13話
2日後。俺は魔物の大氾濫が今後また起きても大丈夫な様に、魔石に結界の魔法を込めて空気中から少しずつ魔力の補充をする様にイメージして魔法を一つずつ込めていく。この魔石は、ジェイエルが国の安全のために国から寄贈されたものらしい。
俺が黙々と作業している横では、エドモンドが今日の俺の作業の記録を書いている。
魔石といっても魔物から取れるものではなく魔力が籠った石の事だ。ただし今込めてるのは30cmくらいの大きさの石だ。30cm程の魔石は希少で、普通なら入手が難しいらしい。でもこの国には定期的に採れる場所があるようで、だからこそ国は大小問わず国内の都市や村などに広く配ろうと、大量に魔石を寄贈してきたのだろう。俺は休憩を取りつつ作業をしている。
「トール様そろそろ休憩をしてくださいませ」
「うん、喉乾いたから丁度よかった」
俺は一旦手を止めて伸びをして身体をほぐす。飲み物とちょっとした甘味を用意してもらった。
「エドモンドも休憩なさいませ」
デーンはエドモンドの事が少し苦手にしている様だけど、きちんとしている時は対応がいい。これから少しずつ慣れていってくれればいいな。俺はいきなり詰め寄られなければ大丈夫だけど、たまについていけない時があるくらいで、苦手な感じはしないかな。
エドモンドはデーンにビクビクしながら紅茶を一口飲んだら満開の笑顔になった。
「美味しい……! 正直飲み物ってどれも一緒だろうと思ってましたがデーンが作ったものはとっても美味しいです……! いくらでも飲めます……!」
彼の言葉を聞いたデーンは目を見開き驚きの表情をした。
「エドモンドは神子様方の事以外はどうでもいいと思ってました」
「神子様方以外は基本的に興味はないですけど、神子様の大事にしてるものはわたしも大事にしたいと思ってますよ」
デーンはそれを聞いて呆れた顔をしている。俺はエドモンドの情緒を育てていこうと思った。俺は一応極々一般的な思考の人間なので大丈夫だろう……ヲタクが出る事はあまり? ……あまりないだろうしイケる! っと密かに決意した。
その後も時々休憩しながら魔石に魔法を込めていった。
出来上がった物から各所に送ってもらった、勿論王都にも設置済みである。
翌日の朝、レーノルドが遊びに来た。
「トール様、国を代表して感謝申し上げます。魔物の大氾濫の殲滅以外にも魔石を使って結界を張っていただきありがとうございます」
「どういたしまして、少しでも役に立てたならよかったよ。今日はそれを言いにきたの?」
「いいえ、トール様がご存じなのかと思って聞きに来ました」
彼のその言葉に何の事だろうと俺は首を傾げた。
「4日後に建国記念日がありまして、代々王族だけでなく神殿の方にも出席していただいてるので、神子であるトール様にも出席してもらおうと思ってまして、本当ならもっと前にお知らせしたかったのですが、魔物の大氾濫がありましたから……」
「ああ、なるほど。でも、王都に被害がなかったとしてもやって大丈夫なの? 準備とか……」
「それなら問題ないですよ。準備は順調ですし、トール様が結界の魔法を魔石に込めてくださったのを設置もしましたし、魔物の心配はあまりしなくても大丈夫でしょう。それで、出ていただけますか?」
「そっか、なら安心だね。俺でよければ出席するけどいるだけでいいの? 何か役目があるとか?」
「本当ですか……! よかった。代々祈りの言葉を言っていただく役目を神子様方にしていただいていて、神子様方がいない時は神殿長にその役目を担ってもらっていますが、今は神子のトール様がいらっしゃるのでその役目をやっていただければと思いますが、いかがでしょうか?」
建国記念日に神子として祈りの言葉を言う役目があるらしい、俺的にやるのは問題ないだけど難しいのだろうか?
「やるのは全然問題ないよ、何か難しい言葉とかあるの?」
「……! ありがとうございます。祈りの言葉は代々受け継がれているものなのですが、子どもでも言いやすい言葉なので難しい事はありませんよ」
「よかった、難しい言葉だったら本番の時にかんだりしないかとか心配しなくてすみそう」
俺はクスリと笑って言ったら、レーノルドも微かに笑みをこぼした。
「詳しくは彼らに聞くといいですよ、ではそろそろぼくは帰りますね」
「うん、わざわざ知らせに来てくれてありがとうね」
「いえ、トール様に会いたかったですから」
そう言ってレーノルドは帰っていった。
デーン達の方を見たら、エドモンドがキラキラした顔でこちらを見ていた。何か言いたそうだが絶対にデーンの雷が落ちるだろうから心苦しいけど無視するね、ごめんよ……。
「……デーン、建国記念日の俺のする事を詳しく教えてくれる?」
それから俺はデーンに教えられ、確認と練習をしていった。
8月1日の建国記念日の日になった。
今、式典用の服を身につける為にデーンに着付けされている、俺はされるがままに身をまかせた。式典用の服は、普段よりもずっと華やかで装飾が多い様な気がする。彼は襟や袖を整えつつこう口にした。
「とても似合っておられますよ」
それを聞いて苦笑い気味に微笑んだ。ちょっと緊張してて笑顔には程遠い感じだよ。
緊張をなくす為に俺は胸に手を当てて、胸を軽く叩く仕草をして深呼吸したら少し緊張が解けたと思う。試しにニコリと微笑んだらデーンに頷かれたし、エドモンドは興奮していたが自ら律ししようとしていた。
俺達は朝早くに神殿から出て、馬車の窓から空を見たら記念日祭に相応しい雲1つない晴れやかな青空が広がっていた。王城に行くと侍従に、ある部屋に案内してもらった、部屋にはジェイエルとレーノルドの他に王妃と側妃らしき人、合わせて3人とレーノルド以外の王子が3人、王女が2人それぞれがソファに座っている。俺も空いているソファに座った。それから時間になるまで自己紹介をしつつ他愛ない話をして時間を潰した。
時間になって王城前の広場近くに行くと、大きく荘厳な門が開き、民衆がゾロゾロと集まっていた。俺が見るに貴族も平民も同じ場に立ってる様に見える。子ども達の笑い声や大人達のガヤガヤとした話し声が聞こえてきた。見える範囲の人々の色は違えど同じ衣装を着ているのを目にして、この日にはその衣装を着るのが一般的なのだと気づいた。とても素敵な衣装だ、俺も着てみたい。演奏家達が楽器を準備している。ピアノとかどうやって運んだのだろうか? 見た事ない様な楽器は2つほどだった、どんな音色をしてるのか楽しみだ。
係の人に案内され高い壇上に王族と共に行き、一拍置いてから真ん中手前側に行くと、ガヤガヤしてたのが一斉に静寂に包まれた。俺は両手を胸の前で組みながら唱えた。
「光の始まりに、感謝を」
――光の始まりに、感謝を。
「この大地に、守りを」
――この大地に、守りを。
「命の営みに、恵みを」
――命の営みに、恵みを。
「心に和を、国に祝福を」
――心に和を、国に祝福を。
「神よ、我らに光を与えたまえ」
――神よ、我らに光を与えたまえ。
民衆達全員で声を合わせて唱和する。祈りの直後に空からステンドグラスの様な光が広場に降り注いだ。光が柔らかく、光の粒がキラキラと揺らめいたり、周囲に模様の様に映り込む、幻想的で神聖な雰囲気だった。
俺はそれを見て、ああデル様が見ておられるのだなと思い、微笑みを携えながら後ろに下がった俺の前に、堂々たる足音が響いた。ジェイエルが一歩ずつ壇上の中央へと進み出る。その姿に、広場を埋め尽くした民衆の騒めきがスッと静まり返った。王族の象徴である赤の外套が風になびく中、ジェイエルは堂々と声を張り上げた。
「本日、建国記念日祭を、ここに始める!」
その言葉を皮切りに、音楽が鳴り響き、広場に残るもの、市場に行くもの、などなどだ。王族はそれぞれ城に帰ったり、その場に残ったりしていた。広場の真ん中辺りでは踊りを踊る人がいたり、それを見て笑顔になってる人達がいる。俺はそれを眺めた後、後ろ髪引かれる思いでその場を離れいつもの道じゃない所を通り神殿に帰った。
神殿の自室に戻ったら、椅子に座って紅茶を飲んでいた。
「記念日祭って事はお祭り限定の屋台とか出てる可能性があるよね? 異世界の屋台とか凄く気になる!」
「お行きになりますか? 見た目でバレてしまう可能性があるのでマントを羽織ってフードを頭に被ってではないとダメだとは思いますが」
ああ、見た目……。んー、魔法で一時的に変更する事って出来ないかな? セロ様が言うには使いたいと思ったら使えるのだから髪を茶色に、目を灰色にするのはどうだろうか? ……いいと思うな、よし! 髪と目の色を変更したいと思って一拍したら、デーン達が驚いた顔をしていた。
「あ、成功した? 髪と目の色変わった?」
「は、はい。髪の色が茶色に、目の色が灰色になっています」
「そのお色のお姿も素敵です……!」
「なぜ急にお姿がお変わりになったのですか?」
「やった……! 成功だ、髪と目変えたのはお祭りにマントを着ないで楽しみたかったからさ。ねぇ、鏡見たい」
俺がそう言うとデーンがウエストポーチから手鏡を手渡してもらった。覗き込んで見るとちゃんと髪と目の色が変わっていた。俺は満足げに手鏡をデーンに返した。
「これで、行けるでしょ?」
「ええ、それなら大丈夫です。ではお着替えしましょうか。こんな事もあろうかと衣装を用意していたのですよ」
わあ! 着れるんだ! すごい嬉しい……!
イソイソとデーンに手伝われてその衣装を着る。
「どう、そこら辺の子に見える?」
エドモンドと今日の護衛のデービットに見せる。
「はわわ……! こんなに伝統的な衣装がお似合いになる人をみた事はございません……!」
「とてもお似合いですよ(分かる人には神子様だって分かってしまわれないだろうか……)」
「ねね、じゃあもう行こうよ……! めっちゃ楽しみ! 買い食いとか遊びとかあるかな!?」
俺が逸る気持ちでそう言うと、デーンが控えめに咳払いをした。
「トール様、あまり急がれますと転んでしまいますよ。少々お待ちくださいませ。神殿長から少しばかりですがお金を預かっていますよ」
「お金? わあ、ありがとう! これで楽しめるよ、帰ったらお礼言いに行かなきゃ」
俺の腰につけてるウエストポーチにお金が入ってる袋を入れてくれた。
「護衛はデービットです。わたしも参りますから、エドモンドはお留守番ですからね?」
「ええ!? わたしもトール様のお側にいたいです!」
エドモンドの嘆きを無視してデーンが俺に聞いてくる。
「トール様は神子様としてではなくお一人の“市民”として過ごしたいのですよね?」
「うんうん! それに、こんな格好してるんだから、バレないって」
エドモンドはションボリしていたが納得してお留守番している。
それから祭りの広場を歩いて周りを見てみた。昼間の陽射しが白い石畳を照らして、空気は暑いけどカラッとしてるからそこまでじゃない、賑やかで楽しい空気に包まれていた。どこからか陽気な楽器の音が聞こえてきて、屋台の周りには人が集まって笑い声が飛び交っている。
「うわぁ……! これがこの世界のお祭りかあ……!」
俺は胸が高鳴るのを感じながら、人ごみに混じって歩く。いろんな屋台がずらりと並んでて、果物を丸ごと使ったジュースや、焼いた魚、スパイスの香りが強い串焼きなんかがあちこちにある。ふと、香ばしい匂いに鼻をくすぐられて足が止まった。
「……あれ、絶対美味しいやつじゃん! あの串のやつ食べたい!」
肉をタレに漬けて、炭火で焼いている屋台に近づくと、ジュウジュウと音を立てる肉から油が滴っていて、もう我慢できなかった。
「すみません。その串、ひとつください!」
「……! お、おう。小銅貨8枚だ」
ポーチから慣れない手つきで小銅貨8枚を出して渡すと、戸惑いつつも屋台のおじさんがニコッと笑って串を渡してくれた。
「……ほ、ほら、坊主、よく食べろよ。焼きたてだから気をつけな」
「ありがとう! いただきます!」
かぶりついた瞬間、肉汁が溢れタレの味がマッチして口の中いっぱいに味が広がった。
「んんーっ、うんまっ……!! これ、最高……!」
思わず声が溢れて、デーンがすかさず小声で釘を刺してくる。
「トール様、お声が大きいです。目立ちすぎてしまいますよ」
「だってさ、だって美味しいんだもん……!」
通りすがりの親子連れがこちらをチラリと見て、子どもが「あれ……みこさま?」と囁いたのがちょっとだけ聞こえた気がした。俺の頬にタレがついてるのかな? 俺は不安になってポーチからハンカチを取り出して拭う。やっぱりついてて、親子に感謝した。
焼き串を齧りながら、ふと横目に見えたのは色とりどりの飴を売る屋台。子どもが何人か並んでいて、嬉しそうに飴を選んでいた。よく見ると飴細工の様なものもある。
焼き串を食べ終わってゴミ箱に串を捨ててからその屋台に近づく。
「あ、甘いのもあるんだ……! 俺、あれも欲しい……!」
列に並んで、ちょっと緊張しながら赤色で3、4個入ってる小袋のものと、猫の形をした飴を選ぶと、吃驚していた屋台のおばちゃんが優しく包んでくれた。
なんで吃驚した顔したのかな? まあいいや、それより飴だ……!
「ありがとう! わあ、綺麗で食べるのが勿体ない!」
手の中の飴が陽の光にキラキラ光って、なんだか凄く特別なものに思えた。俺は惜しむ様に手を添え、ポーチに入れた。
おばちゃんにお礼を言いその場を離れる。
「次、次は遊びのとこ行ってみたい……!」
ワクワクしながら広場の奥の方へ進んでいくと、屋台だけじゃなくて子ども達が列を作っている一角が目に入った。木の札で“遊戯広場”って書いてある簡単な立て看板が出ていて、その奥にはいくつものゲーム屋台が並んでいた。
「……あれ、石が浮いてる……!? 何あれ、魔法?」
まず目についたのは、ゆっくりふわふわと空中に浮かんでいる薄水色の魔石。その前にはちょっとした囲いがあって、そこに木の球を構えて狙いを定めている子どもがいた。どうやら、浮いている魔石に球を当てるゲームらしい。子ども達の声を聞いてみるとそのゲームの名前が分かった。
「浮遊魔石当て、か……! やってみたい!」
並んでる子ども達に混じって順番を待ち、ようやく俺の番が来た。
「よう兄ちゃん、魔力は使っちゃダメだぞ? 投げるのは3回な。石に当てたら景品ありだ」
「分かったっ!」
手渡された木の球はちょっと重みがあって、手の中でしっくりくる。浮いている魔石はゆらゆらと風に揺れていて、狙いを定めるのが難しそうだった。
「よーし……えいっ!」
一投目は惜しくも横にそれた。二投目、少しタイミングをずらして投げると、カツンっといい音がして魔石に命中。
「やった! 当たった!」
周りから「おおーっ」と声が上がって、俺は思わず得意げに胸を張る。三投目は外れたけど、命中一回でも景品がもらえるらしい。おじさんが小袋のお菓子を渡してくれた。
「ありがとー!」
そう言って振り返ると、なんとなく後ろにいた人達がちょっとよそよそしい様な、不思議な目でこっちを見ていた。さっきも思ったけど……なんか、見られてる?
「……ん? 俺、そんな変なことしたかな?」
首を傾げながら次に向かったのは、屋台の隣にあったちょっと凝った作りの屋台。“風魔導具パチンコ”と書かれた看板の横には、金属と木を組み合わせた不思議な形のパチンコがずらっと並んでいた。
「これは……どうやって使うんだろう」
近くにいた店の人がにこやかに説明してくれる。
「これはな、風属性の魔導具が組み込まれてて、引いた反動で玉がビューンと飛ぶんだ。引き方と角度がコツでな。的に当たれば景品が出るぞ。回数は3回だ、頑張れよ」
「やってみる!」
両手でパチンコを構え、玉をセットして、ゆっくり引いてみる。風がふわっと吹くような感覚が手元に伝わってきて、なんだかちょっと面白い。
「よし、このくらいかな……!」
手を離すと、玉がシュッと風を切って飛び、狙っていた小さな的の端っこにギリギリかすった。すると、的がキラッと光って、下の台から小さな箱がコトリと転がり出てきた。
「おお! 当たった!」
箱の中には、風の紋章が描かれた小さなペンダントが入っていた。緑がかった透明な石の中に風の渦が閉じ込められているみたいで、とても綺麗だった。
でも、そこでふと、横から「やっぱり……」「髪色違うけど、ほら……」という小さな声が耳に入る。
なんだろう? と思って横を見ると、さっと目を逸らした。……いや、本当に、何? 俺、なんかおかしな事してる?
首を傾げながら、でも気にしてても仕方ないし! とペンダントをポーチに丁寧にしまう。
「次は……あっちの方も気になるかも!」
そうして初めての異世界でのお祭りは更けていった。
その夜、俺は卵に今日あった事を話して眠りについた。その時、卵がユラユラと1、2回揺れたが、俺は気づいていなかった。




