53:花火と呼ばれた戦いのあとで
◇二十一日目【6月30日(日)】
■アンテナ山と朝のニュース
「おはよう、琢磨」
ダイニングに入ると、姉ちゃんが朝ごはんの仕度を済ませテレビを見ていた。
「おはよう、姉ちゃん」
おれはダイニングチェアにドカッと腰を落とし、天井をぼんやりと見上げる。
「お疲れだね。帰ってくるの遅かったけど、何してたの?」
「ちょっと山登りを」
おれが本当の事を話す気がないと察したのか、姉ちゃんは「ふぅん」とだけ返し、テレビに意識を戻した。
実際のところは、アンテナ山から甲山まで吹っ飛ばされた後、空から目立たないように木々の間を縫って低空飛行で帰ってきた。
なぜ木の上に出なかったのか。
それは、エヴァが去った後、別の吸血族らしきやつが上空を旋回していたからだ。
争いを避けるため、おれ達は低空飛行で山の中を進んだんだけど……
気づけば迷子になり、プチ遭難しかけたのだった。
徒歩だったら遭難してたな――
きっと。
「姉ちゃん、ご飯食べようか?」
返事がない。
テレビに見入っている。
「姉ちゃん?」
「あっ、ごめん」
姉ちゃんが夢中になっていたニュースを、おれも視線で追う。
映し出された風景に見覚えがある。
また近くで吸血事件か――と思ったところで、姉ちゃんが口を開いた。
「昨日ね、アンテナ山で打ち上げ花火をした人がいたんだって。殺人事件が続いて物騒だなって思っていたのに、こんな非常識な人まで出てきて。西港市ってどうなっちゃったのかな」
……花火って、もしかして昨晩の、アレか。
「それでね、アンテナ山で働いている人が、動画を撮ったんだって」
「いぃっ!?」
思わず変な声が漏れた。
あれを至近距離で見られてたのか?
「ほらっ、もうすぐ映るよ」
やばい、顔とか写ってんじゃないだろな。
動画が流れ出すと、おれは胸をなでおろす。
スマホで撮影した動画は粗く、映っているのは、魔力盾や魔力つぶてみたいに光るものばかりで、おれたちの姿は影も形もない。
「……なんか変な花火だよね」
姉ちゃんが口元に人差し指を当て、首をかしげる。
「なにが変なの?」
「だってさ、花火って普通、下から上に上がって、開いたら下に落ちるでしょ。でもこの光の粒みたいな花火は横に飛んでるように見えるんだけど。あと、丸いほうは、開いたあと、なかなか落ちないんだよ」
そりゃ、花火じゃないからな。
姉ちゃんでも違和感に気づくんだから、見る人が見れば何をしているか分かるかもしれない。
いや、ダミアンの仲間なら、この映像だけでエヴァとダミアンの戦いだと見抜くかも。
「みゃぁ」
ちょうどその時、窓からダミアンがひょいっと入ってきた。
「あっ、ルナおかえり。お泊りどうだった?」
「みゃぁ」
姉ちゃんは立ち上がり、ダミアンのキャットフードを用意しにキッチンへ向かった。
ダミアンには、心優の家でエヴァに備えてもらってたんだが。
「で、どうだったんだ?」
√ 何もなかった。
昨夜のエヴァの様子は妙だった。
あそこまでおれ達を追い詰めたのに、急に慌てた様子で何処かに去っていった。
それにもう一人の吸血族も気になる。
あいつはおれ達が戦っているのを見ていた。
問題は、敵か味方かだ。
せめて中立でいて欲しい。
姉ちゃんが、日が差さないキッチンの隅にキャットフードを置いた。
ダミアンが日光を嫌うことに気づいているらしい。
キャットフードをポリポリ食べているダミアンを見やる。
おれの視線に気づいたダミアンがニカッと笑った。
……敵だろうな、きっと。
こいつ友達いなさそうだし。
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