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6話

 治療院に行ってから一週間後の朝、王城からの使者と騎士が数人訪れた。

 神殿の門を静かに潜ったその人達は俺の前に使者が立ち、騎士達はその後ろに控えている。

「お初にお目にかかります。わたくしは国王陛下のお言葉を代読いたします、宰相直属の筆頭書記官でございます。神子様に、陛下より謹んでお伝えしたい事がございます。お時間を賜れますでしょうか」

 筆頭書記官だという人の声音は穏やかで礼を尽くしているが、その言葉の一つ一つには、王としての敬意と正式な外交の場である事を告げる重みが込められてる様だ。

 騎士達は言葉を挟まず、前方に視線を向け静かに控えている。

 この人達は俺に用件があって城から来たって事でいいんだよね? どんな用件かは聞いてみない事には始まらないから聞いてみる事にした。

「大丈夫だよ、神訴までは時間があるし。そちらの話を聞かせてくれる?」

 俺がそう口にすると、筆頭書記官は手に持っていた、淡く光を帯びた魔法高級紙、王城からの正式な書状であることを示す、巻かれたまま丁寧に封じられたそれを胸の前に持ち直し、くるりと音を立てて開いた。そして、儀礼に則ったゆったりとした口調で読み上げる。

「それでは、国王陛下ご意向の公式文書を代読いたします。……神子におかれましては、日々の御努め誠にご苦労のほど、心より感謝申し上げる。貴殿の清き御心と、神々の御加護のもとにある御働きは、王国にとって限りなき福音である。この度、貴殿との対面を賜りたく、我の使者を遣わす次第である。つきましては、本日昼頃、王城にて御対面の栄を賜れれば幸甚に存ずる。……以上が陛下からのお言葉にございます」

 そう言い終わると公式文書を持った手を下ろすとこちらをみてきた。

 話を聞く限り王に会って話をしようじゃないかと言ってるのか。ただ話すだけ? 神子って存在がどんなものかとか、俺が国にとっていい存在かどうかをみたいのかも。今日の昼頃会いたいって事みたいだしチャチャっとデーンに手伝ってもらえばいいか。

 あ、俺1人で行くのかな? 出来れば護衛としてトラディスはいてほしいな。デーンは連れてけないかな? そこの所聞いてみよう。

「王に会うのはいいけど、世話係のデーンと出来ればこちらの護衛を1人連れて行く事は可能かな?」

「はい、勿論可能でございます」

 俺はそれを聞きニコリと微笑み立ち上がる。

「少し準備するから、ここで待ってて」

筆頭書記官達は軽く頭を下げると、部屋の隅に静かに控えたのを見た俺は、デーンに服の裾や髪を整えてもらう間にこう口にする。

「……あ、デービット。今日は用事が入ったから神訴はできそうにないって、代わりに伝えておいてくれる?」

「はい、承知しました」

 今日はトラディスを護衛に、デーンを補佐として連れて行くことに決めた。

 デーンが離れたので準備出来たのだろうから筆頭書記官に声をかける。

「お待たせ、それじゃあ案内お願いね」

 そうして馬車に乗り王城まで5分程度だった。


 玉座の間には、王の私を含め数人だけが控えていた。宰相のウィードは当然として神子と歳が近い第3王子のレーノルドもいれば神子は緊張しないのではないかと慮っての事である。

「神子様のおなーりー」

 呼び声に私は入り口へと目をやる。姿を現したのは10才程の少年。その子が神子だろう。彼の斜め後ろに控えてるのは世話係だったはずだ、その隣には護衛の聖騎士が従っている。

 過度な緊張はしていない様だ、かといって軽んじた様子もない。彼は嘘くさい笑顔ではなく心からの笑顔だと見ただけで分かる。その笑顔は、民に寄り添える人物の証に思える。神に選ばれし者とは、かくあるべきか。

 彼は私の2m近くで立ち止まった。立つ姿は洗礼されてる訳ではないが、だからといってだらしない訳ではない。

 これが神子、か。私としては彼がこの国の未来をいい意味で変えてくれるなら歓迎しよう。


 俺は思わず王の顔を見上げてしまった。王様っていつも豪華な王冠を被ってるものだと思ってたけど違った、偏見ってよくないな。王の立ち振る舞いはそこに居るだけで威厳があるのが分かる、だけど俺を見る目は柔らかだ。髪は茜色のミディアムくらいで、瞳の色は若草色だ。王族って金髪に青眼だと思ってたけど、やっぱり偏見ってよくないな。

 目の端に他にも人がいるのが見えたからそちらに目を向けたら男性が1人と俺と同世代くらいの男の子が1人多分王子だな。男性の髪は赤茶色にローポニーテールだ、瞳の色は水浅葱色だ。王子の髪は藤色でショートだ、瞳の色は王と同じだった。

 男性が口を開いた。

「ようこそお越しくだいました、神子様。こちらにおられますのが、我が国の国王陛下、ジェイエル・ウィティ・チェリーブロッサム陛下でございます。わたしは宰相、ウィード・ソールドロックと申します。そしてこちらにおられますのは陛下の子息、第3王子のレーノルド・チェース・ロウエル・バーミント・チェリーブロッサム様です」

 ……名前、長っ! 2人分の名前全部言われたけど、正直一回じゃ覚えきれないな。メモ取りたくなった。王族って名前長くないとダメなの? 特に第3王子。ミドルネームに意味があるのかな? うーむ、分からないから後でデーンに聞こう。

「神子様、今日お招きしましたのは、神子様が我が国の未来を慮るお方か、そして陛下と友好的な関係を築いてくださるのか判断したいと思った次第です」

「神子よ、よく来てくれた。私の事はジェイエルでよい。ウィードが言った様にこの国の未来を思い共に民を導いてくれたらと思っておる。神子よ其方はどう思っておる?」

 なるほど、俺がこの国にとっていい存在かどうかを聞きたいんだな。

「俺は創造神様に選ばれてここに居るんだ。でもだからって偉ぶったり威張ったりはしない、選ばれたからには創造神様が愛しんでるこの世界を、俺は俺なりに愛しみたいと思ってる。だから、王、ジェイエルと共に民を導くというのはこちらとしてもお願いしたい」

「では敵対はないと思ってよいと?」

 ジェイエルのその言葉に俺は頷いて答える。

「うん、でも間違ってると思ったらその時はごめんね」

「ハハハ、それは私もだ。其方が間違ってた場合は私もそうしよう」

 ジェイエルは俺の言葉に声を出して笑った。その笑った感じが俺は受け入れられたと思えた。

「……フフ、ん、んんっ! では神子に聞きたい事は終わった。ご足労だった、神子よ最後に私の息子、歳の近い子同士のレーノルドとも仲良くしてくれないだろうか?」

「うん、いいよ。……レーノルドだっけ、俺はトール・スメラギよろしく。俺は10才だけどレーノルドはいくつ? 12、3才くらい?」

「レーノルドで合ってますよ、神子様。ぼくは13才になります。よろしくお願いいたします」

「13才かー、本当に近いね。俺の事はトールって呼んでよ、ジェイエルとウィードも」

 俺は本当は三十路のオジサンだけどこの身体になってからは年相応? ちょっと大人? な側面も持ってるからレーノルドと仲良くなれそうかも。王族の子って小さい時から色々と教養とか礼儀作法とか厳しいイメージだし。俺がその歳の時はゲームとか遊び呆けてたからなぁ。まあ、なんにしろ仲良くできたらいいな。デーン達からの目線だけだと偏るからレーノルドの目線でこの国の話を聞けたら嬉しいな。これから共にいい未来を描けるだろうか……楽しみだな。

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