79:ソフトボール女子たちのお誘い
◇四十日目【7月19日(金)】終業式
■幼なじみの指名
終業式が終わって、体育館から教室に戻ったクラスメイト達は、明日から始まる夏休みの予定について盛り上がっていた。
どこか遊びに行く計画を立てている者もいれば、補習で頭を抱えているやつもいる。
そんな中、おれはと言うと、まったく予定がない。誰かに誘われることもない。
それは去年も同じだったんだけど。
ダミアンは「日中なら大丈夫だろ」と言って、ほとんど学校に来なくなった。
最近、押し入れに閉じこもって夢中でパソコンをいじってる。
飯の時間以外、姿を見ることが少なくなった。
完全にネット中毒の引きこもりだ。
ホームルームが始まるまで少し時間がある。おれは机に突っ伏し、寝たふりを決め込むことにした。
「たっくん、起きて」
……心優か。
呼ぶと同時に体を揺すってくる。
どうしていつも、寝たふりしてるときに限って話しかけてくるんだ。
「なんだよ、うるさいなぁ…… えっ?」
面倒くさそうに顔を上げると、おれは絶句した。
机の周りを五人の女子が取り囲んでいたからだ。
「なっ、何か用ですか。ボク何も悪いことしてませんですけど」
「ボクってなによ、たっくん」
心優が呆れたように言う。
五人の日焼けした女子がおれを見おろしているので、正直ビビってしまった。
みんなよく焼けてるな……
この中にいると、心優が色白に見える。
日焼け止めのおかげだな。
小学生の頃から、おばさんに日焼け止めをベタベタに塗られていたからな。
いまでも習慣で、部活前にはいつもベタベタに塗っているのを知っている。
おれは改めて周囲を見回した。
正面の心優と、その隣にいる美奈代以外は知らない顔だ。
「この人が神木先輩の彼氏ですか?」
背の高いショートカットの子が心優に尋ねると、美奈代が、
「そうだよ、これが心優の旦那」
なんてことをさらっと言った。
それを聞いたソフトボール部の後輩らしき女子達が、キャーキャー騒ぎ出した。
「ち、違うよ! たっくんはただの幼馴染だから! ミナちゃん、やめてよ、そんなデマ流すの!」
心優が慌てて否定する。
まぁ、そうだろうな。
「それで、たっくん先輩。次の月曜日、時間空いてます?」
今度は背の低いおさげ髪の子が聞いてきた。
月曜日はバイトを入れていない。
つまるところ、おれの夏休みはバイトがない日は基本ヒマだ。
おれが頷くと、また女の子達がキャーキャー騒ぎ出した。
「じゃぁ、海に行きましょう、海!」
「えっ……」
次は心優と同じ位の背丈のポニーテールの子が、よりによってこのおれを海に誘ってきた。
困惑して心優を見ると、顔を真っ赤に染めている。
「あっ、あのね。月曜日にソフトボール部のみんなで、海に行くことになったんだけどさ……」
言い淀む心優の代わりに、美奈代がすかさずフォローする。
「ほら、女子だけで海に行くとナンパされるじゃない。だからボディーガードに彼氏を連れて行こうってなったの」
心優があわあわしている横で、美奈代がさらりと続ける。
「それでね、彼氏がいない子は、信用できる男子を誘うことになったんだけど」
心優がうんうんと頷く。
なるほど、話は大体わかった。
心優があまり喋らないのは、後輩女子の前でおれを誘うのが恥ずかしいんだろう。
「何人で行くの?」
「いまのところ九人、掛ける2の予定」
大所帯だな。
水着女子九人と、おれを除けば彼氏が八人ってことだろう。
知っているのは心優と美奈代だけって………
「ごめん、おれ水着持ってないし」
そんなメンバーに囲まれるとか、おれのメンタルが持たない。
「えぇ~、来てくださいよ!」
「先輩が指名したのに、かわいそうじゃないですか!」
「たっくん先輩が来てくれなきゃ、神木先輩に彼氏取られちゃう!」
おれの返事に、後輩女子たちは一斉に抗議の声を上げた。
「いや、あの」
周囲から非難の嵐だ。
おれがおろおろしていると、美奈代の後ろから助け船が出た。
「吉野が行かないんだったら、おれが代わりに行こうか?」
……違った、助け船じゃなかった。
むしろ話がややこしくなる流れだ。
声の主に注目が集まった。
「きゃぁ、サッカー部の人だ!」
「えっ、マジ? 来てくれるんですか?」
「やったぁ!」
心優と美奈代の間に割って入ったのは幸田だった。
後輩女子たちは大喜び。
でも、美奈代は露骨に顔をしかめる。
「幸田、関係無いんだから向こう行っててよ。これはソフトボール部の内輪の話なんだから」
気のせいかな?
美奈代の声にちょっとトゲがある。
さっきまで騒いでいた後輩女子たちは、一瞬で静まり返る。
「どうして? 吉野が行かないんなら人数が足りなくなるだろ。それならおれが行ってもいいじゃないか。なぁ、吉野」
「えっ、あの」
おれはこういう高圧的な相手は苦手だ。
しどろもどろになっていると、美奈代が鋭い視線を向けてきた。
「旦那ぁ、心優が指名したのはあんたなんだよ」
ぐっと近づいた美奈代が、そっと耳打ちする。
「心優に恥かかせるつもり?」
その言葉にハッとして心優を見る。
心優はおれの前で、両手でスカートの裾をぎゅっと握りしめ、俯いていた。
「あの…… スクール水着でもよければ……」
「よし、決まり!」
美奈代が胸の前でパン、と手を叩いた。
「これでメンバー揃いましたね、先輩!」
小柄なおさげの後輩が、メンバー募集の終了を宣言する。
「じゃあ、もうすぐホームルームだから解散!」
美奈代の号令で、後輩女子たちは次々と廊下へ消えていった。
席に戻っていく幸田は、あからさまに機嫌が悪い。
一方で、心優はおれの前に立ったまま、ふわりと微笑んだ。
「たっくん」
こんなに嬉しそうにしてくれるなら、行くことにしてよかった。
微笑んで頷くと、心優はそっとおれの耳元に口を寄せてささやいた。
「予定、入ってないんだったら迷ってないで、すぐに『行く』って言ってよ。後輩の前で恥ずかしい思いしたじゃない。あと、スクール水着はありえないから」
……違った、心優はすごく怒ってた。
「ごっ、ごめん」
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