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4話

 翌日、朝の支度をデーンに手伝ってもらい、お祈りをして朝食を済ませたら、デーンに促されて神殿の外へと足を運んだ。朝の光がまだ柔らかく、神殿前の石畳の路地に落ちる光が温かい。外には既に一台の馬車が待っていた。

 デーンに手を引かれて馬車に乗り込むと、彼も続けて乗り込み、扉がしっかりと閉められる。窓の外にはトラディスとデービットがそれぞれ馬に跨り、馬車の左右で警護する様に並走していた。護衛付きの外出というのは少し物々しい気もしたが、俺が神子であり続ける限り逃れられないと実感もしていた。神様のお気に入りに何かあってからでは遅いのだ。

 神殿エリアを抜け一般市街地だろう所を通る。朝の市街地は既に動き出しており、通りには買い物に出る人や掃除をする人などの姿があった。民家は神殿周辺に比べると質素だが、どこか温もりがあり、洗濯物が揺れる窓辺や、遊びに飛び出してくる子ども達が微笑ましい。今は俺も子どもの姿だが……。

そして前方にあるのが治療院だろう白い壁の建物が見えてきた。

「あれが治療院?」

「そうですよ、もう着きますね」

 あれがそうらしい、確かに治療院って言われたら納得する作りだ。人々が暮らすこの街の、まさに一角。病に悩む人々がそっと足を運ぶ場所が、もうすぐそこだった。

 治療院が見えてから、ほんの1分もしないうちに馬車はその前に停まった。

 扉の近くには、1人の人物が静かに佇んでいる。落ち着いた雰囲気の衣服と、その立ち姿からして、おそらく治療院の関係者なのだろう。

 俺が馬車から降りると、その男性が歩み寄ってきた。

「神子様、ようこそお越しくださいました。今日は私が中を案内させていただきます。治療院院長ロイド・ユービリィヤでございます」

 男性は治療院の院長だった。俺も自己紹介をして治療院の中に案内される。

 一歩中に入ると、まるで外の喧騒が嘘だったかの様に静寂が訪れた。小さな音でさえ、大きく響く様な気がする。辺りには、消毒薬や乾いた薬草の微かな匂いが漂っている。壁は白く塗られ、余計な装飾は一切ない。大きめの窓からは自然光が柔らかく差し込み、空間を明るく照らしていた。通り過ぎた場所には、木製の長椅子が数脚、壁際に並んでいる待合スペースが見えた。

 1階の奥に院長室があって俺達は中に入って行って俺と院長がソファに座った。

「今日はお越しくださりありがとうございます。まず治療に入る前にここの説明をさせてください」

 院長がそう口にしたので俺は頷く。

 要約すると。

 1階に受付、待合スペース、簡単な診察室、院長室がその他にも細々とした部屋があるらしい。2階は一般病室があり、4人部屋が6室、6人部屋が4室、8人部屋が3室、小規模の処置室などがあるらしい。3階は貴族やお金持ちの人用の個室が8室、王族や神子用の特別個室が2室、魔法や祈祷の部屋や、看護師の詰所や休憩スペースもあるらしい。4階は薬草や魔道具の保管庫や倉庫、治療師や看護師の仮眠室、通いのスタッフ向けの控室があるらしい。

 今、怪我や病気で収容している人数は35人くらいだそうだ。

 話を聞いていたら、見知らぬ人、多分神様がいた。白髪に金の瞳の持ち主で渋い紳士、白い治癒師っぽい服装の出で立ち。

「神子よ、聖魔法を使う事を考えてくれて感謝する。わたしは医の神ヌマイラシィだ、ヌマと呼んでくれ。神子の聖魔法はみなと違って思いの力で治す事が出来る様になってる。思いが強ければ強い程治るぞ、ただし死者を蘇らせる事は出来ないから気をつける様に。ではわたしは行く」

 ヌマ様はそう言って消えてしまった。やっぱり神様がいた事に気づいてない様だ。

「出来れば重症者から治していただきたいのですが、神子様は昨日聖魔法を使われたと聞きましたので軽傷者からお願いできますか?」

「はい、それでいいよ。あ、でもこれだけは最初に言っておくね。平民も貴族もどちらも等しく命の重さは同じと考えてるからそれでもいい?」

「はい、勿論でございます。神子様の御心のままにしていただいて構いません」

「じゃあまずは慣れてないから比較的軽傷者から案内して」

 俺達は院長の案内で2階に移動して最初の患者の元に来た。その患者は院長が来て嬉しそうにしたが俺達を見て誰だろうと疑問に思って首を傾げていた。

「調子は変わりないですか?」

 院長が穏やかに声をかけると、患者は頷いて「昨日よりは少し楽です」と答えた。

「それはよかった。……今日は特別なお客様をお連れしました。こちらの方は、神子様です」

「み、神子様……!?」

 患者が目を見開く。俺は軽く笑って手を振った。

「こんにちは、神子って言ってもただの人だから、そんなに緊張しなくていいよ」

 そう言うと患者は戸惑いながらも少しだけ笑顔を見せた。

「貴方の怪我を治すために来たんだ。少しだけ頑張ってくれる?」

「……はい、お願いします」

 そうして、俺は初めての治療に取り掛かる。

「この方は転倒して腕の骨にヒビと腫れがあります。ポーションでは治癒しきれず、痛みも続いていて、動かすと苦しいが安静にしていれば生活は出来る程度です。……神子様お願いします」

 院長が患者の腕の包帯を取って患部を見せてくれる。俺はその患部に両手を触れない様にかざし、怪我が治る様に思いを込めてこう口にする。

『打撲とヒビよ治れ』

 今日も俺の周りを金と銀の光がクルクルと回って3分くらいで消えた。ちゃんと治ってるかと両手を避けて患部を見てみると腫れが治って(おさま)いた。

「治せたと思うんだけど、どう? 治ってるかな?」

 患者は治った場所を見てそれから俺を見てまた治った場所を見てと2、3度繰り返したら、恐る恐るだが怪我していた方の腕をゆっくり動かした。俺が見た感じ痛がる様子もなくちゃんと動かせてるから成功だろう。

 すると黙っていた患者が少し大きな声で感謝を述べてきた。

「凄い! 治ってる! 痛くない! 神子様、ありがとうございます!」

「それはよかった」

 患者の喜びの声に、付き添っていた治癒師と院長も表情を綻ばせた。

「本当に、たった一度の魔法でここまで……。神子様、ありがとうございます」

 院長がお礼を口にする。治癒師もそれに続いた。

 俺は少し照れくさくなって笑いながら答えた。

「ううん、まだ1人目だから……」

 だけれども胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。やっぱり、誰かの役に立てるって嬉しい。

「じゃあ、次の人の所に行こうか。……まだ、結構な人数いたよね?」

「はい。次の人も軽度の病気の方ですが、長く患っておられるので、神子様のお力がきっと励みになるかと」

 俺はコクリと頷き、患者に改めて声をかけてからその場を後にする。

「では、お大事に……」

 次の患者は軽度の病気の子どもだった。ベッドに横になってるすぐ隣には母親だろう女性がいる。

「院長先生、そちらの方は?」

「こちらは特別なお客様で神子様です。息子さんの風邪を治すために来ていただきました」

 俺が神子って事に患者の母親は吃驚している様だ。

「君の病気を治すために来たんだ。少しだけ頑張ってくれる?」

「うん、頑張る……ケホケホ」

 そうして、俺は治療に取り掛かる。

「この子は、風邪が長引いた影響で熱が下がらず、咳や倦怠感が続いている。薬草では一時的な回復しかなく、根本的な体調不良は残っていますね。……神子様お願いします」

 俺は胸辺りに両手を触れない様にかざし、病気が治る様に思いを込めてこう口にした。

『熱が下がり、咳、倦怠感よなくなれ、風邪よ治れ』

 俺の周りを金と銀の光がクルクルと回って3分くらいで消えた。ちゃんと治ってるかと顔を見ると患者の顔色が良くなっていて咳もしなくなっていた。

「治せたとおもうんだけど、どう? 治ってるかな?」

 患者は吃驚した顔をして身体を手でペタペタ触っている。

「全然つらくないし、咳も出ないよ。怠くもないし、神子様って凄いんだね!」

「まあ! 神子様、息子を治していただきありがとうございます」

「いえ、どういたしまして」

 患者の無邪気さに照れたがちゃんと返事を返せただろうか?

「じゃあ、次の人の所に行こうか……?」

 次の人の所へ行こうとしたら廊下が騒がしかった。聞いているとなんと貴族の使いの人が何か言ってる様だ。

「院長様! 院長様! こちらにどんな怪我や病気を治すお方がいらっしゃると聞きました! 私のお仕えする坊ちゃまを治してください! お願いします! 院長様!」

 俺はそれを聞いて行ってあげたいけど順番を待って欲しいから、一歩前に出てこう口を開く。

「貴族のお使いのお方、俺はまだ使い始めたばかりの魔法だから不安があって軽い症状の方から見ているから順番を待っててくれるかな? 必ずみんなの所に行くから待っててほしい、いい?」

「……勿論でございます! 見ていただけるなら、お待ちしています! お騒がせして申し訳ございませんでした」

 俺の言葉に冷静になったのか頭を下げてお詫びを口にしたあと去って行った。

 そのあと俺達は軽傷の患者の元を訪れ治していった。

 次は中程度の怪我をした人だそうだ。

「この方は建設作業中の事故で足に重傷の骨折と裂傷があります。既に2週間寝たきりです。後は感染症になりかけています。これもポーションでは対応出来ませんでした。……神子様お願いします」

 院長が患者の足の包帯を取って患部を見せてくれる。俺はその患部に両手を触れない様にかざし、怪我が治る様に思いを込めてこう口にした。

『裂傷と骨折よ治れ』

 俺の周りを金と銀の光がクルクルと回っているのを意識の外に出して集中する、6分くらいで光が消えた。汗をかいてしまったが治ったか気になって患部を見たらちゃんと治っていた。

「治せたと思うんだけど、どう? 治ってるかな?」

 患者は足を触って少し動かしてみたりしていた。

「痛くねぇ、神子様ありがとうございます!」

「あんた、よかったねぇ、神子様ありがとうございます」

「どういたしまして」

 患者の奥さんだろう人も感謝を述べてきたから笑顔で返事しておいた。

「じゃあ、次の人の所に行こうか」

「神子様その前に汗を拭かせていただきますね」

 デーンがそう言って汗を拭いてくれた。

 そして次の患者の所へ向かった。

「この方は胃腸の病気で長期の体力低下、食事が取れず衰弱気味です。薬草での回復が追いつかず、身体が弱りきっています。……神子様お願いします」

 俺は胃腸の辺りに両手を触れない様にかざし、胃腸が治る様に思いを込めてこう口にした。

『胃腸よ治れ』

 俺の周りを金と銀の光がクルクルと回って6分くらいで光が消えた。治ったかみてみようと顔を見たら、青白かったのが程よく赤く色づいていた。

「治せたと思うんだけど、どう? 治ってるかな?」

「神子様ありがとうございます。なんだか元気になった様な気がします」

「ならよかった、では次の人の所に行こうか」

 次はちょっと前に騒がせた貴族の患者だった。

「この方は呼吸器系の病気で、胸が苦しく発作的な咳が出る様です。継続的な衰弱に苦しんでいます。治癒師達でも治す事が出来なくて、咳を止めるくらいなのです。……神子様お願いします」

 俺は胸辺りに両手を触れない様にかざし、病気が治る様に思いを込めてこう口にした。

『胸の苦しみよなくなれ、咳よ治れ』

 俺の周りを金と銀の光がクルクルと回って6分くらいで光が消えた。治ったかみてみようと顔を見たら、咳が止まっていた。

「治せたと思うんだけど、どう? 治ってるかな?」

「はい、胸が苦しくありませんし、咳も出なくなりました。神子様ありがとうございます」

「治ってよかったですね、坊っちゃま! 神子様ありがとうございます」

「どういたしまして……では次の人の所へ行きましょう」

 そうして俺は中程度の怪我や病気の人を治し、重傷者は今の所は居ないみたいだから全員見たと思う。休憩のために一旦院長室に行く途中で患者やその家族は勿論、治癒師や看護師まで俺の事で盛り上がっている。

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