57:何も起きなかった五日間
◇二十六日目【7月5日(金)】
■分裂魔球と夏祭りの約束
終わった!
おれは席で思いきり伸びをした。
「くぅっ……」
思わず声が漏れる。
試験官の先生が答案を回収し、ついに期末考査が終了した。
この一週間、エヴァも中原も何も仕掛けてこなかった。
まぁ中原は、今まで積極的に、何かを仕掛けてきたことはないが。
ダミアンの話では、鈴と中原も試験期間中で、忙しくて何もしてこないだろうということだった。
宿主や宿主の親族に悩み事が増えると精神的ダメージになるから動けない――のだそうだ。
このままそっとしておいて欲しいが…… そうもいかないだろうな。
終礼を終え、おれはさっさと帰ることにした。
トイレに寄ってスッキリしたあと校門へ向かっていると、グラウンドから大きな掛け声が聞こえてきた。
もう運動部は練習再開してるらしい。
「よっ!」
突然、背中をバシッと叩かれた。
「痛いよ……」
マジで痛かった。
「あはは、ごめん」
振り返ると、試験から解放された心優が、満面の笑みを浮かべていた。
金属バットを右肩に担ぎ、左手にはグローブをはめている。
こいつ、ボールが入ったグローブで叩いたな。
金属バットで叩かれるよりはマシだけど。
「今から練習か?」
「あははっ、分かる?」
おれは肩に担がれた金属バットを見た。
「分からんほうが、どうかしてる」
「試験期間は、練習出来なかったからね。今日は一週間、構想を練ってきた分裂魔球を試したくてうずうずしてたんだよ!」
試験中に、また変なことを考えていたみたいだ。
「ちなみに分裂魔球というのは、投げたボールが二つ、三つと分裂したように見える、奇跡の魔球だよ!」
なんか、オチが見えてきたな。
昭和のアニメ特集で見たことあるやつだ、これ。
「遊んでると、また大久保さんに怒られるぞ」
「そ、そうかな……でも! もし完成したら、美奈代ちゃんに投げ方を教えてあげたいんだ! バッタバッタと三振取れるようにさ!」
「ちなみにどうやって投げるんだ?」
心優は金属バットを左肩に担ぎ直し、右手でボールを握ると、
「投げる前に、こうやってボールを握って」
心優はボールをワシッと鷲掴みにした。そして腰のあたりでボールを上に向け、
「そんで、こうやって、ボールを握りつぶして変形させて!」
「おいっ」
「え?」
「変形させたら、ルール違反じゃないのか?」
「そうだっけ?」
そもそもお前の握力で、ボールなんて握りつぶせないだろ。
「遊んでないで、早く練習に行ってこい。ほら、ベンチで大久保さんがこっちをガン見してるぞ」
「あっ、ほんとだ! じゃ、行ってくるね!」
心優はベンチに向かって駆け出す。
その姿を見送っていると、心優が突然くるっと振り返って、後ろ走りを始めた。
「たっくん、明日のこと、忘れてないよね!」
明日のことってなんだっけ?
首を傾げていると、
「お祭り! 一緒に行こうって約束したでしょ!」
そう言い残して、心優は一塁側ベンチへ走っていった。
そういや、海馬神社の夏祭りに誘われてたっけ。
★やブックマークで応援していただけると励みになります。




