2話
一方、チェリーブロッサム王国王都、神殿内。神殿では朝のお祈りの時間に突然明瞭な声が聞こえてきた、それは神の声だと直ぐに分かった。
――我は創造神バネロッサデルフィである。今日の夕方異世界からの神子を遣わす。我の愛し子である神子を丁重に扱う様にするのだ――
神の声が静かに響き渡り、空間が再び静寂に包まれる。
神殿長はその余韻に浸る様に目を閉じたまま深く息を吐いた。胸の奥で、その言葉の重みが静かに沈んでいく。神殿長は重く受け止め静かに口を開く。
「……承りました」
低く、しかし確かな声でそう答えると、彼はゆっくりと顔を上げた。衣の裾を正し、神前から立ち上がる。
「皆、聞いてくれ。今、創造神様からのお言葉を聞いたな? 神子様を迎え入れる準備をしてくれ、夕方までしか時間がない急いで取り掛かってくれ。では、これで解散としよう」
そう彼が言うと神殿関係者は自分の役割を果たそうと動き出す。
そんな中神殿長は口を開いて3人の名前を呼ぶ。
「デーン、トラディス、デービットは小生についてきてくれ」
彼に呼ばれたデーン・ロルクスは人を器用に避けながら小走り気味に神殿長のネイザン・アルバコフに近寄る。
トラディス・コーンローとデービット・ブルストローは器用に人を避けて通り早足で近寄る。
「お呼びでしょうか、神殿長」
3人の内の1人、デーンがそう彼に答えた。すると彼は、自分の後についてくる様に指示を出し、ゆっくりと歩き出し礼拝堂を後にする。後ろの礼拝堂の真ん中に小さな光の玉が静かに浮かんでいた。
4人は神殿長室でソファに座りネイザンが話そうとしている。
「3人を呼んだ訳を話そう。薄々気づいてると思うがこれからおいでくださる神子様の世話係をデーンに、護衛にトラディスとデービットを主として任せたい、と思ってる。どうだろうかやってもらえるか?」
「世話係の件承りました。わたしにお任せください。神子様のお世話を精一杯させていただきます」
先に口を開いたのは世話係を任されたデーンだった。そのあとからトラディスとデービットも頷きやる気を見せた。
「神子様のお命を私達でお守りさせていただきます」
「わたしも微力ながら務めさせていただきます」
デーンは両手を胸の前で組み祈るポーズで答えた。
トラディスとデービットは右手を左胸に持っていき拳でトントンと軽く叩く騎士特有の動作をする。
それを見たネイザンは満足そうに頷いた。
「では各自神子様が来るまで用意をお願いする」
「はい、では御前を失礼します」
デーン、トラディス、デービットの3人は神殿長室を出て行った。
その後ネイザンは時々来る人達への指示出しをしていた。
その頃デーンは自分以外の神子の世話係を数人選び、神子の部屋予定の場所に行き部屋の内装の指示出しをしていた。トラディスとデービットは自分達以外の神子の護衛役を数人選び、これからの事を話し合っていた。
それぞれがそれぞれの役割を果たそうと夕方まで動いた。
そして夕方近くなると神殿関係者全員が礼拝堂にいて人一人分の大きさの光の玉が脈打つ様子を今か今かと見ている。
一層強く脈打ったその時白い靴が見えた、そして身体全体が見えて、トールが現れた。
礼拝堂に集まった人達はトールが現れた瞬間一斉に歓声をあげた。だが驚いたトールを見た人達は直ぐに静かになり片膝をつき両手を組み祈るポーズをした。光の玉はトールが現れたら自然となくなっていた。
光の中を歩いていたら突然光が消え前を見ると天井から差し込む光はただの陽光じゃなくて神の祝福そのものの様に輝いていた。俺はなぜ神の祝福なのだと思ったのかは直感によるものだ、デル様とあった時と同じ雰囲気を感じたからかもしれない。そう思ったのも一瞬の事で歓声が聞こえて吃驚している間に、その場にいる人達が片膝をついて祈るポーズをしていたので、口が半開きのまま固まっていたら、この中で一番偉い人だろう人がその場で片膝をつきながら口を開いた。
「ようこそおいでくださいました神子様。小生はこの神殿の神殿長をしております。ネイザン・アルバコフでございます。質問などございましょうが今日はもう夕方ですので食事を用意してますのでそちらを食べていただいて、湯浴みをしたら明日話し合いの場を設けますので、今日はゆっくりとおやすみいただけたらと思いますがいかがでしょうか?」
やっぱり偉い人で神殿長のネイザンさんらしい。詳しい話は明日と言うのでお言葉に甘え様と口を開く。
「ありがとうございます。お言葉に甘えたいと思います。俺はトール・スメラギと言います。これからよろしくお願いします」
「トール様ですね。よろしくお願いします。こちらデーンと申します、神子様のお世話係です、何かありましたらこの子になんでもおっしゃってください。ではデーン、神子様をお部屋へ案内して差し上げてください」
ネイザンさんが隣の人へ顔を向けデーンさんって人にそう促す。デーンさんが返事をしたら、ゆっくりと立ち上がりこちらに近づいて来た。
「神子様、わたしがお世話係として務めさせていただきますデーン・ロルクスと申します。以後お見知り置きを。ではお部屋へ案内いたしますのでついて来ていただけますか?」
デーンさんが歩き出したのでついていく、すると後ろに2人程ついてくる足音がする。デーンさん以外の世話役かな? まぁあとで分かるだろ。
俺の部屋だという所に来たのか扉の前で止まった。
「こちらが神子様のお部屋になります」
デーンさんが扉を開けてくれた。部屋に入ったら目に見えたのは白を基調にした室内は、どこまでも清らかで、心が静かになっていく様だった。装飾は控えめなのに、どこか気品が漂っていた。本当にここが俺の部屋なのか? ちょっと落ち着かないんだけど……。
部屋の中に入ると小さな丸テーブルと椅子が、まるで空間の静けさに溶け込む様に置かれていた。デーンさんはその椅子を引いて俺に座る様に促して来たので素直に座る。するとデーンさんが口を開いた。
「神子様、もう一度自己紹介をさせていただきますね。わたしは神子様の世話係のデーン・ロルクスと申します。デーンとお呼びください。神子様に置かれましては敬語も敬称も必要ありません、ですので先程の様な言葉使いはおやめください。……それではこちらの2人を紹介いたしますね。神子様の護衛役の2人です。こちらがトラディス・コーンローとデービット・ブルストローと申します」
「お初にお目にかかります、私はトラディス・コーンローと申します。神子様の護衛を務めさせていただきます」
「わたしはデービット・ブルストローと申します。以後お見知り置きを。精一杯神子様の護衛を務めさせていただきます」
敬語じゃなくてもいいのかじゃあ遠慮なくなくさせてもらおう。と言うか後ろにいた2人は護衛の人だったのか。……護衛って必要なのか?
「えっと、よろしく。トール・スメラギだよ。ちょっと質問なんだけど護衛って必要なの?世話役が必要なのは慣れるまでって感じだろうけどさ」
「神子様の護衛ですから必要ですよ。神子様の愛し子様を害す様な人が現れないとは言い切れないので。それに世話係は慣れるまでではありませんよずっとです」
デル様の愛し子だから護衛がいるのは理解したけど世話係の人はずっといるってマジか……。平凡な一人暮らしをしてた俺が世話係のいる生活をするとは、思いもしなかった人生って何があるか分からないな。
俺は少しの間固まっていてデーン達が困惑した顔になったから我に返った。
「あ……そ、そうなんだ〜。あ、さっきっから気になってたんだけど神子様じゃなくてトールって呼んでほしいな。これから一緒に行動する事も多いのだろうし、何より他人行儀っぽくて嫌だ」
俺の言葉に3人は顔を見合わせていたが、一番最初に口を開いたのはデーンだった。
「分かりました。トール様とお呼びさせていただきますね」
「おい、デーン!」
「トール様直々のお願いですよ? 無下に出来ませんよ」
デーンの言葉に非難の声を上げたのはトラディスだった。
「それもそうだな、これからよろしくお願いしますトール様」
デービットはデーンの言葉を肯定して俺の名前を呼んでくれた、なので嬉しくて笑顔になった。
「ず、ずるいぞ自分達ばかり! 私もトール様とお呼びしても?」
「勿論、いいよトラディス。デーンとデービットもよろしくね」
俺は嬉しくてニコニコと笑顔を振りまいてしまった。
トラディスは俺の言った事に嬉しそうにしていた。勿論デーンとデービットも嬉しそうにしていた。
すると扉を叩く音でトラディスとデービットが一瞬で警戒態勢になった。デーンが扉の近くに行き扉を少し開き外の人物を確認して、入れてもいい人だったのか大きく扉を開き人を招き入れた。入って来た人は1人で、その手にワゴンを押して入って来た。俺がいる丸テーブルに料理ののった皿を置いていった。料理を置いたら頭を下げてワゴンを押して直ぐに出ていった。
デーンが食事をする様に促して来た。でも正直少ししかお腹減ってないんだよね、どうしようか……。
「俺夕食はもう食べてて少ししか食べられないんだけど大丈夫?」
「そうなのですね、なら無理に食べなくても大丈夫ですよ」
そう言われたけど勿体無いので4分の1程食べて終わりにした。
「湯浴みはなさいますか?」
「入れるなら入ろうかな」
デーンは俺の言葉を聞き続き扉の向こうに行き直ぐに戻って来た。
「トール様、湯浴みの準備が整いましたので入れますよ」
デーンに案内されて続き扉の向こうに行ったら脱衣室だった、だが想像してたよりかなり広い作りになっていた。
服を脱ごうとしたがデーンに止められ、丁寧に脱がされた。デーンは風呂場にまで来て俺の身体や髪を洗ってくれた。慣れないけどこれからは慣れないとダメなのかと思いながら湯船に浸かっていた。
5分くらいで出て寝巻きに着替えさせられ、歯を磨いて、扉を開いて元いた部屋から寝室だろう扉の向こうにはベッドが必要以上の装飾はないが、上質な素材と丁寧な作りが、静かな品格を漂わせていた。
「今日はもうおやすみになってください」
「おやすみ、デーン」
「おやすみなさいませ」
俺はベッドに横になってデーンに挨拶して目を閉じたらスコンと寝られた。