第二章 辺境の開拓者
ルチアがノースゲートの領民に会うと、彼らの生活の厳しさがすぐに明らかになった。土地は痩せ、冬が長く、作物はほとんど育たない。飢えと病気が蔓延し、希望を失っている者が多かった。
「これでは、いくら私が王都の生活を捨てて辺境に来たところで、領民もろとも行き詰まってしまうわ」
ルチアは領主館の片隅に隠されていた古い地図と、前世で得た知識を組み合わせた。
「この土地は寒いけれど、土壌そのものは火山灰を含んでいて、改良の余地があるわ。そして、この地図のマーク……これは温泉だわ!地熱を利用すれば、温室栽培ができるはず!」
彼女の魔法の出番だった。
ルチアは毎朝、領地で最も痩せた土地へ向かい、魔法を使った。
「《グリーン・ブレス》!」
彼女の手から淡い緑の光が放たれると、カチカチに固まっていた土が徐々に柔らかくなり、生命力を取り戻していく。その作業を何日も続けると、土は水を保ち、肥料の定着が良い、豊かな黒土へと変化していった。
さらに、ルチアは領民と共に古い水路を修復し、近くの川から水を引いた。彼女は前世で読んだ農業の専門書を思い出し、地元の薬草を使った簡単な治療法や、作物の連作障害を防ぐ方法を指導した。
最初は疑いの目を向けていた領民たちも、ルチアの献身的な努力と、土地が確実に変わっていく様子を見て、徐々に心を開いていった。
「お嬢様は……本当に『悪役令嬢』なんかではなかったんですね」
ある老いた農夫が涙ながらに言った。ルチアは静かに微笑んだ。
「私はただ、ここで生きていきたいだけです。みんながここで、お腹いっぱいの食事をして、温かい冬を過ごせるように。そのために、あなたの力も貸してください」
ルチアは、王都にいたときよりも遥かに充実した日々を送っていた。社交界での虚飾や、王子への淡い想い、そして断罪の恐怖……すべてから解放され、彼女は初めて自分自身として生きている実感を得ていた。




