第一章 断罪の夜と新たなる旅立ち-2-
ルチアが追放されたのは、父方の実家が所有する、王国の最北端にある小さな領地、「ノースゲート」だった。その名の通り、寒風吹きすさぶ過酷な土地で、王都からは二週間以上かかる遠隔地である。
「お嬢様……どうか、お気落ちにならぬよう」
共に付き従ったのは、老齢の侍女長エマと、護衛兼馬車の御者である寡黙な騎士、ディムだけだった。
「ありがとう、エマ。私は大丈夫よ」
馬車を降りたルチアの前に広がっていたのは、荒涼とした大地と、低く鉛色の空だった。石造りの領主館は古く、手入れが行き届いていない様子がすぐに分かった。
ルチアは深呼吸をした。冷たい空気が肺を満たす。
(ノースゲート……。ゲームでは、本当に誰も触れない場所だったわね。でも、ここが私の新しいスタートラインだわ)
ルチアがこの世界に来てから努力してきたのは、学園での勉強や社交マナーだけではない。彼女が元々持っていたユニークな魔法を密かに磨いてきたのだ。それは、派手な攻撃魔法ではなく、「植物の成長を促進し、土壌を改良する生活魔法」。ゲーム内では「戦闘に役立たない地味な魔法」として低く評価されていた力だ。
「エマ、ディム。ここが私たちの城よ。まず、館の手入れは後回し。領民に会って、この土地の状況を把握しましょう」
ルチアは、かつて王都で着ていた華美なドレスではなく、動きやすいシンプルなワンピースに着替えた。彼女はもう、「悪役令嬢」の仮面を被る必要はない。ここから先は、転生者ルチア・アルベールとして生きるのだ。




