9話
翌日、俺は神殿長の部屋に呼ばれた。用件はこの間の御守りを作る時に、神々が会いにきていたとは本当かを聞きたいらしい。デーンがあの時、後で詳しく話してくれって言ってたし、神殿長にも言っておいた方がいいって判断したんだろう。
「それで、トール様は神々のお姿がお見えになられるのですか?」
「うん、見えるよ。創造神様のデル様が偶に話したいと言ってたよ、でもお忙しいのか会いにはまだ来てないよ。今までに会いに来たのは魔の神様と医の神様、知恵の神様だね」
ネイザンの顔が驚きに染まってる。ネイザンが言うには稀に、本当に稀に神託が下される事があるくらいで会う事はないらしい。歴代の巫女や神子も会った事がある人は、そんなにいた事がないとの事だ。
「トールよ、会いにきたぞ――」
ふいに空気が揺れた様な感覚のあと、デル様の声が耳に届いた。
「おや? 話中だったか……まあよい。トールよ、其方まだ相手のオーラを見る事をしておらぬのか? トールが怪しい奴らに何かされたら、我は何をするか分からぬ、だから今すぐにでもオーラを見る事を勧めるぞ」
「トール様、どうかなさいましたか?」
俺がデル様がいる方向を凝視してるのを、ネイザンが不思議がった。でも俺はデル様のオーラ? って言葉に疑問を抱くのに忙しいのだった。
「……もしかして、神様がおいでになられてらっしゃるのですか?」
「……え、あっ、うん。今、創造神様がいらっしゃるよ」
「……! それでは創造神様を優先していただいて大丈夫ですよ」
俺は頷いてデル様に向き直った。
「デル様、オーラってもしかして色でその人の内面が分かるやつですか?」
「そうだ、オーラを見たいと願えば見える様になる胸あたりに見える様にすると目が疲れなくてすむ。ほら、やってみるといい」
『オーラを見たい』
目を閉じてそう願い、目を開けて周りを見てみる。困惑顔のネイザンを見てみたら、緑と白、少しの銀に紫がかってる。デーンは緑と白と青だった。トラディスとデービットは青と黄だった。
「緑は優しさや調和。白は純粋さや無垢。銀は洗練された心、紫は高貴で神秘的な気質。青は冷静さや誠実的。黄は知的、ひらめき型などだな、他には……」
まとめると、赤は情熱的、怒りやすい、怒ってる時も基本赤。橙は社交的、元気、好奇心旺盛など。藍は思索、直感力、孤独など。黒は悪意、闇を抱えてる、猜疑的、自己中心的など。灰色は無気力、諦め、曖昧など。金はカリスマ、奇跡的な存在、超越した存在など。ピンクは愛情深い、性的興奮など。
俺に覚えててほしいのは黒とピンクらしい、危ない目に合いそうだからだそうだ。俺も危ない目にはあいたくないから気をつけよう。
というか、ネイザンは神殿長としてあったものが備わってるんだな……。あっちでの神殿とか教会の人達って悪い人とかになりがちだけど、こっちの人達はそうそういないのかも。
デル様は少しだけ眉を上げる様な仕草をした。
「トールよ、其方が"人を視る力"を得た事は喜ばしい。その力で己と周りを助けるといいだろう。してトールよ、近いうちに魔のものの大群が現れるだろう。そう伝えるとよい、ではな」
「はい、また来てくださいね」
そう言ってデル様はフッと居なくなった。俺はまた来てほしいと願いながらネイザンに向き直った。
「トール様、創造神様はお帰りになられたのですか?」
「うん、でも気になる事言ってた」
「どんな事でしょう?」
「近いうちに魔のものの大群が現れるだろうって、魔のものって?」
「魔のものの大群……魔物の大氾濫の事ですね。近いうちに起こるのですね……トラディス、王様と王都の冒険者ギルドのギルドマスターに手紙を書くので届けてくれ、他の者に頼ってもよいがトール様の護衛の者が行けば、ちゃんと重く受け取ってくれるだろうからな」
「承りました」
トラディスが騎士の礼をしたのを見たネイザンは手紙を2通さらさらと書き始め、封筒に入れて封蝋印を付け乾かした後トラディスに手渡す。トラディスはその手紙を持ってすぐに部屋を出て行った。
「トール様、出来る限りでいいですので、神様方がお越しになられたり神託があった場合は報告していただけますか?」
「分かった、じゃあ今まであった神様と話した事言った方がいいよね……」
俺はそう言ってネイザンに会った神様達が言っていた事を話した。
翌日、神殿内外で魔物の大氾濫が来るという事で忙しくしているところに、俺は何も出来ないというか何かあったら危ないという事で、第3王子のレーノルドと一緒にいて守られててくださいとの事だ。
という事で神殿内の自室にレーノルドを招いてお茶会をすることにした。
「トール様、お招きいただきありがとうございます。こんな時にお茶会をするのはよくないと思ってましたけど、ぼく達では現状何も出来ませんからね……」
「そうだね……」
俺とレーノルドはズーンとした空気の中にいた。そんな中でもデーンはお茶のセッティングをしながら声をかけてきた。
「トール様、殿下。失礼を承知で言いますね。まだお2人は成人していない守られるべき子どもだからですよ。お2人の仕事は今は守られてる事です。お2人の替えはないのですから……。さあ、お互いの話をしてみてはいかがです?」
「そうだな、……トール様の世界はどういう世界だったのですか?」
デーンの言葉で俺達は空気を変えるため別の話をする事にした。
「俺がいた世界は魔法がなくて、代わりに科学が発展した世界だよ」
「科学とはどんなものなんですか?」
「この世界は魔道具があるでしょ? その魔道具を動かすのは魔石。俺のいた世界では、それと似たものに"電気"ってのがあるんだ。電気で動く道具がいっぱいあって、例えば……ランプとか冷蔵庫とか、あとはこっちにあるか分からないけど、遠くの人と話したり手紙のやり取りをしたり出来る機械があるよ、あとは馬車より早い乗り物があって馬がいらないんだ」
「電気……? 結構似た様な道具があるんですね。馬車より早い乗り物なんてあるんですか!? 馬がいらないとは……とても気になります」
電気はやっぱり分からないか……俺なりにしてる電気とは何かを話した。レーノルドは感心した様に頷く。
「馬のいらない乗り物は車って言って、魔石じゃない動力があってそれを使って動いてるんだ。車は大人なら誰でも運転出来るよ、ただ免許が必要だけどね。車は一家に一台以上ある人もいるよ。車を運転出来ない人達はバスって言って、かなりの人が一緒に乗れるのとか、電車や新幹線っていう遠くの場所まで乗せてくれる乗り物もあるよ」
「クルマ……、一家に一台……っという事は平民でも持ってるって事ですか?」
「ああ、まず日本は王政じゃなくて、民主主義って言って簡単に言えばみんなの事はみんなで決めるって感じかなぁ? 王が全部決めるんじゃなくて、代表者が話し合って決めるんだよ。それに今の日本は平民とか華族とかないよ。みんな平等にって感じだよ。まあ、でもあっちの世界では世界一安全な国って言われるくらいだしね、女性の夜の一人歩きとか、子どもだけで昼間に遊んでても危険じゃないしね」
俺の言葉にレーノルドだけじゃなくデーン達まで吃驚した顔をしてる。あっちでも日本の話になるとそういう顔する外国人いるからなぁ。
「チェリーブロッサム王国はどうなの? 王政なのはわかるけど……。あ! どうしてチェリーブロッサムって国名なの? 何か意味があるの?」
「この国は他の国より、春夏秋冬がはっきり別れてるんです。それぞれの季節に咲く花があり、特に春に咲く"桜"は特別です。だからこの国は、"チェリーブロッサム"と名付けられたんです。それに伴い3大公爵家にのみ夏から冬の花の名前の苗字を名乗っていい事になっていて、それぞれサンフラワー、コスモス、カメリアと名乗ってますよ。他にはこの国独自の王族のミドルネームが1つだと第一子だと分かる事ですかね。ぼくは第3王子なのでミドルネームは3つあります。男女別です。この世界の創造神様は、争いが嫌いなお方なので争いは基本的にないですが、絶対ではありません。種族は獣人、エルフ、ドワーフそして人間です。大昔、4種族が争って創造神様を悲しませた事があり、争いは極力しない様にしようと決めてありますが、国同士での小競り合いなどは許されてます。世界を巻き込む戦争をする事は許されてません。まあ、争い事をしたい人は一定数いますから、絶対的に安全とは言い切れませんね」
こっちにも、四季があるんだ! それにミドルネームが長いと思ったけど意味があったんだね。種族は人間以外にもいるんだ、見かけてなかったからいないのかと思ってた。なるほどねぇ、デル様が大昔に争いを禁止したから平和だけど、絶対的に安全とは言えないし日本より治安は悪いのかも、外国のちょっと治安がいい所に住んでるくらいに思って守られてよう。デル様のお気に入りだからね。
「国花が桜って日本と同じだね! 俺がいた国も四季って言って季節がはっきりしてるんだよ。ミドルネームが長いなぁって思ってたけど意味があったんだね。治安はいいけど絶対ではないんだね」
それから俺達は色々と話していた、そしたら魔物の大氾濫がいつ来るかの話になった。
「デル様が近いうちに起こると言っていたけどいつなのかな?」
「神様の近いはどれくらいの期間の事かは分からないですから、今日起きても不思議じゃないですね」
「昨日の今日で来てはほしくないね……準備とかもあるから最低でも1週間はほしいところだよね。その間に色々出来る事増えるし」
そう魔物の大氾濫の話をしていたら、バタバタと騒がしい足音が聴こえてきた。俺がトラディスに目を向けたら、トラディスが廊下に出ていった。
「何かあったんですかね?」
レーノルドがそう言ったら、トラディスが帰ってきた。なんだか焦ってる?
「トール様。今、冒険者の1人が大怪我を負ってこちらに運ばれてきました。神子様ならすぐに対応してくれるだろうとの事で治してほしいと……どういたしますか?」
「治しに行くよ。レーノルドはここにいる?」
「いや、ぼくも行きます。何も出来ないけど貴方の力を見てみたいです。こんな時に言うのは不謹慎だけど興味があります」
「分かった。トラディス案内よろしく」
「かしこまりました」
俺達は椅子から立ち上がり、トラディスの案内に従って小走り気味に歩く。
すぐに目的の場所に着いた。そこには清潔に保たれてる質素なベッドに寝かされてる男性の冒険者が1人とそれに付き添う仲間だろう人達が3人程いた。
その中の1人がこちらに気づいた。
「み、神子様! お願いです、仲間を治してください!」
「「お願いします」」
俺は大丈夫だと示す様にニコリと笑顔になる。
「大丈夫だよ。今すぐ治すから」
俺はそう言って患者の近くに行って強く願う。
『彼の怪我よ治って!』
すると、男性の怪我が徐々に治っていく。俺は治るまで集中を切らさない様にした。5分程で完治したのか魔力の供給が終わった。俺は両手を下ろし男性の仲間の人達に向き直る。
「これで大丈夫だよ。それでなんでこんな大怪我を?」
「魔物の大氾濫の兆しがあるかの調査の途中で、いつもならいない所に強い魔物がいて、なんとか倒せはしましたが、彼だけ大怪我を負ってしまったんです。魔物の大氾濫は今日中には来るだろうとの見込みです」
なんだって!? 本当に昨日の今日で来るなんて!
そんな時にこの部屋に入ってきた人がいる。
「殿下がこちらにいらっしゃると聞きました! いらっしゃいますか!?」
「! ああ、何かあったか?」
「陛下が殿下をお迎えに行けと言われて来ました。魔物の大氾濫の兆しが現れているので今日中には来るだろうとの事で、安全な場所に避難をとの事です」
「……っ、分かった」
それを聞いたレーノルドは悔しそうな顔をしたがすぐに戻った。彼も何かしたいと思ってはいても現状何も出来ないのを分かっての事だろう。
「トール様、ぼくと安全な場所に移動しましょう」
「……魔物の大氾濫の時に怪我人が出たら治す人が必要だろ? だから俺は残るよ……」
「いけません、トール様!」
俺の言葉に否を唱えたのはデーンだった。レーノルドはなんとなく分かってるみたいだった。
「俺以上の癒し手がいるの? 危険な場所には行かないで怪我人を治す事だけ考えるから危なくないだろ? 最前線に行くわけじゃない1番後ろの安全な場所で怪我人を治すだけだよ」
「ですが何かあってからでは、創造神様になんとお詫びをしたらいいのです!?」
「デーン、トール様の願いを聞くのが1番いいと私は思うよ」
トラディスの言葉にしょんぼりとするデーンだったが、気を取り直したのかキリッとして覚悟を決めた顔をしていた。
「分かりました、トール様がそう決めたのなら、わたしも共にいます!」
これはもう何を言っても聞かないと思って一緒にいてもらう事にした。
俺達はそれぞれの目的の為に別れた。
デル様の愛してる人達をきっと守るよ……。
俺はそう決意してデーンの後に続いた。