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48:今夜、悪魔が来る!

■結界は張られず、夜が迫る


「なんだってぇ!?」


 シャッターを閉めた薄暗い部屋。

 その押入れで、端正な顔をゆがめダミアンが叫んだ。


 幸い、姉ちゃんは心優と一緒に近所のスーパーに出かけている。

 ダミアンは、可愛らしい白のブラウスと、ふわっと裾が広がった深緑のスカートをまとっていた――

 自分で作ったのか?

 しかもあの端切れで?

 まじでクオリティー高いな。


 今日あったことをすべて話すと、ダミアンは茶化すことなく真剣に耳を傾けていた。


「するとなにか、エヴァに憑依されている女は、お前の友人、つまり悠斗の女ということか?」


「そうだな」

 おれは椅子に腰掛け、押入れに向き直る。


「そしてエヴァに住所を知られ、心優の家の結界も破られたと」


「そうだ」


「……お手上げじゃないか」


 ダミアンは腕を組み、狭い押入れの中でうろうろと歩き回る。

 落ち着きのないその様子に、ため息が漏れた。


「しかも、今晩来るって言ってた」


「マジか?」

「マジで」

 ダミアンは頭をガシガシとかく。


「もう時間がないな」

「お前がなんとか出来ないのか?」

 ダミアンは足を止め、その場にあぐらをかいた。


「その女、鈴と言ったか。そいつを殺してもいいなら戦うのもありだな」

「殺すって……」


「相手はエヴァだ! 手加減ができる相手ではないのだ。たとえ殺す気で挑んでも、勝算はあまりないがな」

 人と猫の体格差は、戦うときに影響が出るって言ってたな。


「じゃぁ、他にエヴァを撃退する方法は?」


「心優の家族に引っ越ししてもらうとか」


「いきなりそんなこと、出来るわけ無いだろ」

 おじさんにそんなこと言ったら、今度こそ心療内科に連れていかれそうだ。


「なら、もう一度結界を張り直すしかないな」

「それだ! どうすればいい?」


「この国の司祭に頼めばいい。向かいの神社にいないのか?」


「……見たこともない」

 そもそもこんな小さな神社に、神主なんているのかさえ不明だ。


「隣駅に、ちょっと大きな神社があっただろ。電話してみろ」


 海馬神社か。

 たしかにあそこはこの辺じゃ大きめの神社だ。

 境内に管理事務所もあったはず。


「わかった」


 さすがは悪魔、頼りになる。

 普段は間抜けだのポンコツだのと心の中でバカにしていたが、改めよう。

 さっそく海馬神社に電話をかけた。


『はい、海馬神社管理事務所です』

 電話に出たのは、年配の女性。


「すみません。家にお祓いをして頂きたいのですが、料金は大体いくらくらいになりますか?」

 まずは金だ。

 金がなければ神様も結界なんて張ってくれない。


『お祓いですね。そうですね…… お供え物と合わせまして五万円となります』

 ご、五万円!?


 一瞬、耳を疑った。

 五万円なんて、うちの一ヶ月分の食費と同じ額だぞ。

 もちろん、バイトをクビになったおれに払えるはずもない。


 姉ちゃんに相談するか?

 でも、なんて言えばいい?


 心優の家が悪魔に襲われそうだから、お祓いをしてもらうなんて言ったら……

 きっと姉ちゃん、心配するぞ。最悪の場合……


 泣かれる。


「あの、お祓い料金って分割払いとか、できたりしません?」

 ダメ元だ。


『そうですね。カードでしたら分割払いも出来ると思いますが』


 やっぱり無理だ。

 学生のおれがクレジットカードなんてもの、持ってるはずもない。


『どこの神社でも、それほど料金は変わらないと思いますよ』

 電話の女性の声は、どこか申し訳なさそうだ。


「すみません…… 今、お金がなくて」

 正直に言うしかない。

 電話の向こうで女性がしばらく考え込む気配がした。


『神主に相談してみます。お祓いは、いつ、どちらで必要ですか?』

 マジか。

 これで問題がひとつ解決する。


 おれは喜び勇んで返事を返した。


「今すぐお願いします! 遅くても日没までに終わらせて頂きたいんですが。場所は友達の家なんです」


『……あの』

 あれ、なんか女性の声のトーンが少し低くなったようだ。


『今、四時ですよ。お祓いには準備が必要ですので、今すぐというのは……』


「そこをなんとか! いますぐお祓いが必要なんです! じゃないと、友達の命が……!」

 気づけば声が大きくなっていた。


『……いたずらですか?』

 えっ?

 女性の声は怒気をはらんでいた。


『こちらも暇ではありません。今後、このようないたずら電話をかけてこられた場合は、警察に通報いたします。よろしいですね?』

 女性はそう言うと、ガチャンと大きな音を立てて電話を切った。


「どうしよう、だめだった」

 肩を落としながらダミアンの方を見ると、呆れた顔で、じっとりとした視線を向けてきた。


「だろうな。金はない、今すぐやれ、場所は友達の家、やらないと友達の命が…… などと言われて信用するわけがないと思うのだが」


「……確かに」

 思わずため息が出て肩を落とした。

 じゃあ、どうすればいい?


「なぁ、エヴァの目的は何だと思う?」


「お前はどう思うのだ」

 逆に問われた。


「心優…… じゃないな」


「心優は人質のようなものだろう。目的は吾輩の命だ。もしくはお前の命。吾輩にとっては、どちらでも同じだが」


 おれが死ねば、ダミアンも長く命を保てないからな。

 それは分かっている。


 心優を人質にして、おれを呼び出そうとしているのかもしれない。


「しかたがない、今晩から吾輩が心優の家に泊まるとしよう」

「心優を守ってくれるのか?」


「但しだ、お前は何があっても家から出るんじゃない」

 おれは強く頷く。


 ダミアンが心優を守ってくれるんなら、これほど心強いことはない。


 それにあんな化け物相手に、おれがいくら足掻いたところで、勝てる可能性なんてゼロに等しい……

 いや、ゼロだ。


「心優と、おじさん達を頼む」

 小さくも美しい悪魔に頭を下げた。


「ふん、心優達に何かあれば、貴様が心身ともに弱るのは目に見えているからな」


 心優は、いとこのような存在だ。

 そして、おじさんとおばさんは、両親を亡くしたおれたち姉弟を本当の親戚のように気にかけてくれた家族に近い関係。


 もし彼らに何かあれば、おれは…… 間違いなく病む。

 その自信がある。


 ダミアンが心優の家族を守ろうとしているのは自身のためだと分かっているが、ダミアンの申し出は本当に有り難い。


 心優のことはダミアンに任せるとして、もうひとつ気になることがある。


「あのさ、悠斗は…… 助けられないのか?」

 ダミアンはつまらなさそうにおれを見上げ、肩をすくめた。


「そっちは大丈夫だ。心配するな」

 返ってきたのは意外な答えだった。


「どうして大丈夫なんだ?」

 単純に考えて、一番危険な状況にいるのが悠斗だと思うのだけど。


「鈴という女は、悠斗とうまくいってるのだろ? もし、悠斗がヴァンパイアになって、鈴の前から消えたとしたら」

 あぁ、そういうことか。


 ダミアンはおれを一瞥すると、

「そう、エヴァは宿主の健康を害させるほど愚かじゃない」

 と言い切る。


「それに貴様の話が確かならば、鈴は眠っているときの記憶があるのだろう? そんな状態では悠斗を下僕にすることも出来ん」


 なるほど、吸血族にとって、宿主の健康が重要だということを改めて理解した。


 ダミアンは言い終わると押し入れに入り、自作の可愛らしい服から貫頭衣に着替えて出てきた。

 軽々と勉強机に跳び乗り、ルナの姿になっておれの腕へと近づく。


√ 腹ごしらえさせてもらうぞ

 そう言って、おれの指にガブリと噛みついた。


 心のなかで、ヒッと叫ぶ。

 すぐに治ると分かっていても、鋭い猫の牙で噛みつかれることには慣れない。


 ダミアンは流れる血を舐めながら、満足げに細い尻尾を揺らしていた。

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