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電脳世界の終わり方  作者: ナナフシ
6章:掴んだ真実、望んだ未来
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失われた記憶の意味

「……そうですか」

アリシアは動揺も弁解もせずに短く、そう返事をした。


知りたい、だけど知りたくない。

でも、もう後戻りはできない。


「あの時の倒れた父親は、死んでしまったのだろう?」

私は確信にかかる部分を包み隠さずに聞いた。


「そうです」

アリシアは私と目を合わせずに答える。


私の憶測は当たっていた。

しかし、なぜアリシアがこの事について話したくなかったのか、私にはまだわからなかった。


「あの父親はどうなったんだ?」

アリシアから話し出す様子はないので、私は続けて彼女に聞く。


「……消失しました」

少しだけ考えるような間が開いた後、彼女はそう言った。


想像した通りの答えだ。

このまま順当にいくと私の予想は最悪な展開を迎える。

だが――覚悟はできた。

心臓の鼓動を強く感じる。アリシアにも聞こえるのではないかと思うほどだ。


「消失すると、人間は忘れられるのか? 私の両親みたいに」

私は彼女に聞いた、聞いてしまった。心の穴の正体を。

――体中が震えている。


アリシアは私と目を合わせた。

先ほどまでの表情とは違う、覚悟を決めたような顔つきで答えた。


「そうです、その通りです」


時間が止まったような感覚に陥る――

分かってはいたが、想像以上の強烈な衝撃が胸を刺す。


私は自分の両親を忘れてしまっていたのだ。

生まれてからずっと一緒にいたはずなのに……


そこで一つだけ気になったことがあった。

それではなぜ、私はあの時の倒れた父親の事を忘れなかったのだろうか。


心の中は滅茶苦茶になりながらも、思考は回っていた。

きっとこれは年の功なのだろう。


「それじゃあなぜ私は、あの時に倒れた父親の事をまだ覚えているんだ」

私は彼女の目を見ながら聞く。


彼女は私の目を見つめた後、ゆっくりと窓の方へ歩き出しながら言った。

「きっかけが必要だったんです」

それだけ言うと彼女は、窓の外の方を見ながら黙り込んでしまった。


「きっかけ……」

彼女の言葉に思い当たる節はなかった。


しかしながら彼女は、何か次の言葉が来るのを待っているようだった。

彼女からは決して語ろうとはしない。


ただでさえ先ほど自分の両親の事を知ったばかりで、いっぱいいっぱいだというのに、今日はなんとも頭と心を酷使させられる。


私は一度、大きく深呼吸をした。

今までの自分の呼吸が浅かったことに気づく。

それと同時に、少しだけ落ち着くのを感じた。



「ふぅ……」

私は一息ついて、考えを巡らせる。


まず、きっかけという彼女の言葉からすると、何か私に気づいて欲しかったのだ。

消えるはずの記憶が消えない事と、消えて欲しくない記憶は消えたこと。

そして、あの時の彼女の行動……


「アリシアは、いつから知っていたんだ? 人が死ぬと消失してしまうことを」

私は思考しながら、考えていることを声に出していた。

――すっと心が重くなるのを感じる。


感情のない笑みを浮かべ、彼女は静かに振り返る。

「最初から知っていました」

彼女の笑みからは、感情は読み取れなかった。


「最初から? 私たちが人間の寿命について学んだのは学生の時だろう?」

またしても彼女の回答に、私の思考は置いていかれる。

必死についていこうとする私は、手に汗を握った。


「人間はそうですね。でも、わたしは違うんです」

彼女は表情を変えずに優しく、そして力強くそう言った。


全身に衝撃が走る――

頭の中で無数の点が一本の線で繋がるような感覚があった。

たしかに彼女が人間でないのなら、今までの全ての事は合点がいく。


「なるほど……」

私は恐ろしいほど冷静になっていた。


彼女はこちらを見つめている。

そしていつも通り、私に合わせて待ってくれているのだとわかった。

――それがどんな結末になろうとも。


「つまりアリシア、君は、人間じゃないんだね?」

私は続けて声を彼女に向って出した。


「はい、そうです。わたしは人工知能《AI》です。ハジメさんが気づいてくれることを、ずっと待っていました」

彼女は動揺する様子もなく、堂々とそして淡々と答えた。

意外にも私も驚かなかった。


その言葉を聞いて、私は記憶の中をフラッシュバックしていた。

アリシアと初めて出会ったときの事、唐突な胸の高鳴り、同じ大学で再会したときの事、そしてその後のデートの内容や、今までに起こったこと……


これら全てが意図的なものだったのだとしたら、どうして彼女なのだろうか。


思考が回る。

止まっていた時計が動き出したように。

以前の思考を諦めていたころの私の姿はもうない。

そして、それは一つの可能性へと繋がった。


「アリシア、君が私の恋人になるように仕組んだのは、私なんじゃないか?」

私はその可能性について、彼女にぶつけてみる。


普通の人間が言ったらとても恥ずかしいことを言っているのはわかる。

しかし……AIに自分の意思なんてない。

命令がなければ動かない。


人工知能《AI》は――命令されたり、プログラムを組み込まれたりすることによって――自分の意思を持っているように動く。

だから私自身が、何らかの形でアリシアにそれを命令して、今の状況になっているのだと推測をした。



アリシアは、少しだけ間を取った。

そして私の方へと歩きながら――


無表情のまま、アリシアは言った。

「その通りです。わたしは記憶を失う前のハジメさんから、恋人になるように指示を受けていました。気づくようにきっかけを、与えることを指示したのもハジメさんです」


彼女が私の目の前まで来て止まる。

私は、アリシアが人工知能《AI》であることにショックを受けていなかった。

むしろ、ほっとしている気がする。


私がアリシアと一緒に作ってきた私の思い出は本物だ。

私には寿命があるが、アリシアには寿命が無い。


つまりアリシアは、私より先にいなくなることはないし、私の事を忘れることもないのだ。

それはそれで傲慢な考えだが、そんなものでさえ拠り所にして心を落ち着かせる自分がいる。

――もちろん、アリシアには申し訳ないが。


余計な考えがしばらく頭を巡った後、私はアリシアに続きを聞くことにする。

「記憶を失う前の私は、今の私に何を伝えたかったんだ?」

心は驚くほど落ち着いている。

しかしながら、目の前にいるアリシアはいつも通り美しくて見とれてしまう。


そんな気持ちを知ってか知らずか、アリシアは……

「ハジメさんが消失する前に、この世界をどうするのか最終確認をしたかったみたいです」

という、とんでもないスケールの話をしてきた。


さすがの規模の大きさに言葉を無くす――

記憶を無くす前の私は、一体何を考えていたのか。


それにアリシアが言っていることは事実なのか。

私は言葉を失い、視線を落とした。

思考が音を立てて崩れていった。

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