8話
聖魔法を込めた魔石を設置した次の日。どうやら、昨日から小さな噴水の水を飲みにくる人が増えていて、主に冒険者が多いらしい、勿論、民も来てくれているけど、比率で言えば冒険者の方がちょっと多いとか。
俺はというと、昨日見習い神官の1人が言っていた「持ち運べる御守り」の事を実現出来ないか、図書室の本を読みながら調べていた。デーン達にも手伝ってもらって、俺が欲しい情報を集めてもらってる。
約1時間程探して、それらしい記述を見つける事が出来た。俺が探していた内容にぴったりなものの他に、これも使えるかも? という内容もあったので、それも追加で本をデーンのウエストポーチに入れておいた。そして先に、彼には必要な物を揃えてもらう様に指示を出した。
俺は自室ではなく、作業室へと向かった。というのも、俺だけが作れる様な仕組みにしてしまうと、後々作る人が育たないし、俺がいなくなって作れなくなったらそれこそダメだよね、って事で今日これから時間が空いてる人を中心に、役職関係なく参加してもらい、技術を共有したい。
今日集まったのは、高位神官2人、神官3人、助祭3人、見習い神官5人、お世話係5人、聖騎士5人、そして俺、デーン、トラディス、デービットの総勢27人。
「集まってくれてありがとう。今日作る物は俺が作れるだけじゃ意味がない。こういうのって、各地の神殿でも作れてこそだと思う。神殿の灯が消えないように、ちゃんと伝えていきたいんだよね。みんな手伝ってくれる?」
俺の言葉にみんなは各々返事や頷きで返してきた。
「じゃあ、まずは俺達が探していたものをみんなで一回作ってみようか。俺もまだ作ってないから試行錯誤しながらだけど」
話してる間にデーンが机の上に御守りに必要な紙、ペン、インク、魔法陣が描かれてる本を並べた。
「まずは簡単な灯を灯す魔法陣で練習してみようか」
そういうとみんな紙とペンを自分の所に手繰り寄せ、本のお手本を頼りに描いていく。俺も紙とペンを手繰り寄せ、本のお手本を頼りに描いていく。
完全な円形ではなくても発動はするが、円形がかなり歪だと発動出来ない様になってるみたいだから丁寧に描いていく。5分もしないくらいで書き終わった。みんなも描き終わったのかペンを置いてこちらを見ていた。
「じゃあ、1人づつ発動出来るか確認しようか」
俺から順に少しの魔力を魔法陣に流す。するとポワッと灯りが灯った。5秒程で消えたが成功と言っていいだろう。次は俺の左に座ってるデーンが試してみたら成功した、次々と試したら発動しなかった人もいれば発動した人もいた。
「んー、魔法陣ってやっぱり描く人によって発動したりしなかったりするんだね……、何かもっといい方法ないかな? 誰か案ある人いる?」
みんなは何か他にあるだろうかと考え始めた。俺も小説とかで見た知識でいいのがないか考える。
5分程考えてたら、突然見習い神官の1人が立ち上がり声を上げた。
「ぁあ! ……すっすみません」
彼はすぐに我に返り周りに謝り椅子に座り直したのを見て、俺は何か考えついたのかと思って声をかけた。
「大丈夫だよ、それで何か思いついた?」
「は、はい。思い出した事があって、学校で習った事なんでのですけど、魔法文字というものがあります」
え? 学校あるんだ! ていうか……。
「魔法文字? ってどんなの?」
「文字に魔力が宿ってる単語が魔法文字です。簡単に言うとインクに魔力をのせるのが魔法文字になります。近年では魔法陣の代わりとして使う事があると言ってました」
「へー、異世界=魔法陣って思ってたから、目から鱗だよ」
「目からう、鱗?」
俺の目から鱗発言にデーンが不思議そうにする。よく見たらみんなも不思議そうにしてる、こういう表現はしないのかな?
「今まで見えなかったものが、はっきりと見えるようになる、視野が広がる、って感じの意味合いだよ」
みんな成る程といった風に頷いている。
「それで、魔法文字の見本? 一覧表? とかそういう本はある?」
「はい、あります。魔法文字見本ってタイトルです」
「トラディスその本持ってきてもらっていい?」
「今すぐにでも行ってまいります」
そう言って席を立ち、図書室へと向かっていった。
俺達はトラディスが戻ってくるまで、どういった文字があるのかを質問して答えてもらった。彼は専攻してた訳ではないらしいので詳しくは分からない事もあった。そこは本を見れば分かるだろう。
それから5分程でトラディスが戻ってきた。手にはちゃんと本を持っていた。その本を俺に渡してきたので中を軽く見てみる事にした。本にはこんな感じで載ってた。
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Exempla Magicae Scripturae
1.Illuma Luxa
【分類】光属性魔法/初級
【効果】一定の周囲へ光を展開し、暗闇を照らす
【応用】視界確保、目潰し
【備考】ランプの魔道具の起動言語でもある
2.Ignis Initia
【分類】火属性魔法/初級
【効果】火種が現れる、燃やす素材に近づけると着火する
【応用】焚き火や暖炉の着火に使用される
【備考】雨天や湿気の高い環境では着かないこともある
3.Flua Aqua
【分類】水属性魔法/初級
【効果】少量の水が出る
【応用】飲用水や手洗い用として使われるが、他にも様々な使い方がある
【備考】純水なので、簡易的な治療や洗浄にも使用可能
4.Circula Manessa Sorvia
【分類】無属性魔法/中級
【効果】魔道具を使い続けられる様に、空気中から魔素を一定数吸収して循環させる
【応用】魔道具の連続使用を可能にし、充填時間を短縮
【備考】魔素が極端に少ない場所では機能しない
5.Exmana
【分類】無属性魔法/中級
【効果】魔法を使えない人の魔力を一定数排出する
【応用】魔力量の異常蓄積による魔障防止
【備考】魔法が使えない人が体内にある魔力の排出を促す
6.Auris Vena
【分類】風属性魔法/初級
【効果】そよ風を起こす
【応用】魔道具で周囲を涼しくする
【備考】非常に静かな風で、攻撃用途には不向き
7.Friga Materia
【分類】氷属性魔法/中級
【効果】凍らせる事なく、生ものを長持ちさせる
【応用】食品や薬品の保存
【備考】氷魔法に分類されるが、凍結効果は持たない
魔道具と組み合わせる事で、効果を長時間持続可能
8.Communia Verba
【分類】無属性魔法/初級
【効果】離れた相手に声を届ける
【応用】魔道具で使えば特定の相手との通信が安定する
【備考】同じ魔道具を持っていないと使う事が出来ない
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辞書っぽいな、分かりやすくて見てて楽しい。最初の方に使い方とかもちゃんと載ってた。
これを元に試しに作ってみる事にした。光を灯す魔法文字を書いて1人ずつ使ってみたら全員出来た。
これなら大丈夫だね! でも、どういう文字にしたらいいかな?
「神子よ、私は知恵の神、コシュケビである。コシュと呼んでくれ。して、何やら悩んでいた様だから来てみた。どれどれ、ふむ……最近出来たものだな。神子の元の世界の言葉をこちらの世界の文字に直せば、問題なく発動出来るだろう。では、私は帰るとする」
知恵の神、コシュ様が突然現れてそう話したらすぐに消えてしまった。
俺は心の中でお礼を言ってデーンの方を向いた。デーンがこちらを向いたので俺が考えたものを纏めてくれた。知恵の神様にも問題なく発動すると言われた事も話したら、みんなこちらを見て驚いた顔で固まっていた。何か変な事言ったかな?
「えっと、みんなどうしたの? 俺何か変な事言った?」
「……い、いえ、変ではないのですが。……っ、えっと、知恵の神、コシュケビ様から神託があったのですか?」
最初に我に返ったのはデーンだった。
「いや、さっきここに来て俺の疑問に答えてくれたよ。これが神託なら神託なんだろうね。他の神様にも会ってるよ?」
俺の言葉にデーンの目が落っこちそうなくらいに見開いてる。大丈夫かな?
「スゥーッ……ふぅーっ……、後で詳しく話してくださいね? 皆さん、今はこちらを優先しましょう」
デーンの言葉にみんながおずおずとだが頷いた。デーンが俺の考えた言葉が書いてある紙をみんなで見やすい位置に置いた。俺は分からないなりに後で聞かれるだろうからと彼の言った通りにまずは御守りを作る事が先だね。文字は18種類あるから1人1種類書いてもらって、残りの人は御守りの小さい巾着袋を作る人と飾りの刺繍をする人に別れて作業を始めた。俺も作業していった。
2時間、休憩ありで、魔法文字は全部で90枚書けた、本当はもっと書けるけど御守りの袋や刺繍を作る方に周ってもらった。袋や刺繍も全部90個ずつ作ったよ。袋の中には紙と小さめの屑魔石を2、3個入れて袋を締める紐を通した。今日はこれで終わりだけど、明日から少人数からでも作る人を集めて作ってもらう事にした、俺もたまに手伝うよ。御守りは早速明日から頒布を開始するよ。
「今日はもう終わりにしようか、明日から御守り頒布よろしくね。じゃあ、解散」
それぞれ俺に声をかけて部屋を出ていった。それから神訴をちょっとしたりして今日は終わった。翌日、早速。神の加護を胸にお帰りになった方がいた。それが最初は1人、2人だったのが10人以上の訪れがあり、神殿内はてんてこ舞いになった。この時に俺が出てくるともっと混乱してしまうと言う事で、俺は行く事は叶わなかった、その後、混乱が治まったと見習い神官が言いに来てくれた。だけど今日1日は大人しくしていようと思う。デーンもそうした方がいいだろうと言ってくれた。
何もしないのもダメだろうと思って、今日は御守りを作る作業をしていようと、作業部屋に行くとなんとかなりの人がいた。
近くの人に何でこんなに人がいるのか聞いたらなんと、あの民があんなに一気に来た事があまりなかったから、今はまだ大丈夫だが明日もまた同じになるのでは? と思ったらしく御守りを出来るだけ作ろうとなったらしい。その話を聞きながら俺も御守りを作っていった。
今日は御守り作りで終わった。デーンが言うには明日も今日と同じだろうとしばらくは表に出ない様に言い含められた。