15話
9月1日。いよいよ入学式の日だ。
制服はデーンがアイロンをかけてくれたらしく、着るとピシッと身が引き締まる。「今日から学校か……」と、なんだか少しだけ実感が湧いてくる。荷物はすでに寮へ送ってあるから、あとは学生証と制服さえあればいいらしい。式が終わったら、いよいよ寮生活だ。
ミープも嬉しそうだが入学式の時は寮で待っててもらう事になってる、昨日前もってその事を話してはあるけど忘れてたらきっと泣いちゃうかも……。
「ミ「トール様そろそろ時間です」……うん、今行くね。ミープおいで」
デーンに遮られちゃったけどあとで言えばいいよね。俺は馬車に乗って貴族用学校へと走らせた。ミープは窓の外を見て楽しいのかほんのり甘い匂いと葉が動いてるのを見て楽しんだ。
デーン達とは別れて俺だけで大講堂に来た。石造の荘厳な建物で重厚な扉が開かれてる。大講堂の入り口には、緊張した面持ちの新入生達が集まっていて、控えめに談笑する者、親しき人物と最後の言葉を交わしている者など様々だ。
俺もその列に並ぶと、建物の中から流れてくる柔らかな音楽に、自然と背筋が伸びる。
中に入ると、高い天井と鮮やかなステンドグラス、整然と並んだ椅子の列が目に入った。俺は促されるままに椅子に座って始まるのを待った。
やがて、柔らかな鐘の音が大講堂中に響いた。舞台の上に立つのは、前に会ったフィゴ校長だった。威厳ある佇まいで、壇上へと上がると、場のざわめきがピタリと止まった。
「新入生諸君、入学おめでとう。我々の学校は、学びの場であると同時に、お互いを尊重し合う場でもある。この場に立つ者は、貴族であれ、特別な立場であれ、皆等しく“学ぶ者”である。したがって権力を振るう事はしてはならない」
校長の話を聞いた人達は一瞬騒ついたがすぐに静かになった。次に、新入生代表が壇上に呼ばれる。端正な顔立ちで落ち着いた口調の彼は堂々と挨拶を述べた。会場からは自然と拍手が起こりそれに包まれる。
つつがなく入学式が終わったので大講堂の外に出て寮へ向かった。俺が所属する寮はダイヤモンド寮で部屋は最上階で階段はなくて転移魔法陣があるみたいだ。
寮の自室に着いて扉を開けたらミープがこちらに来ようとしているが、本人的には急いでるのだろうが勢いはあまりない。だから俺から近くに寄って抱きしめる。
「ミープいい子にしてた?」
お日様に干した布の匂いがふわりとして思わず頬が緩む。ミープの背を優しく撫でるともっと嬉しそうにした。
「お帰りなさいませ、トール様」
デーンに挨拶を返して、俺はソファに座ってミープを膝の上に乗せる。
「トール様……! 入学式でどんなご様子だったかを聞いてもいいでしょうか……!?」
「う、うん。大丈夫だけど入学式の話も必要?」
「神子様の話は貴重です……! なんでも聞きたいと皆も思う事でしょう……!」
「ならいいけど……」
エドモンドに促されるままに、入学式での話をデーンが入れてくれた紅茶を飲みながら話す。
それから夕飯となり食堂で食べてきてその後お風呂に入って早々に眠りについた。
翌日、教室に早めに向かった。クラスは1−Aで爵位や成績がごちゃ混ぜのくじでクラスを決めてるらしいよ。教室に入ったらまだ誰もいなかった。席順とかあるかもって黒板の方に行っても何もなくて、どこでもいいのかと俺は段になってる一番後ろの窓際の席を陣取る。
今日から4日間はガイダンスを受ける予定らしい。内容は他の教室の見学、選択科目を選ぶ、部活や委員会を決める、などだって、デーン達が言ってた。
それから少しずつ人が来て、担任だろう大人の男性が1人入ってきた。
「はい。皆さん席に着いてくださぁぁあああ、いて!」
入ってくる時にどこかに足を取られたのか凄い音が響きながらすっ転んでいた。俺は咄嗟に立ちあがろうとしたけど大丈夫みたいだったからあまり気にしなかった。やっぱり軽症だったのかすぐに起き上がって足をトントンして、すぐに教壇の元に行き何事もなかった様に振舞って口を開いた。
「オホン……お待たせいたしました。このクラスの担任になりました、アリアス・ティルヴァンです。担当教科は魔法薬ですよ。えぇ、ひいふう……お休みの方はいらっしゃらないですね。では学校の説明をさせてください。まずは、校則と生活ルールですね」
起床や食事の時間、寮の門限、魔法の使用制限、それから赤点を取った場合の扱い……先生が黒板の前に立って一つずつ丁寧に説明してくれる。
魔法は、授業や部活動以外では基本的に使っちゃダメらしい。どうしてもって時は、ちゃんと理由を説明すればいいみたいだけど。まぁ、そりゃそうだよな。みんな魔法使えるなら、事故とか喧嘩とか起こるかもしれないし。
赤点は30点以下で、部活動が一時的に禁止になる事もあるんだって。これはちょっと焦るけど、逆に言えば、30点以上ならひとまずセーフって事か。油断は出来ないけど、努力すればなんとかなる範囲だと思う。
寮の門限は夜の8時。これは普通に生活する分には困らなさそうだし、外出届を出せば外に出れる事も出来るらしい。
それから印象に残ったのは「王族であろうと平等に扱う」ってルール。誰が偉いとかじゃなくて、ここでは皆ひとりの生徒として扱われる。……ちょっと安心した。
最後に決闘についての話。白い手袋を使って申請して、決闘部の顧問立ち合いがあれば正式に行えるっていう、なかなか本格的な制度だった。でもその分、勝手に喧嘩したり魔法を撃ったりしたら校則違反になるらしい。これもまあ、納得のルールだ。
全体的に見れば、特別厳しいってほどでもない。むしろ、みんなが安心して暮らせる様に考えられてるんだなって感じがした。
先生の話は、大体3、40分くらいだったと思う。全部が長かったわけじゃないけど、一つひとつちゃんと説明してくれたから分かりやすかった。
「一旦、休憩を10分とるから周りと仲良くなる事をお勧めするね」
現代だったらトイレに行くけどこの世界ではトイレと言う概念がないからね。この世界では排泄はないみたい、最初の時は驚いたなあ、食べた物がどこに行くのという疑問は魔力に変換する事で解決してるみたいだよ。
そんな事より休憩しよう。誰か仲良くなれそうな子いないかな?
隣に目を向けたら、男の子が座ってたようで目がガチッと合った。男の子がニッコリと笑顔を俺に向けてきた。
「はじめまして。おれ、セイン・リヴィアだ、よろしく。セインって呼んでくれ。貴方は神子様ですか?」
「よろしく。うん、神子のトール・スメラギだよ、トールって呼んでね」
「やっぱり、神子様ですね。建国記念日祭でお祈りしてるとこ見ましたよ、とても幻想的でした」
「そう? ありがとう」
それから先生に止められるまでセインと話し続けた。結構仲良くなれたと思うな。
「はい、休憩はおしまいです。全員いますね? では学校内を案内するので廊下に2列になってついてきてくださいね」
先生が先に廊下に出て、生徒も廊下へ移動するのと一緒に俺も移動する、なんとなく後ろの方にいると隣にセインが来てくれた。そうして移動を開始した。みんな喋る事なく道を覚えようと周りを見ながら歩く。
最初に案内されたのは、寮から一番近い位置にある大食堂と購買部。
「ここが大食堂です。お昼時はここで食べてください。朝と夜は寮で食べてくださいね。購買部では買えないものはないと言われるくらいの品揃えです」
中を少し覗くと、6人がけのテーブルが多く、4人、2人がけのテーブルも多くあった。ここで食べるのが楽しみだなぁ。
「こっちは委員会活動や行事の拠点ですね。生徒会もこの辺りにいますから、用があったらまずここを訪ねてください」
先生がチラッと扉を開けて少しだが中を見せてくれる。整然と並ぶ机と、壁一面に魔法陣が描かれている、どんな効果があるのかは秘密らしい。
そのまま、1年から5年までの教室が並ぶエリアへと移動。
「教室は学年ごとにまとめてありますが、選択科目によっては他学年と合同授業になる事もありますよ」
自分のクラス“1−A”の位置も改めて確認する。
「この辺りが実技系の教室ですね。実験室は錬金術など色々な用途で使います。魔法薬学室は魔法薬を作るためだけにあります」
各扉の上にプレートが掲げられていて、魔力で淡く光っていた。
「具合が悪い時は保健室へ。何か困った事があれば職員室へどうぞ。……ちなみに、怪我は治せなくても提出物の期限は伸びませんので、悪しからず」
……冗談っぽく言ってたけど、目が本気だったな。
次に案内されたのは、校舎の外にある図書館。石造の重厚な建物で、入り口にはかなりの大きさの魔法陣が浮かんでいた。
「中には古文書や魔導書もあるので、出入りには学生証が必要です。中で魔法は使わないように」
中は外国の図書館の内部みたいだった、ここで早く勉強してみたいな。
「ここは主に選択授業や部活動で使用されます。興味のある物があれば見学に行くといいですよ」
植物園にはみた事ない花々が咲いている。体育館はかなり広く魔法の実技や剣の鍛錬などに使うらしい。飼育舎からは獣の鳴き声が聞こえてきた。
こうして、校舎の中と外を一通りぐるりと歩いて回った。空中に浮かぶ案内標識など、この学校が普通じゃないって事を実感する。でも、いやな訳ではなく、これからここで勉強するって事にワクワクとドキドキが勝ってる。
セインが隣で「広いな……迷子になるかも」と呟くのを聞いて、俺も苦笑いしながら頷いた。
今日のガイダンスはこれで終わりらしい。1時間半ほどだったけど楽しかったからもうそんなに経ったのかと驚いたよ。
それから寮の自室に戻って今日あった事をアレコレ話した。ミープは一緒にいられなくてプリプリしてる、可愛いな。ガイダンスが終われば一緒にいられるよ、もうちょっとの我慢だよ。




