14話
お祭りの翌日。神殿内の中庭では、孤児院の子や街から遊びに来た子達の声が飛び交っていた。
「昨日の屋台の見たか!?」
「うん、浮遊魔石当てのとこだろ?」
「見たみた!」
「……茶髪の人だよね?」
「やっぱり、あの人……神子様、だよね?」
「だよな……!」
子ども達が盛り上がってる人が誰なのかは、突然吹いた風に掻き消されて聞くことはできなかった。
俺は気になりつつもそっと中庭の端を歩いて建物の中へと足を進めた。
それから翌日。レーノルドがまた来てくれた。今いるのはネイザンの執務室だ。
「トール様、お待たせいたしました。こちら許可証と印でございます。ご確認ください」
レーノルドが免許証くらいのカード1枚と封蝋印1個を俺の方にスッと机の上に差し出した。
間違いがないかちゃんと見て問題ないという様に頷いた。
「うん、大丈夫だ。わざわざありがとう、今日はこれで終わり?」
「それならよかったです。いえ、トール様は学校に興味があるかお聞きしたくて……」
「学校……? ああ、この世界にも学校ってあるんだったね。でも俺も行けるの?」
「行けますよ。神子様ですから当然貴族用学校ですよ」
貴族用……? って事は平民用があるって事?
「貴族とか平民とかって別れてるの?」
「はい、昔一緒だった事があるのですが一部の貴族が、平民と一緒は嫌だと言ってかなりの大問題に発展して、それなら貴族は貴族だけで、平民は平民だけでとなりました。貴族用学校にも平民の子はいる事がありますが稀です。それも、貴族の子が一緒に授業を受けたいとか理由が必要ですね」
「そうなんだ……。俺、この国というかこの世界の常識とか知らないから学校で勉強とかしたいな」
身分制度って結構大変なんだなぁ。それを思うと俺って恵まれてるんだな。
翌日、ジェイエルに呼ばれて彼がいる部屋にいる。近くのソファに男性が1人いるのを俺は不思議そうに見た。
「トールよ、レーノルドから学校に行きたいと聞いた。校長にきてもらったから話を聞くといい」
どうやらその男性は校長だったらしい。
「フィゴ・リーライです。貴族用の校長をしています。神子様が学校に行ってみたいとの事ですが本当でしょうか?」
「うん、こっちの常識とか知識とか色々知らない事ばかりだからね。創造神様が愛する世界の知識とか結構気になるんだよね」
「そうですか、それはとてもいい事ですね。神子様はとても学ぶ意欲がある様ですね。大変よろしい……! 学校に行く資格は十分にありましょう。ですがこちらの常識や知識がないとの事なので、試験を受けなくても入れるように取り計らいましょう」
フィゴ校長はとても喜んでいる。
でも俺は試験を受けなくてもいいと聞いて驚いている。
「ちゃんと試験を受けて学校に入りたいんだけど」
「異世界からきた神子様方は特例として試験を受けなくても良い事になっていますよ。それでもですか?」
「うん、俺がどの程度出来るか気になるし」
「では、試験は受けても良い事にしますがどんな結果でも入学していただきますね」
「分かった、俺の我儘を聞いてくれてありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
それから俺はデーンやレイモンド達に勉強を教えてもらっていた。試験は筆記と実技らしい、内容は筆記なら国語、算術、共通語の3つ。実技は魔法か剣術のどちらかか両方らしい。俺は魔法だね。魔法は自分の得意な魔法を使うらし、俺の場合は聖魔法を使って傷を治す事だって。魔法は練習しなくてもいいって言ってたから筆記を頑張ってる。筆記の内容の共通語は学校では外国語の授業でやるらしい。
学校の授業内容は必修科目が、国語、外国語、算術、神聖、歴史、地理、社交、外交、軍略、天文、保健体育の11科目。選択科目は魔法、騎士、薬草、飛行術などの20科目以上らしい。
飛行術はやってみたいから絶対とる……! 箒とかボード、絨毯で飛ぶんだって……! 夢が膨らむね……!
選択科目は1科目以上選ぶらしい1日に2時間だって!
学校に入ったら全寮制らしい入る寮はもう決まってるらしい。俺が入るのはダイヤモンド寮だって。男子寮は辺境伯から上がダイヤモンド寮で、伯爵から下がガーネット寮となっているんだって。女子寮も同じでクンツァイト寮とシトリン寮だって。自分の寮以外に行くのは原則禁止だけど事前に申請すると入る事は出来るらしい。ただし男子が女子寮に行くのも女子が男子寮に行くのも禁止なんだって、間違いがあったらダメだろうとの事。
部活もかなりの数があるらしい、これは自分で気になるのを直接みた方がいいんだとか。兼部出来るらしいよ、でも暗黙の了解で2つか3つなんだとか。
それから試験日までの16日間は勉強したり息抜きに神訴や治療院に出向いたり卵に話しかけたりした。卵が最近ユラユラ揺れてる時間が長くなった様な気がする。閑話休題。
結構頑張って勉強したよ。国語はイタリア語みたいに書いた言葉がそのまま発音出来るものだから、ここにきた当初はとても覚えやすくて感謝したよね。共通語はちょっと難しいけど覚えられない程ではないかな。算術は小学生までのもので、中学生以上の計算になると専門の人以外は習わないらしい。
そんな事をつらつら考えてたら、いつの間にか学校の受付に着いていた。立派な建物の中は、すでに試験を受けに来た生徒達で賑わっていて、少しだけ緊張する。中には俺の顔を見てヒソヒソ話す子もいるけど、よくない感じではないから気づかないふりをした。
受付の机のそばに立っていた人が、俺の方を見て一瞬目を丸くした。
「……あの、神子様……でいらっしゃいますか?」
少しだけ声が控えめだったけど、慌てた様子はなかった。
「あ、うん。今日、試験を受けに来たんだ」
俺がそう言うと、受付の人はパッと表情を和らげて、ニコッと笑った。
「やはりそうでしたか。では、こちらの用紙にお名前と受験番号を――あ、こちらで記入済みですね。神子様はこのまま――」
丁寧ではあるけど、特別扱いされてる感じでもなくて、なんだか少しホッとした。ちゃんと“受験生”として扱ってもらえるんだなって、思えたのが地味に嬉しかったりする。俺は笑顔で答え、紙を受け取って言われた通りに進む。
「5-B、5-B……あ、あそこだ」
扉は開いてたから遠慮なく入って、教室内を見渡したら黒板側から一段ずつ段になってる大学式だった。そこで俺は紙を見て机の上の番号と照らし合わせて、俺の番号の席に座る。それから受験者がどんどん来て、担当者も現れた。
「席につけ、……全員揃ってるな。では今から試験問題の紙束を渡す。3教科時間内に終わらせれば次の実技の試験場まで行ってもらって構わない。制限時間は2時間50分だ。……では、始めろ」
担当者がそう言って一人ひとりに魔法で紙束を渡して行って、勿論俺の所にも来たから受け取ったよ、そして少しして始まりの合図をされたので俺はペンを持って紙を捲る。
まずは国語。問題を見て、俺はホッと息をついた。
これは……簡単に解けそう。
文章の読解や言葉の使い方を問う問題が多くて、日本の中学生くらいの国語のテストを思い出す。俺はペンを走らせながら、途中で似た意味を選ぶ問題に、一瞬手が止まったが、ちゃんと思い出せたから書き進めた。
次は算術。これは予習しておいた範囲だったから、ほとんど迷わずに解けた。でも最後に出てきた“図形の面積”を求める問題が出た時、やっぱり小学生までの問題までしか出なかったから簡単だった。
3教科目の共通語は、一番難しかった。でも、これもちゃんと対策してきたから……きっと、大丈夫。
……ん、これで全部、かな。
問題を全部解き終わった時、壁の時計を見れば試験終了までまだ1時間もある。
思ってたより早く終わったな、と心の中で呟く。
最後にもう一度確認して紙束を持ち担当者に紙束を手渡した、担当者にはちょっと驚かれたがこの中では俺が一番先に終わったみたいだ。
担当者から次は体育館Ⅰに行く様に言われて教室を出る。担当者に言われた通りの道を行き体育館Ⅰに着いたら俺以外の受験者が居なたったが担当者は居てくれてた。その人は驚いた顔をしていたがすぐに表情を戻して俺を呼ぶので小走りで近づいた。
「早いわね。紙を見せてくれる? ……あら、貴方神子様ね? じゃあ、聖魔法かしら?」
「そうだよ。どうすればいい?」
「それならこの人の怪我を治してもらえるかしら?」
担当者にそう言われて目を向けると、そこにいなかったと思ったのに騎士の人がいて吃驚した。だけど怪我を治してって言われたから、素早く騎士の人の身体をくまなく見ると、左腕に数箇所の傷があるのみだった。だけど見えない所にもあると思って聞いてみる。
「左腕に傷があるけど他に痛い所とか具合が悪いなとか何かある?」
「……え、あ。左腕だけです」
「分かった。今から魔法を使うけどすぐに治すから安心してね」
そう言ってニコリと微笑み、俺は傷に触れないあたりで手を翳し、こう口にした。
『傷よ治って』
フワッと空気が揺れ、金と銀の光がクルクルと周り数秒で消えた。手を避けて左腕をくまなく見て、傷がない事を確認して満足げに頷く。
「治ったけど痛みとか何かある?」
「……いえ、痛み等ありません」
騎士の人が左腕を動かして、痛みがない事に驚き一瞬止まったけど、すぐに答えてくれた。
「じゃあ、もう大丈夫だね。お大事にね」
「はい。もういいわよ、試験はこれでおしまいよ。帰りに受付に声かけて結果を聞いてね」
「え、これで終わり?」
俺がちょっと混乱してそう問いかけても変わらなかったから、俺は体育館Ⅰを出て受付まで行った。
「あ、神子様もう終わられたのですね。結果を言いますね。筆記試験は300満点中265点で合格です。実技も合格です。ですので入学を許可します、おめでとうございます。こちらは学生証になります、なくさない様にしてください。なくした場合は職員にすぐに相談してくださいね。学生証は学校に入るのに必要ですから必ずお持ちくださいね。従者などはこちらの方に申請していただければ、郵送で許可証をお渡ししますので学校に出入りする際にお持ちいただく様にお願い申し上げます。長々と説明失礼しました、では9月1日の入学の日をお待ちしています」
筆記結構出来たと思ってたから高得点でとっても嬉しい……! 学生証は許可証と同じ厚みに大きさだった。なくさない様にしなきゃ。
俺はお礼を言ってその場を離れて、馬車に近づくとデーンが出てきた。
「お疲れ様です。お早かったですね」
「うん、筆記意外とスラスラ書けたし、実技もすぐに終わっちゃったよ」
デーンは俺を馬車に入る様に促しながらそう言ってきた。そのあとは馬車が動いてから受付で言われた事を話したら、やっぱり知っていた様だ。あとは制服などがあるらしいので、作ってもらって8月28日より前に持って来てもらうらしい。
神殿の自室に戻った俺はエドモンド達に合格した事を話したら自分の事の様に喜んでくれた。エドモンドは興奮していたが、デーンに怒られてすぐに萎んでた。
俺は卵にも報告して「一緒に学校行こうね」と言ったら、殻をゴツゴツと叩いていた。もうそろそろ出てきそうだ。
それから4日。制服、実験服、運動着が出来たから試着して袖とかキツくないかとかの最終確認をして、さっき終わった所で、休憩がてら卵の殻を叩いてるのを見守ってる所だ。
――ゴツ……ゴ、ゴッ……ゴゴッ…………ピキッ……ゴッ、ピキキッ……ピキピキ、バラバラ……パララッ。
卵を叩く音が強くなって、卵にヒビが入ってもう一度強く叩いたのだろう、それによって一気に卵が割れてバラバラと殻が砕けた。卵の中から出てきたのは、浮遊する小さな植物の魔法生物だった。見た目は羽根状の一対の葉を頭上に纏っていて、丸くてプニプニしてそうで、可愛らしいパッチリした瞳に、右下に光るコアの様な芽がある。色は淡い白群色と若葉色のグラデーションになってる。
もの凄く可愛らしい……!
その子は俺を見て擦り寄ってきた。やっぱりプニプニしてる。
んー、この子の種族名とか色々分かったらいいのに……。
――おめでとう、産まれたんだね。その子の事が知りたいなら鑑定を使える様にしたらいいよ、知りたいと思ったら出来るよ。じゃあね。
セロ様教えてくれてありがとうございます。
よし、早速この子を鑑定してみよう。
『鑑定』
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【種族名】タプィミ・ピャータ
【性格】おっとり、トールの感情に敏感
【感情表現】香りや葉の動き、色の変化で気持ちを伝える
【能力】負の記憶、感情や悪夢の吸収(微量) 魔力のフィルタリング(環境魔力の吸収、中和。微量) 浮遊移動、羽根を使わず空中をゆっくり漂う(移動速度は遅い)
【その他】幼体 トール以外に懐く事は稀(慣れたら平気) 甘い食べ物が好き
――――
俺は鑑定した結果をみんなに特にエドモンドに話した。
「この子の名前を考えてはいかがでしょう?」
デーンにそう言われ、それもそうだなと思って、この子を両手で持ち上げて顔を見て考える。
この子は癒しとかに特化してるみたいだしそういう意味の子にしたいな。こっちの癒しって、なんだったっけ? ……あ!
「ミープ! ミープってどう?」
俺がそう言ったらこの子、ミープからほんのり甘くて優しいミルクティーの様な香りが、ふわりと広がって葉がユサユサ揺れた。
ミープは口があるけど喋らずに、鑑定結果をみたのと同じで感情表現は香りで表現してくれた。いい香りだから嬉しいのかも。
「ミープ、俺はトールだよ。よろしくね? あとは左からエドモンド、デーンだよ」
今日はトラディス達じゃないから紹介はしなかった。また今度紹介しないとね。
「トール様にぴったりの魔法生物ですね。わたしもミープ様とお呼びしても?」
「わたしも……! わたしも、ミープ様とお呼びしたいです……!」
ミープは警戒してか俺の後ろに移動したけど嫌ではないみたいだけど、戸惑ってるのかほのかにレモンの様な香りがして、でも、その後すぐに、少しだけ苦みを感じる匂いが混ざって、ミープが困っている感じだ。
「大丈夫だよ、2人ともいい人だから、少しずつでも慣れていこうね」
俺の言葉に返事する様に葉を動かしていた。
「あ、そうだ学校にミープの事話しておいた方がいいの?」
「それならこちらでもう言ってあるので大丈夫ですよ。誰かに何か言われたら許可証を見せたら大丈夫ですから」
それなら安心だと胸を撫で下ろす。
それからミープがお腹空いてるだろうと、甘い果物を用意して食べさせた。
それから9月1日の入学式の日までミープについての観察日記を書いたりしていた。




