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電脳世界の終わり方  作者: ナナフシ
3章:現実と事実の間
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現実と事実の間

少し前に予約をしていた、海王星への旅行の日がやってきた。


私は、研究室のデコモリ室長に旅行の為に休みを取ることを事前に伝えてある。

そもそも、成果をあげることを強要されていないので、いつ休んでも問題はないのだが……あくまでも形式上の休暇届だ。


彼女の方も同様に職場には休みを取ることを伝えているようだった。


「いよいよですね」

彼女は、私の顔を覗き見ながら言う。


「そうだね。なんだか緊張するな」

私の本音はあっさり出た。なんせこんな長距離の旅行なんて、今までしたことはなかったからだ。

――そもそも、誰もしたことはないだろう。


「そうですか? あっという間みたいですよ」

彼女は旅行の資料を私に見せながらそう言う。


「ええと……一時間位か」

彼女の見せてくれた資料の中から、所用時間を確認する。


「そうです。あっという間でしょう?」

彼女は、友達の住んでいる街に遊びにでも行くような感覚で、私に話した。


「そうだな。本当にあっという間だ」

情報を確認した私は、いつの間にかほっとしていた。


よくよく考えたらすごい技術だなと思う。

地球から一番遠い惑星まで、僅か一時間だなんて。

――本当に便利な世界になったものだ。


それで、実際のその移動技術は、時空を歪めたワープのようなものだという。

本当は一時間もかからないのだけれど、乗り物自体も楽しんで貰いたいからという理由で、一時間かけて移動をするように調整をしているようだ。


宇宙船の出発時には、地球の重力を体で再確認できるし、航行中は無重力空間での飲料の提供があり、とても楽しめた。



さて、宇宙船が海王星に着陸してからの話だが……


――何も見えないっ!!


機内のアナウンスに耳を傾けて聞いてみると、どうやら海王星にはとんでもなく強い風が吹いていて、そのままの状態では何も見ることはできないらしい。


しかしながら、その風をコントロールする術はもう開発されているらしく、後ほど風のない状態で地表に降り立つことができるそうだ。


地表に降りる前に一点だけ、重力を調整するための特別な宇宙服を渡され、それに着替えてから、私たちは宇宙船の外へ出た。


「おぉ……寒い」

船内と外との温度差に私は、さっそく驚いた。


「寒いですね。でも、きれいです!」

彼女も後から続いて船外へと出てきて、そう言った。


「あぁ……きれいだ」

私もそれに同意をする。


それもそのはず、海王星の気温は-200℃以下で、氷で覆われているような惑星だ。


今まで見たことのないような世界に、心を動かされるのは当然だろう。

――かくいう私も茫然と景色を、ただただ眺めながら、そこに立ち尽くしていた。



私たちは予定時間通りに観光を終え、船内で普段は食べることのない宇宙食を食べていた。


見た目は、携帯性や持ち運びにとても優れる形をしていて、決して食が進むとは言えないが、味は地球で食べる料理と同じである。


「すごい技術だな……」

あまりの見た目とのギャップに、またまた驚かされてしまった私。


「ふふ、面白いですね」

彼女も横から私の驚いた顔を見ながら、微笑んでいる。

――自分が子どもの様で、少し照れくさい。



そんなこんなで、想像以上に楽しむことが出来た海王星への旅行だった。

――私に行きたいかどうかを、聞いてくれた彼女には本当に感謝である。



地球に帰ってきた私は翌日、研究室に顔を出した。

休みは取っていたが、いつもお世話になっている室長へお土産を渡すためだ。


研究室のドアを開け、私はいつものように室長に挨拶をする。


「こんにちは、サカキさん。お土産買ってきました……」

――って、あれっ?……


急に心拍数が上がるのを感じた――


原因はわからないが、なにかがおかしい。

――たしかに聞いたことのあるサカキさんの声だ。


なにかがおかしいと感じるのに、なにがおかしいのかがわからない。


なんだ?……


「こんにちは、ハジメくん。海王星は楽しかった?」

サカキさんが、返事をする。


なにも違和感はない――


たしかに室長はサカキさんで、私はサカキさんに休暇届を出した……のか?


なにか大事なことを忘れている気がする――

しかし、それが何かはわからない。


「ハジメくん、大丈夫?」

私がなかなか返事を返さないので、心配してサカキさんが声をかけながら近づいてくる。


「あはは、大丈夫です。なんか旅行で思ってたより疲れてたみたいで……」

私は頭に手を当てながらそう言って、お土産を渡した。


「そうか、海王星は遠いもんな。今日は休みなんだから無理せずゆっくり休め! あと、お土産ありがとう」

サカキ室長は、いつものように私を気づかって返事をしてくれた。


「ありがとうございます。それじゃあ、帰りますね」

私はそう言うと、サカキ室長のお言葉に甘えて、早々に家路に着いたのだった。


あれはなんだったのだろうか――


あの一瞬の違和感の正体は、私にはわからなかった。

そしてその違和感も、家に着く頃には、まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。

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