……」


 沈黙。


 父と母が、息を詰める。


 数秒後。


「……異常は、ありません」


 村長が、ほっと息を吐く。


 母の肩から、力が抜ける。


(……通った)


 だが、男は続けた。


「ただし――」


(来る)


「“未発現”の可能性はあります」

「経過観察は、必要でしょう」


(だよな)


評価結果:

即時回収:否

監視継続:是



 男は、丁寧に頭を下げた。


「しばらく、我々が村を行き来します」

「ご安心を」


(安心要素、ゼロ)


 男たちが去ったあと、家の中は不自然なほど静かになった。


 母は、俺を抱いたまま動かない。

 父も、椅子に腰掛けたまま、剣に触れようともしなかった。


「……異常は、ないと言っていたわよね」


 母の声は、震えていた。


 父は、しばらく黙っていたが、やがて低く答えた。


「“今は”だ」


 その一言で、母は何も言えなくなった。


 俺は、天井を見つめながら、静かにパネルを閉じる。


外部観測:継続

監視強度:中

推奨行動:環境変化



(……分かってる)


 ここに居続ける限り、

 俺だけでなく――

 この家も、村も、巻き込まれる。


 夕方。


 家の外に、足音がした。


「……レオン」


 ミアの声だ。


 母に気づかれないよう、父がそっと戸を開ける。


 ミアは、いつもより少し離れた位置に立っていた。

 近づいてこない。


「……知らない人、いた」


 俺は、瞬きを一度だけする。


「……こわい?」


 もう一度、瞬く。


 ミアは、唇をきゅっと結んだ。


「……レオン、いなくなる?」


 その言葉は、

 幼いくせに、妙に核心を突いていた。


(……鋭いな)


 俺は、すぐには動かなかった。


 代わりに、

 ゆっくりと、首を横に振る。


 ――完全な否定ではない。

 だが、「今すぐではない」という意思表示。


 ミアは、しばらく俺を見つめてから、小さく頷いた。


「……じゃあ」


 それだけ言って、踵を返す。


 振り返らない。


(……ごめん)


感情記録:

後悔

保護欲求

決断未完了



 夜。


 父と母は、声を潜めて話していた。


「……このままじゃ、あの子は――」


「分かってる」


 父の声は、低く、重い。


「だが、逃げる場所は限られている」

「……選択肢は、もう多くない」


 俺は、目を閉じたまま、その言葉を聞いていた。


(選択肢がない、か)


 違う。


(選ばされるんだ)


 誰かに。

 世界に。


 そのことが、

 胸の奥に、静かな怒りとして溜まっていく。


内部状態:

覚悟形成中



(次は……)


(奪われる前に、考える)


 まだ、体は小さい。

 まだ、言葉も持たない。


 それでも。


(このまま、流されるつもりはない)


 家の外では、

 夜の村が、何事もなかったかのように眠っている。


 だが――

 何かが、確実に動き始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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