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45:ファーストデート(2)

□笑ってよ、たっくん!


 二人席に案内されると三十歳くらいの女性の店員さんがお冷を置いてくれた。


「いくつ注文されますか?」

 いくつ?


 店内を見回すと「豚まん 一個 百円」と書かれたメニューしかない。

 豚まんの専門店か。


 列に並んだあと、会話に集中してて、店の看板すら見てなかった。


「たっくん、いくつ食べる?」


 心優は目を輝かせながら、他の客が食べている豚まんを見つめている。


「私思うんだけど、ここの豚まん、そんなに大きくないから五個くらいは――」


「やめとけ」

 おれは食べる気満々の心優の言葉を遮った。


「なんでよ! 五個くらいなら」


「あと二時間で昼飯だぞ」

 悠斗たちと昼飯の約束があるのに、そんなに食べたら何も入らなくなる。


「そっか。悠斗君達とランチの約束があるしね」

 分かってくれたようでホッとした。


「すみません。それじゃ私が四個と、たっくんも四個でいい?」

 分かってなかった……


「あの、おれは二個でお願いします……」


 豚まんを食べ終えて店を出ると、中華街はすっかり活気づいていた。

 点心の香ばしい香りが立ち込め、観光客も増えてきている。

 何より驚いたのは、さっきの豚まん屋の前に長蛇の列ができていたことだ。


「有名店だったみたいだね。たっくん、たった二個しか食べてないけど後悔してない?」

「してない」


 確かに美味しかったけど、これから昼飯に行くんだから、満腹になるわけにはいかない。


「ねえ、たっくん。あっちのお店見ようよ」


 心優に手を引っ張られ、雑貨屋兼お土産屋に入る。

 店内にはパンダの人形や、オリジナルキャラが描かれた食器類が並んでいた。

 見たことはあるけど用途が分からない謎の雑貨も多い。


 心優は興味をひかれた小物を手に取っては「かわいい!」とおれに見せてくる。

 その楽しそうな顔を見ていると、特に興味がないはずの雑貨も、なんとなく特別なものに思えてくるから不思議だ。


 三軒目に入ったお店はチャイナドレスを取り扱っていた。

 心優はハンガーにかかったドレスを二着、手に取り、鏡の前でじっと見比べている。


「青いのと赤いの、どっちが似合うと思う?」


 きた。

 ラノベでよくある、デートクエスチョン《どっちの服が似合う?》だ。


 まさかこんなシチュエーションが現実に降りかかるとは。

 しかも婦人服売り場じゃなく、土産屋でというのも想定外だ。


 正直言うと、どっちも似合っている。

 というか、心優なら大体の服は似合う気がする。


「どっちも似合うと思うよ」


 と思った通りに答えると、心優はむくれた顔になった。

 ご立腹のようだ。


「いや、どっちかっていうと青のほうが似合うんじゃ……」

「そうかな? 私は赤のほうがいいと思うんだけど」


 外したか。


「そうだな、言われてみれば、心優には青より赤いほうが似合いそうだ」

「そう? たっくんに言われて青のほうがいい気もしてきたんだけど」


 もう、どっちでもいいんじゃないかな。


 なんてため息をついてると、心優がショルダーバッグから財布を取り出した。


「えっ、お前それ買うの?」

「そうだよ。せっかくたっくんが似合うって言ってくれたんだし」


 こいつ、チャイナドレスなんていつ着るつもりなんだよ?

 半ば呆れていると、心優が泣きそうな顔でおれを見上げた。


「たっくん、お金足りない」


 ……


 おれはチャイナドレスをハンガーに掛け直し、心優の手を引いて店を出た。


 おれ達は西港パークへ急いだ。


 散歩をしようと言っていたのに、中華街で時間を潰しすぎて、気がつけば待ち合わせまで一時間を切っていたからだ。


 それにしても、今日はやたらと周囲の視線を感じる。

 すれ違う人たちが、妙におれたちのほうを見ている気がする。

 となりでは心優がスマホで何やら調べていた。


「ねぇたっくん! 今日は西港パークで、ご当地グルメのイベントやってるって! 早く行こっ!」


 そう言って、心優は小走りになり、くるっとおれのほうを振り返った。

 そのとき、歩道を行き交う男たちの視線が、心優へと向けられているのがわかった。


 あぁ、そういうことか。

 さっきから気になっていた視線の正体は、ワンピース姿の心優に向けられていたものだったのか。


 改めて、おれと心優では釣り合いが取れていないことを痛感した。


 五メートルほど先で、心優が手のひらを下に向けて「おいでおいで」をしている。

 足早に歩いて隣に並ぶと、心優はにこやかに笑いかけてきた。


「ふぅ……」

 気づけば、ため息が漏れていた。


「たっくんどうしたの? 顔、暗いよ」

 心優はすぐ表情を曇らせ、不安そうな顔をしておれを覗き込む。


「なんでもない」


 やはりこいつだったら、おれなんかよりもっとお似合いの相手がいるはずだ。

 ――などと卑屈になる。


 しばらくおれの顔を覗いていた心優だったが、笑顔を作っておれの手を引っ張った。


「ねぇ、笑ってよ、たっくん。せっかくのデートなんだから!」


 おれは心優に引っ張られながら、西港パークへと足を進めた。


「うわぁ、すごい。いっぱい来てるよ」


 西港パークに足を踏み入れると、ずらりと並んだキッチンカーが目に飛び込んできた。


 色とりどりののぼりが風にはためき、週末の賑わいもあって、どの店の前にも人が群がっている。


「たっくん、見て見て! 私あれ食べたい!」


 心優が目を輝かせながら指さした先には、なんとも美味しそうなブランド牛の串焼きがあった。

 確かに旨そうだけど、その分……


「高いんじゃないか?」


「ちょっと値段見てみようよ!」

 心優はおれの手をぐいぐい引っ張っていく。


「千五百円……」

 心優はキッチンカーの前でうなだれた。


「千五百円かぁ」

 さすがにこの値段は、高校生の財布にやさしくない。

 しかも串に刺さってるお肉がちっちゃい。


「まぁ、こんなもんだろ。ブランド牛だし」


「そうだよね。こんな高級なお肉が安いわけないもんね」

 心優はしゅんと肩を落とし、ぼそぼそと呟く。


 牛串のキッチンカーの中から、心優の様子を気の毒そうに見ていたお兄さんと目が合った。


 はははは…… 気まずい。


「元気出せよ。ほら、あっちにお前の好きなから揚げ串、売ってるぞ」

「……!」


 心優はおもむろに顔を上げて、おれの手を引っ張って、ゆっくりとから揚げ串のキッチンカーへ向かった。


 ここの店もかなりの人気らしく、ざっと数えても十人以上が列を作っている。

 おれ達は一番後ろに並んだ。


「すごく美味しそうだね」

「一本三百円か。意外と良心的だな」


 ブランド牛の牛串と比べると、かなり財布に優しい価格設定だ。


「あのさ、私ちょっと」


 心優が急にそわそわしながら、一点を見つめている。

 その先にはタイル張りの建物が。


 ああ、トイレか。


「行って来いよ。買っとくから」


 心優はショルダーバッグから財布を取り出し、おれに硬貨を握らせた。


「ごめんね。これで私の分、お願い!」

「あぁ買っとくから、ベンチ、キープしておいて」

「うん、わかった!東側の海が見えるベンチにいるね」

 そう言うと、心優はトイレに走っていった。


 おれは心優に握らされた硬貨を確認する。


「ん、九百円? なんで?」

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