第一章 断罪の夜と新たなる旅立ち
冷たい大理石の床に、ルチア・アルベールの体は崩れ落ちていた。
煌びやかなシャンデリアの光が、彼女の燃えるような赤い髪を照らし、背後には、この国の第一王子であるエドワード殿下の厳しい眼差しがあった。
「ルチア・アルベール!貴様の悪行はもはや見過ごせぬ。聖女リリアへの度重なる嫌がらせ、そして魔道具を用いた暗殺未遂の罪により、貴様との婚約を破棄し、直ちに国外へ追放する!」
辺りを取り囲む貴族たちのざわめきと、囁かれる「ざまあみろ」という悪意に満ちた声。この状況は、ルチアが前世の記憶を取り戻したあの瞬間から、必死に回避しようとしてきた「乙女ゲームの断罪イベント」そのものだった。
ルチアは唇を噛みしめた。どれだけ努力しても、この結末は変えられない。これが、このゲームの悪役令嬢に与えられた運命なのか。
ルチアの視線は、王子の隣に立つ、かつての婚約者、アベル・フォレスト侯爵に向けられた。彼の銀の瞳は、いつも以上に冷たく、ルチアに向けられたのは、憐れみでも怒りでもなく、ただの無関心だった。その無関心が、ルチアの胸を一番深く抉った。
しかし、ルチアの心の中には、ゲームの展開を知っているからこその、ある「希望」があった。断罪された悪役令嬢のほとんどは、辺境に送られた後、ひっそりと暮らすか、物語から忘れ去られる。それは、逆に言えば「ゲームの運命」から完全に解放されるということだった。
「……承知いたしました、殿下。このルチア、謹んで追放の命令をお受けいたします」
ルチアは震える体を叱咤し、気品を保ちながら立ち上がった。
「馬車は既に用意されている。二度と王都に足を踏み入れるな」
王子の冷たい言葉とともに、ルチアは警護の騎士に連行され、学園を後にした。最後に振り返ったとき、彼女の目に映ったのは、安堵した表情の聖女リリアと、静かに目を伏せるアベルの姿だった。




