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1話

 いつもと変わらない朝だった。

 目覚ましの電子音に薄っすらと目を開け、カーテンの隙間から差し込む朝日に顔を顰める。

 少しのんびりとベッドの上で伸びをした後、少し重い身体を引き摺る様に起き上がった。

 顔を洗って、スーツに袖を通し、パンを齧りながらニュースを流し聞く。

 家を出て少し急ぎ気味に歩き通勤電車に揺られ会社に着くと、淡々と仕事をこなす。偶に上司の指示に頷き、同僚と適当に世間話を交わし、定時になれば直ぐに帰る。この時にホワイト企業に就職出来てよかったと心から思う。

 毎日同じ事の繰り返しな平凡な一日。

 仕事を終えて、コンビニで夕飯を適当に選び買って帰る。簡単に食事を済ませ、シャワーを浴びた後、部屋の隅にある本棚から一冊手に取った。ジャンルは異世界ファンタジー物だ。

 このシリーズもそろそろ終わりか。

 読み進めながら。ふとそう思う。

 物語の世界に没頭する時間が、何よりの息抜きだった。現実とは違う異世界の冒険、魔法、英雄譚。それらに俺は目をキラキラさせて見ていた事だろう。

 自分には縁のない話だが、だからこそ惹かれるのかもしれない。

 気がつけばいつも寝る時間を少し過ぎていた。

「そろそろ寝るか……」

 本を閉じ、ベッドに潜り込む。枕に頭を埋め、ゆっくりと瞼を閉じた。

 次の瞬間――。

 眩い光が視界を覆った。

 その場にあった身体は消えていた。

 意識が浮遊する様な不思議な感覚に包まれる。

 寝ぼけているのか、夢を見ているのか、判断がつかない。

 ……何? 眩しい……。

 じわじわと意識が覚醒して行く。だが、身体を動かそうとしても動かない。まるで何かに囚われた様だった。

 それからどれ程の時間が経ったのか――いや、時間の概念すら怪しいかもしれない。

 やがて光が収まると、俺、徹は気づいた。

 自分が真っ白な空間に立っている事に。

 そして、その前に――。

「来たか、人の子よ」

 ――圧倒的な威厳と神々しさの銀髪に金の瞳を持つ美男子がそこに居た。

「えっと……、俺寝ようとしてたんですけどここどこですか?」

「下界と天界の狭間だ。我が其方をここに呼んだのだ」

 明瞭な声が辺りに響く。聞こえてきた時ははじめは驚いたが目の前の人が話したからだと分かり平静になれた。

 それよりここが日本の自分の部屋の中ではなく、下界と天界の狭間な事に驚きをもたらした。

 いつの間にそんな所に来たのかと思ったが目の前の人がこの場に俺を呼んだとの事だ。なんの様で呼んだのだろうか?

「えっと、貴方が俺を呼んだ理由は?」

 俺は少し混乱しながらもそう目の前の人に問いかける。

 するとまた明瞭な声が響く。

「我はバネロッサデルフィ、ある世界の創造神だ。其方をここに呼んだのは我の直感が主だ」

 直感? と疑問符が湧いてきた。

 というかこの人は神様だったのか!

 だからあんなにも圧倒される様な気がしたのか。

「創造神様、直感とは具体的にどんなものなんですか?」

「大体は我の直感だが其方の魂は特別だからだ」

 そう切り出すと説明してくれた。要約するとこうだ。

 俺は過去に何度も転生を繰り返しており、その魂は普通の人間よりも強く純粋だった事。

 そしてその魂が神子に相応しい資質を持っていた為創造神様が目をつけていた。

 ただし、創造神様は無闇に介入しない為俺が神子として相応しい時が来るのを待っていた。

 そして今回、俺の魂が成熟した為創造神様が俺を選んだ。

 だから俺はここにいると言われた。

 突然そんな事を言われても俺は混乱中だった。

 今まで平凡な毎日を送っていたと思っていたがこんな日が来ようとは思ってもいなかった。

 俺はこれからどうなってしまうのだろうか?

 俺は俺でなくなってしまうのだろうか?

「其方にはこちらの世界に転移してほしい。その為に相応しい身体を用意する。見た目は変わってしまうが其方は其方だ、安心してほしい」

 俺は俺のままなのかよかった……。

 見た目が変わるくらいなら全然いい、女の子になるってなら遠慮したいけども。

 多分だが性別が変わる事はないだろうと分かる。

 それよりも見た目が変わるとはどれ程の事を言うのだろうか?

 かっこよくなったり、行く世界に合わせた見た目になるのだろうか?

 それとも若くしてくれるのだろうか?

 そう悶々と想像していたら俺自身が発光している事に気づいた。

 それにいつの間にやら身体が動かせていた。

 痛みもなくただ発光しているだけの様だ。

 数秒後光が消えたから手を見たら小学生くらいの手の平だった。

 ポカンと手を数秒見てハッと我に返る。

 若くなるにしても子ども過ぎでは!?

 創造神様の世界でやっていけるのか?

 そんな俺を他所に創造神様は弾んだ声で喜んでいる。

「おお、よいよい。愛いぞ。その姿はとてもよい」

 姿見を出していただいてまじまじと見た。

 やはり10才程度の子どもになっているな。

 髪と瞳の色は黒で、髪の長さは襟足が少し長いショートだった。

 顔は少し幼い感じだな、平凡だったのが少し可愛らしくなったと思う。

 よく見ると服もスウェットじゃなくて神子と言えばこれと言う様な白い神殿服だ。

 平凡な俺は一生縁のない服を着てるのかなんだかちょっと現実味のない夢に思うけど夢じゃないんだよな……。

 創造神様はどうしているかと見てみると俺の周りをウロウロと色んな角度から見ている。

 こうしてみると創造神様って可愛らしいな。

「創造神様、俺、10才くらいの年齢に見えるんですけど、そちらの世界でやっていけますか?」

「我の事はデルでよいぞ。若ければ若い程いいと思ったがダメだったか? 神殿で暮らすから平気だと思うが……? それに神殿に降臨させるからな」

 創ぞ……デル様、神様の突飛な考えはあるあるだった。

 人の考えに当てはめちゃダメだと思わされる。

 と言うか神殿で暮らすんだ……。

 神殿に降臨って何? 神殿内に転移するって事でいいのかな?

 神子として行くのだから神殿に降臨するのは間違ってないのか。

「10才じゃ1人で暮らすのは大変だと思ったけど、神殿に転移するなら1人じゃないしあちらの常識とかも学べるだろうからありがたいです。ありがとうございます、デル様」

 デル様にお礼を言うと表情を崩した顔になった。

「よいよい、神子が心安らかに過ごしてくれればそれでよい」

 俺の頬に手を伸ばすデル様。

 愛しむ様な顔で俺を見ている。

 デル様は本当に俺の事を愛でているのだと分かる。

 そう言えば神子として何かしなければならなかったりするのだろうか?

 それに神子としての力があったりするのだろうか?

「俺は神子として何かしなければならないのですか? それに神子としての力はあるのでしょうか?」

「明確にこれをしなければならないって言うのはないぞ、ただ我が送った神殿にいて心安らかに過ごして、我とも話をしてくれればそれでよい。神子としての力は今から授けよう」

 そう言うとデル様は右手の人差し指の先に2cm程の光の玉を作り出し俺の心臓辺りに人差し指を持って行き光の玉を入れた。

 光の玉は俺の中に抵抗なくスーッと入って行った。

「トールよステータスと心の中で思ってみよ」

 デル様から異世界ファンタジーあるあるの言葉を聞けるなんて驚きだ。

 驚いていたが直ぐに我に帰りステータスと心の中で唱えた。

 するとやはり空中にステータス画面が出てきた。

 ――――

 【名前】トール・スメラギ

 【年齢】10(30)

 【体力】1500/1500

 【魔力】∞

 【魔法】–

 【スキル】創造

 【称号】創造神バネロッサデルフィの愛し子 魔の神マラべセロの加護

 ――――

 名前や年齢の他に色々書いてあるけど多分見てほしいのは力がどんなものか見てほしいって事だよね?

 えっと……スキルがあるね、そこに創造とあったこれが俺の力か。

 んん? 加護の所に創造神バネロッサデルフィの愛し子と書いてあった。それはいいんだけど魔の神マラべセロの文字もあった。

 魔の神様のが何であるのだろうか?

「魔の神様マラべセロ様と言う方の加護もあるんですけど、どう言う事でしょうか?」

「セロからの加護がないと魔法は上手く出来ないだろうって事で補助みたいな感じでセロに頼んでおいたんだ」

「そうだったんですかご配慮痛み入ります」

 そんな配慮があったなんてとてもありがたい。

 お礼を口にするとデル様は満足そうに頷いていた。

 魔法なんて御伽話の中だけだと思っていたからね。

 それにどうやってやったらいいのか分からないだろうし助かったな。

 後で拝んでおこう。

 そう思ってたら魔の神様だろう人が突然現れた。

 黒髪に金の瞳の持ち主で美男子、魔法使いっぽい服装の出で立ち。

「創造神様、神子にちゃんと(やつがれ)の加護はありましたか?」

「おお、セロではないかよい時に来た。トールには今説明をした所だ」

 デル様の隣に立った魔の神様はこちらを見た。

「はじめまして、神子よ。(やつがれ)は魔の神マラべセロだ。セロと呼んでくれて構わない」

「トール・スメラギです。よろしくお願いします、セロ様。それと加護までいただきありがとうございます」

 俺は心の中で拝む。

「どういたしまして、異世界から来る子は魔法に不慣れだから必ず付けるものだから大丈夫だよ」

 微笑みながら優しくそうおっしゃってくださるセロ様。

 セロ様は俺の周りをウロウロして何かを確かめて一人満足そうに頷きデル様に視線で何かを訴える。

「セロよ、問題なかったのだな?」

「はい、勿論でございます」

 デル様の問いかけに頷き返したセロ様はこちらを向いた。

「魔法を使う時は使いたいと思ったら使えるから迷わずに使うといい」

「分かりました」

 セロ様は俺の返事に満足したのか頷いたら消えていなくなった。

「ではそろそろ送るとするか」

「はい、よろしくお願いします」

 デル様が右手を宙に持って行き左から右へと手を振ると豪奢な扉が現れて、俺を伴ってその扉の近くまで行く。

 扉は美しい彫りや装飾がされていてとても素敵な扉だった。

「これを開けて入れば神殿の礼拝堂にいるぞ、其方が行く国はチェリーブロッサム王国の王都内にある神殿だ、では行くがいい」

 俺はデル様に促され扉を開きそこを潜ると光に包まれた。

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