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電脳世界の終わり方  作者: ナナフシ
2章:管理される幸福
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管理される幸福

大学を卒業して数年。

私は今、人間の心理を研究する研究室に所属していた。


この進路もまた、人工知能《AI》が最適だと提案したものだった。

もちろん私も異論はなかった。

むしろ、それが自然な選択のようにさえ思えた。


なぜなら大学時代に学んでいた内容はとても興味深かったし、なによりもう少し調べてみたいという気持ちがあったからだ。


一方、アリシアはというと、人工知能《AI》の研究施設に勤めている。


わざわざ同じ大学まで私についてきた彼女のことだから、てっきり同じ研究室にもついてくるものだと思っていた。

しかし、そうではなかったらしい。

――そもそも自分の気になることを優先して進路を選ぶのは当然なのだが。



その進路の話をしていた時の事――


私は、私と彼女は気が合うから、彼女も同じ選択をすると思っていた。

しかしながら、実際返ってきた答えは予想外だったので少し驚いた。


彼女の考えに納得しつつも、やっぱり理由が気になったので、それとなく彼女に聞いてみた。


「同じ研究室にいくのかと思ってたけど、違ったんだね」

私はきっと、少し残念そうな顔をしている。もちろん見せないようにはしていたが。


「はい。ほんとはハジメさんと一緒がよかったんですけど、人工知能《AI》のテーマが気になりまして……」

彼女は少し申し訳なさそうに、しかしながら予め決めていたかのようにそう答えた。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと予想外でびっくりしたけど、気になることがあるならやってみるべきだよ」

私は彼女に罪悪感を与えないように、早口になりながらも平静を装って彼女をなだめようとする。


「はい。でも、会える時間が短くなっちゃいますね」

彼女は悪びれる様子もなく、しかし唐突に、私が忘れていた核心をついてきた。


――胸の奥の方がギュッと締め付けられるような感じがした。


「そ、そうだね……あはは、それは考えてなかったや」

会話に微妙な間が空いた後、私はなんとか言葉を選んで返事をした。


「それなら……一緒に住みます?」

彼女は、私の目を見ながらそう言った。


――頭の中が真っ白になった。


「えっ?……」

その一言のみで、私には他に彼女へ返す言葉が出てこなかった。


すると、彼女はそれを察したのか。


「一緒に住みませんか? ハジメさん。そうすれば、会う時間も減らさずに済むと思うんです」

彼女は私が話の内容を理解しているか、確認するような口調で、もう一度聞いてきた。


私は、予想外の出来事が続くこの状況に混乱している――


しかしながら、なにか返事をしなければならない。

私たちの今までの関係を延長して考えたら、同居することは決しておかしいことではないだろう。


それに、これは彼女からの提案だ。

私が一緒に住みたいと言った訳ではなく、彼女自身がそうしたいと思ったのだ。


だから、私は心を決めて――

――心臓が高ぶっているのがわかる。


「いいね。じゃあ、一緒に住もうか」

と、ちゃんと彼女の目を見て言ったのだった。



という経緯があって私たちは今、別々の仕事をしながら一緒に暮らしている。


一緒に暮らすことについて、親の同意や費用の問題は特になかった。

なぜならば、きちんと義務教育を終えた後は、自分の進路を自分で選択できるからだ。

つまり、両親の同意や保証人は必要ない。


費用に関しても、学費や食費などと同様に一切かからないから、住みたい場所にスペースがあれば、どこへでも気にせずに引っ越しが出来る。

土地を買うという概念はなく、国に管理されている場所を、住みたい期間レンタルする感じだ。


私は、便利で自由な世界、最高!と心の中で思っている。

――そもそも、不便で不自由な世界なんて、誰が望むだろう。


人工知能《AI》によって最適化された世界は、なんと居心地がよく、快適で幸せなものか。

疑いようもなく私は、この世界に生まれてよかったと思っていた――



――研究室では、私は人間の選択についての研究をしている。

人はAとBのどちらを選ぶのか……や、そのAとBはそもそもどこから生まれてくるのか……など、やや哲学的な内容も含めてだ。


人工知能《AI》が発達した世界ではあるが、人間の心理については人工知能《AI》にも、わからないことがあるらしい。

情報を検索しても、詳しい内容が出てこないことがよくある。

それどころか稀にだが、閲覧できない内容があったりする。


「人工知能《AI》にもわからないことって、あるんだな……」

私は、独り言をつぶやきながら、ぼんやりとそう思っていた。


当たり前のように人工知能《AI》に依存していた生活では、想像もしなかった出来事に多少驚きはしたが、そもそも人工知能《AI》を使わずに深く考えること自体が珍しい経験だったため、どうしたらいいのかわからず、そうする事くらいしかできなかったのだ。



そんな出来事も何度か経験していくと、最初の驚きは薄れ、やがて私は慣れていった。

するとそのうち、別のアプローチの方法はどうだろう? と自然に考えられるようになっていた。


人工知能《AI》を使って研究するなら、このような方法は一般的だ。

その後に、より掘り下げたい部分があれば、対象となるような人間を用意して実験をし、データを分析して、結果をまとめる。


これが自然な流れだった。


この時には私は、あの時に感じた驚きをもう感じなくなり、人工知能《AI》にもわからないことがある――ということを、すんなりと受け入れていた。


それが、まるで最初から決まっていたかのように――

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