74:悪魔の置き土産
■パズスの爪
階段を駆け下りると、スーパーの空き店舗の裏口近くは騒然としていた。
警察も来ているらしく、北側の駐車場からはパトカーのサイレンがけたたましく響いてくる。
ダミアンがパズスと戦っているときに、パトカーのサイレンが近づいてくると思っていたが、目的地はここだったのか。
ダミアンがルナの姿に戻ると、おれ達は騒ぎを避けるようにその場を離れ、自転車に飛び乗って帰路についた。
√ パズスは四か月程、人をヴァンパイアにすることは出来ん。その間に貴様の友達をどうするか考えねばな。毎回、やつの魔力が回復しそうになるたびに戦うのも現実的ではない。
ダミアンが自転車の前かごの中から、おれを見上げる。
「美帆さんからパズスを追い出すことは出来ないのか?」
√ 基本的に無理だな。しかし、やつが貴様を『抜け殻』と勘違いしたのは、幸運だったとしか言いようがない。いくらアドバンでも、そこまで間抜けではない。
「あのさ、抜け殻ってなんだ?」
√ 吸血族が浄化された宿主のことだ。そんなことも分からずに、やつとの会話を聞いていたのか?
化け猫は、いつものやれやれのポーズをとる。
ちょっとイラッとするが、助けてもらったので我慢しよう。
「でもさ、抜け殻なんて言葉があるんなら、浄化する方法があるんじゃないのか?」
√ あるぞ。貴様も知っての通り、吸血族の能力を使っているときに、太陽の下に蹴り出してやればいいのだ。簡単だろう?
「それはつまり、吸血族の姿のときか、美帆さんの姿で吸血族の能力を使っているときってことか?」
√ そうだ。だが我々は昼間にそんな危険は侵さん。
「他に方法は?」
√ エクソシストだな。
「エクソシスト?」
√ 悪魔祓いを行う神父のことだ。ほとんどの神父は取るに足らんが、稀に強烈なのがいてな。吾輩も一度、もう少しで浄化されかけたことがあったぞ。 ガハハハ!
こんなやつでも、修羅場をくぐってきてるんだな。
「ところでお前、それ何持ってんだ?」
ふと目に入ったのは、ダミアンが両手に握っている二つの小さな破片だった。
長さ五センチほどで、付箋みたいな薄い形。
でも、半透明で硬そうな材質が妙に気になる。
√ これか? これはパズスの爪だ。これに魔力を込めると――
ダミアンが言い終わる前に、おれは思わず声を上げた。
「うわっ!」
バランスを崩して、自転車がふらつく。
パズスの爪は一瞬にして、一メートルくらいの両刃の剣のような形に変化した。
爪の名残か、若干丸みを帯びてはいるが、鋭さは一目瞭然。
√ さらに魔力を込めると……
爪はブラックライトがあたった蛍光塗料のように、ぼんやりとした光を放ち始めた。
「どうするんだ、それ?」
√ 吸血族の爪など、滅多に手に入らないので拾ってきた。SF映画みたいだろ。
そう言いながら、ダミアンはパズスの爪をぶんぶん振り回し始めた。
「わっ、バカ、やめろ。危ないだろう!」
ふらつく自転車の前かごの中で、ダミアンは剣士気取りだった。
それにしても……
「……エクソシスト、か」
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