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69:闇を裂く羽ばたき

□追い詰められた先に見たもの


 商品ラックの影に身を潜める。

 視線の先、少し離れたラックに美帆さんの姿があった。

 彼女も同じように息を殺しているが、顔が強張っている。


 美帆さんが捕まったら、あの冷蔵庫に監禁されてしまうのか?

 いや、それよりも先に自分の心配もしないと。


 やばいぞ、あのおネェ。


 エヴァに襲われたときは死を覚悟したが、いまの状況はあのときよりも深刻だ。

 もし捕まったら、作田みたいにボロボロにされるのか?


「吉野くん、逃げましょう。こっちよ!」

 突然、手を引かれた。


 おれ達は、足音を殺しながら素早く歩き、男の追跡から逃げた。


「ここで少し止まって」

 美帆さんの声に従い足を止める。

 美帆さんが選ぶ逃走ルートには迷いがなかった。


「こら、どこに隠れている」

 商品ラックに隠れると、男の怒声が響いた。


「こっちよ」

「はい」


 どれくらい逃げただろうか。

 幸い、まだ男とは鉢合わせしていない。


「まぁ~だぁ~?」

 苛立ったような、おネェの声が店内に響く。

 おれ達を追いかけるのは男に任せ、自分はその場で待機しているようだ。


「もう少しお待ちください」

 男の焦ったような声がする。


 声のする方角は、スーパーの出入り口、北東方向だ。

 おれ達が今いるのは、バックヤードに通じる中央の扉の近く。


「美帆さん、バックヤードに行って、窓から逃げましょう」

 ここから中央の通路まで約十メートル、そこから扉まで十メートル、さらに窓まで十メートル。


「そうね。このまま逃げ回るだけじゃ、いずれ見つかるわ」

 美帆さんも、状況が限界に近づいていると思ったらしい。


 扉を開ければ、必ずやつらに気付かれる。

 けど、窓まで一気に駆け抜ければ……


 少なくとも美帆さんだけでも先に逃がすことができるかもしれない。

 助けを呼べれば、まだ望みはある。


 おれ達は互いに目を見交わした。

 そして、中央の通路へ飛び出そうとしたとき、


 バサァァッ……!


 大きな羽ばたきのような音がおれ達の頭上を通り抜けた。

 なんだ?


 思わず天井を見上げたが何もない。気のせいか?


 美帆さんの手を引っ張ってバックヤードの窓まで向かおうと、中央の通路に飛び出したとき、扉の隣に持たれかかっている男と目が合った。


「あらぁ、もうお帰り? もう少し遊んでいきなさいな」


 おネェ!?

 いや、さっきまで売り場の反対側にいたはずじゃ?


「こんなところに、いやがったのか」

 振り向くと20メートルほど後ろにもう一人、さっきの男が立っていた。


「ねぇ、あなた。おいくつ?」

 えっ、このおネェ、おれの年齢を尋ねてるの?


 じろりと視線を感じた。

 つま先から頭のてっぺんまで、舐めるようにチェックされる。


 その仕草と、右の口角をニヤリと持ち上げる表情に、背筋がゾワッとした。

 作田を見て命の危険を感じたが、今は違うことで危険を感じる。


「いくつか訊いてるんだから、早くおっしゃい」


 おネェがちょっとキレた。

 繋いだ美帆さんの手に、ぎゅっと力がこもる。


「大丈夫ですか?」

 頷く美帆さんを確認すると、おれは周囲を観察した。

 幸い、背後の男はまだ距離を詰めてこない。


「やぁねぇ、訊かれたことに答えないなんて。ほんっと、最近のガキは生意気なんだからぁ!」

 扉の横にもたれ掛かっていたおネェが、ゆっくりとおれ達の正面に回り込む。


 そんな……


 おれは思わず息を呑んだ。


 そうか、そういうことだったのか。

 おれはやっとこいつらが何をやっていたか理解した。


 作田はリンチされたんじゃない、作田は餌、いや家畜にされたんだ。


 中央の扉のガラス窓は、バックヤードの中が見えないようにマジックミラーになっている。

 そして、扉の前に立つおネェの後ろ姿は、そこに映っていなかった。


「ヴァンパイア……」

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