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【プロローグ】

――四百年ほど前。


 夜明け前、北イギリスの古城に金属音が響いた――

 少女は古い螺旋階段を上りながら、左の手のひらを前に向ける。

 白い肌、長い金髪、鋭い牙が覗く口元。血のように赤い瞳が、二人の男を鋭く射抜いた。


 キーンッ――

 鋭い金属音が石造りの螺旋階段に響いた。

 老人と、鋭い牙と赤い瞳を持つ男が後退しながら階段を上っていく。


 二人の前にはキラキラと美しい輝きを放つ魔法陣。

 少女が二人に向けた左手の少し先に、直径1メートルほどの魔法陣の盾が展開されていた。

 赤い瞳を持つ男が、ロングソードのように変化した爪を叩きつけるが、盾は微動だにしない。


「おい、てめぇ! どういう了見でわしの眷属を狙うんだ!」


 老人が問い詰めるが、少女は淡々と答える。


「勘違いするな。狙っているのは貴様の眷属だけではない。全員の眷属だ、当然だろう?」


「そんな真似してタダで済むと思ってんのか? 小娘!」


 少女は赤い瞳を細め、冷ややかに老人を見返した。


「私はルールに従って戦っているだけだ。文句を言われる筋合いはないだろう」


 その言葉に、老人の顔が怒りで歪んだ。

 男は目の前に浮かび上がった盾を、もう一度激しく打ち据える。


 カァーン!


 再び鋭い金属音が響く。


「ふふふ、ヴァンパイア風情が。そんな攻撃で、私の盾を砕けるとでも本気で思ったのか?」


 美しい少女の冷たい笑いと嘲りが、螺旋階段に響く。

 螺旋階段の窓の外では、白み始めた空が広がっていた。


「茶番はここまでだ。そろそろ終わらせようか」


 冷酷な笑みを浮かべた少女が、右手のひらを顔にかざす。

 そして横一閃。

 彼女の指先にはヴァンパイアと同じ、ロングソードのような爪が現れた。


 しかし、彼女のそれは青白い光を放ち、ヴァンパイアのものと比べ、ひときわ怪しい幻光を放っている。

 少女が爪先を向けると、ヴァンパイアが盾を展開した。


「ははぁん」


 少女はいやらしい笑みを浮かべ鼻で笑うと――


 バリィン!


 その盾を一撃で砕いた。

 転倒したヴァンパイアに爪先を向けた少女は、串刺しにしようと肘を引く。


「これで、おしまいだ!」


 キーーーン!


 少女の爪は、突如展開された別の盾によって跳ね返された。

 老人が少女に手のひらを向けて嘆願する。


「待ってくれ。こいつはわしの最後の眷属なんだ。こいつが死ねば、わしの眷属はいなくなる。そうなりゃ、また魔力が削られちまうんだよ!」


「そんなこと、知ったことではないな。ぐだぐだ言うなら、ついでに貴様も斬り伏せてやろうか!」


 ヴァンパイアを背に庇うと、老人の瞳が赤く輝き始める。


「ちっくしょー! 何度も姑息な手を使いやがって!」


 老人は瞬く間に50歳ほどのドワーフを思わせる偉丈夫へと変じた。

 手のひらを顔にかざし横一閃。爪先が鋭く伸びる。


「ふん、やっと正体を現したか」


「ここでケリつけてやらぁ! 覚悟しやがれ」


 牙を覗かせ、咆哮しながら斬りかかる。

 少女は軽くかわし、蹴りを放つ。

 偉丈夫は階段を上へと吹き飛ばされ、のた打ち回った。


「そんな攻撃、私に通用するものか!」


「てめぇ、わしにいったい何の怨みがあるってんだ、あァ!?」


 偉丈夫が叫ぶが、少女は目を細めて――


「くくっ、ふははは。理由か? この争いに勝ち、魔力を強化するためだ。──それと」


 少女の赤い瞳が妖しく細まる。

 そしてヴァンパイアに鋭い視線を向け、


「お前が心底嫌いだから、だっ!」


 そう言って殺気を浴びせかけた。


「ひっ」


 小さく悲鳴をあげたヴァンパイアが、大きなコウモリに姿を変え上階へと飛び去る。

 少女は鼻で笑うと、のた打ち回る偉丈夫の横を、ゆっくりと通り過ぎヴァンパイアを追った。


「待ちやがれ、この尼!」


 偉丈夫の言葉を最後まで聞かず、少女は先へ進む。

 そして、塔の最上階へ。


 暗く狭い最上階の部屋。

 ヴァンパイアは迎え撃つ姿勢を取っていた。

 背後からは偉丈夫が階段を駆けあがる足音。


「行くぞ、下等種!」


 そう言って、少女はヴァンパイアに向かって、連続的に突きを繰り出した。

 ヴァンパイアは少女の突きについていけず後退する。

 そして窓際に追い込むと――


「じゃぁな」


 少女が冷たく言い放った。


「やめてくれぇぇぇ!」


 偉丈夫の叫びが狭い部屋に響く。

 同時に、少女がヴァンパイアを窓の外に蹴り飛ばした。


 そこへ朝日が昇りはじめ、蹴り出されたヴァンパイアの体は青白い炎に包まれる。

 そして断末魔の悲鳴があたりにこだました。


 少女は振り返り、偉丈夫を見て――


「ふっ…… はは…… ぎゃっははははは!」


 狂ったように笑い出した。


「ちっくしょ…… 魔力が戻りゃあ、ぜってぇ仕返ししてやらぁ! 覚悟しとけってんだ!」


「クックックッ、何言ってる。お前の宿主――爺さんの寿命はもう尽きるんだ。仕返しなんて出来るわけないだろ。今世は残念だったな」


「この借りは必ず返すぜ。次は必ずてめぇを――」


「そうだな、何百年先かわからないが、また会おう」


 そう言うと、少女は螺旋階段の下に偉丈夫を蹴り落した。

初めての投稿です。

古い吸血鬼伝承をもとに、自分なりの設定でホラー作品を書きました。

吸血鬼たちの恐怖や狂気、そして少しの人間らしさを描きたくて、設定には特にこだわっています。

読んでくださる皆さまに、少しでもドキドキや緊張感、そして楽しさを届けられたら嬉しいです。

コメントや感想もいただけると、とても励みになります。

今後も、吸血鬼たちの物語をじっくり描いていく予定ですので、どうぞお楽しみに。

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