第四章 新たな幸せの選択
真実が明らかになり、ルチアは王都へ戻る権利を得た。王子の婚約は破棄されたままだが、彼女には「悪役令嬢」という汚名を雪ぐ道が開けたのだ。
しかし、ルチアの心は複雑だった。
「ルチア様、侯爵様が王都へ戻られる馬車をご用意しました」
エマが、新しいドレスを抱えてやってきた。
「エマ、私……王都には戻らないわ」
「え……?」
ルチアは窓の外を見た。領民たちが、来たるべき冬に備えて、収穫した作物を貯蔵庫に運び込んでいる。彼らの笑顔には、もう絶望の色はない。
(王都に戻って何をするの?華やかな社交界?私を裏切った貴族たちへの復讐?そんなものに、もう何の興味もないわ)
ルチアにとっての幸せは、誰かから与えられるものではなかった。それは、このノースゲートの地で、彼女の力で作り上げた、豊かで、実りある生活そのものだった。
ルチアはアベルの元へ向かい、彼に自分の決意を伝えた。
「アベル様。私を信じて、ここまで調べてくださったことに心から感謝します。でも、王都には戻りません。私の家はここです。私の生きる場所は、このノースゲートです」
アベルはルチアの真っすぐな瞳を見つめた。彼の冷たかった銀の瞳に、初めて熱が宿った。
「そうか……。お前は本当に変わったな。いや、元からこういう女性だったのかもしれない。私には、それを理解する余裕がなかった」
アベルは静かにため息をつくと、ルチアに背を向けた。
(やっぱり、理解してもらえない……)ルチアが肩を落とした、その瞬間。
アベルは振り返り、ルチアを優しく抱きしめた。
「ならば、私も王都には戻らない。ルチア。私の侯爵家の地位は、ノースゲートの開拓に尽力し、成果を上げた貴女の功績により、お前との婚約を回復させるための手段として使おう。そして、その後に私は侯爵の地位を捨てる」
ルチアは驚いて顔を上げた。
「何を、おっしゃっているのですか?侯爵家の地位を捨てるなんて……」
「ノースゲートは、これから王国にとって重要な食糧供給地になる。貴女の功績は、王国の貴族として称えられるべきだ。だが、貴女が望む場所がここなら、私もここにいる」
アベルはルチアの頬に触れた。彼の指先は少し冷たかったが、その瞳は情熱に満ちていた。
「侯爵家の人間が辺境に移住すれば、王都で私は笑われるだろう。だが、構わない。私は、貴女と共に、この土地を開拓し、貴女を守り、貴女の隣で生きていきたい」
彼の言葉は、偽りがない、心からの愛の告白だった。ルチアは、かつてゲームのシナリオ通りに彼に抱いた淡い憧れではなく、泥まみれの自分を愛してくれた彼の**「人間性」**に、心を揺さぶられた。
「アベル様……」
「ルチア。このノースゲートで、私の妻になってくれないか」
ルチアは瞳から涙を流しながら、力強く頷いた。
「はい!喜んで!」




