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10:情報を欲する化け猫

■見られてはいけない本と、知識欲の獣


 姉ちゃんが会社から帰ってきたので、おれは二階の自室に戻った。化け猫も当然のようについてくる。

 これから姉ちゃんは晩飯を作りながら、いつものように心優とおしゃべりに夢中になるんだろう。


√ おい、もう本はないのか?


 部屋に戻るなり、化け猫は机の上に座って本を要求してきた。


「この部屋に、もう本はありません」


√ 嘘を言うなよ。


「嘘じゃありません」


 実際、おれが持っている本は、すべて押入れに散乱している。


√ 昨夜、お前が持ってきた本を読み終わったあと、このクローゼットの中を調べたのだが。


 ゴクリとつばを飲む。


√ 十冊の小説と、写真集というものを見つけた。題名は…… そうそう、『女教師と放課後のプライベートレッスン』、『美人女子大生の姉は、僕の夜の家庭教師』、『幼なじみの女子高生がボクを寝かせてくれない』、それから……


「わぁっ、ごめんなさい、ごめんなさい!」


 後ろめたさと羞恥心で耳を塞いだが、頭に直接響いてくるので無駄だった。


√ 幼なじみはいいが、姉は感心せんな。


「そ、そんなつもりで買ったんじゃ……」


 化け猫の冷ややかな視線が痛い。心外だ。

 別に姉ちゃんと心優のことを想像して買ったわけじゃない。いや、誓ってない!


 言い訳にはならないが、その、悠斗に勧められて、つい魔が差したというか……


√ 本を持って来い。この国の情報が欲しいのだ。


「そんなことを言われても……」


 両親の部屋か、姉ちゃんの部屋なら何かあるかもしれない。


√ 持ってこないなら。


 化け猫は押し入れに散乱した本をかき回し、やがて二冊の本を取り出した。


 嫌な予感。


 化け猫はやらしい目つきでおれを見た。


√ この本をリビングに持っていくぞ。


 姉と幼なじみ…… これ絶対、姉ちゃんと心優に見られちゃいけない本だ。


 化け猫は前足の肉球で二冊の本を、ポンポンと叩いた。


「ごめんなさい、すぐ持ってきます!」


 おれは早口で謝りつつ、慌ててドアを開け、隣の両親の部屋へと向かった。

 そこには、親父の貿易関係の本と、母さんが好きだったミステリー小説がある。


 持てるだけの本を両手いっぱいに抱えて部屋に戻ると、化け猫は押し入れで丸くなっていた。


「持ってきました」


√ クローゼットの本を片付けて、その本を持ってこい。


 おれは押し入れに散乱したラノベを片付け、両親の本を化け猫の横に並べた。


√ たったこれだけか。さっきも言ったが、もっとこの国の情報を知りたい。


 国の情報?


「あの、情報なら、本じゃなくてもいいですか?」


√ 本以外にあるのなら、それでも良いぞ。


 おれは高校の入学祝いに、両親に買ってもらったノートパソコンを化け猫の前に置いた。


√ これはなんだ。


「これは、ノートパソコンと言って、世界中の情報を見ることができる機械です」


 化け猫はノートパソコンの前にちょこんと座り、首をかしげる。


√ これが国語辞典にあったノートパソコンか。その机の上にあるものの携帯版か。リビングにあった四角い機械に似ているな。


 ……辞書を読んだのは本当らしい。

 しかし、化け猫のくせによく覚えているな。


 電源を入れると、化け猫はパソコンの立ち上げ画面を、キラキラした目で見ている。

 立ち上がったので、おれはブラウザを立ち上げた。


√ うぅぅ。

 化け猫は不快そうな顔をする。


「どうかしましたか?」


√ いや、少し気持ち悪かっただけだ。すぐに慣れる。


 ……パソコンで酔ったのか?

 まあいい。


 気にせず次に進める。


「これで、世界の情報を見ることが出来ます」


 ブラウザの検索窓に、「今日のニュース」と入力してニュースサイトを表示する。


√ なんだこれは。このパソコンで、知りたい情報を読むことが出来るのか?


「はい、音楽を聴いたり、動画を観たりも出来ます」


 動画サイトや、音楽配信ソフトの使い方を説明し、イヤホンの使い方も説明した。

 音が漏れると姉ちゃんが部屋に入ってくるかもしれないからな。


√ 素晴らしい!


 そう言うと、化け猫は英語のニュースサイトを開き、世界情勢をチェックし始めた。


「あのぅ……」


 もう用事はないか訊こうとしたが、尻尾でシッシッと追い払われたので、おれは晩ご飯を食べにリビングへ向かった。

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