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27:恋敵?

■揺れる心

 念のため、体の検査も受けたけど、傷ひとつ見つからなかった。


 待合室で待っていた心優は、おれを見るなり目を丸くした。

 腕をつって出てくると思ったんだろう。


 泣き腫らした目に、頬にはいくすじもの涙の跡。

 そんな心優を見て胸が痛んだ。


 結局、診断は「異常なし」。


 姉ちゃんとおじさんは警察に行こうと言ったが、顔見知り同士の喧嘩で、大したケガもなかったという理由で、おれはそれを拒んだ。

 結局、姉ちゃん達は引き下がってくれた。


 ――教室。


「おっかしいなぁ。絶対折れてたと思ったんだよ」


 一時間目と二時間目の間の休み時間。

 心優はおれの席まで来て、不思議そうにおれの左腕をマジマジと見ている。


「おれもそう思ったんだけど、気のせいだったみたいだな」


 なんて、白々しく笑いながら適当にごまかす。

 実際、折れていたのだ。手のひらが反対を向いていたんだから。

 それでも病院では治っていたんだから疑いようがない。

 ダミアンとの血の契約で、おれの体はもう普通じゃなくなってしまった。


 こんなことが世間にバレたら、今まで通りの生活ができなくなる。

 下手すりゃ実験動物扱いだ。

 以前読んだ漫画で、不死身の人間が実験動物にされていたのを思い出した。

 あれは悲惨だ。絶対にバレちゃいけない。


「でも怪我してなくてよかった」

 心優は何の疑いもなく、おれの無事を心から喜んでくれている。


 ――こいつが鈍くて本当に助かった。

 おれはホッと胸を撫で下ろす。


「たっくん」


「ん?」


 心優の声が、急に真剣になる。


 やばい、やっぱり何か気づいたのか。

 おれは思わず心優から目をそらせた。


「たっくん…… いつも私を守ってくれてありがとう」


「いつも? 何のこと?」


 心優を見上げると、付き合いの長いおれでもめったに見ない、優しい笑みを浮かべていた。


「心優……」


 なんだろう、息が詰まる。

 何か、胸の奥が熱い。


 おれが心優から目を逸らせたとき、


「心優、一緒に音楽室に行こっ!」

 心優の友達の福岡芽依の元気な声が飛び込んできた。


 芽依は心優と同じクラス。

 最近よく心優といる、ややぽっちゃりした女の子だ。

 確か、サッカー部のマネージャーやってたっけか。


 次の時間、隣のクラスは音楽らしい。


 ハッとしたように心優は――

「じゃ、じゃぁ、芽依が呼んでるからまた後でね」


「あっ、ああ」 

 心優はおれに手を振って、小走りで教室を出ていった。


 いつもって何のことなんだ?


 窓の外を見て、ため息をつく。

 木の枝にダミアンはいない。

 今日は予定があるらしい。

 自由気ままで羨ましいな、まったく。


「お前らってさ、いっつも仲いいよな」


 後ろから不意に声を掛けられた。

 振り向くと、幸田剛がいた。


 このクラスでは数少ないおれの話し相手で、友達かどうかは微妙だ。


「家が向かいだからな」


 いつも一人でいるおれに、幸田はよく話しかけてくる。

 たぶん、おれを通して心優と仲良くなりたいんだろう。


 いつか心優に告白しそうな、そんな雰囲気を漂わせているので、おれは内心ビクビクしている。


 悠斗から聞いた、心優が10人以上振った話は衝撃的だった。

 特に振られたやつらが、おれに焼きもちを焼いたというくだりが……


「なあ、お前ら付き合ってんの?」

 幸田はそう言いながら、おれの前の席にドカッと腰を下ろした。


 あっ、これマジでおれと心優の関係を気にしている。


「いや、付き合っては…… いない。おれ達…… いとこみたいなもんだしな」

 ボソッと答える。


 ――そう、付き合ってはいない。


 しかし、異性として気にしていないかと言えば……

 どうだろう。いままで家族みたいな距離感だったのに、それが少しずつ変わろうとしている。

 おれは、その変化に戸惑っていた。


 心優には好きな男がいる。

 しかもとびっきりカッコいい男だ。

 と、中学の時、友達に話していた。


「それじゃさ、おれが神木に告っても問題ないよな」


「えっ……」

 心臓が跳ねる。


 幸田は真剣な表情で、おれの目をじっと見た。


「いや、付き合ってないんだから問題ないだろ」


 確かに付き合ってはいない、いないんだけど。


「断られるんじゃないかな」

 思わず、そんな言葉が口をついた。


 たぶん、心優は幸田の告白を断る。


 こいつも見た目はカッコいいが、心優の好きな男は中学の時に好きになったやつだ。

 高校で出会ったこいつじゃない。


 心優が振ったら、こいつも中学んときの奴らみたいに、おれに敵意を向けてくるのかな。

 でも、もし心優が断らなかったら……


 なんてことを考えるとモヤモヤする。

 この気持ちは何だろう。

 不安? 焦り? いや、それだけじゃない。


「もしかして神木は、他に付き合ってる奴がいるのか?」


 やっぱり、それ訊かれるわな。


「いや、たぶんいない」


 幸田はおれをじっと見て、

「わかった」

 と言って、すっと立ち上がった。


 そしておれに背中を向けたまま、

「おれは神木と付き合うから、お前は邪魔するなよ」

 そう言い残して、教室を出ていった。


 おれは机に突っ伏した。


 ……どうして、こうも次から次へとトラブルが起きるんだよ、まったく。

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