表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

明日はカッティング。

18日 11:17

アニメ業界の営業方法はいろいろである。電話をしたり、アポイントを取って会いに行ったり。はたまた誰かに紹介してもらうというのものである。そしてひと昔前からはweb上で活躍する個人作家などに声を掛けるという流れが出来て、それが今ではSNSでアニメーターを探す時代にまでなった。

僕は仕事用で作ったアカウントで「ていったー」を眺めていた。参加した作品の公開に合わせて宣伝するものや、二次創作。オリジナルキャラクターのイラストまで流れてくる。ひとつひとつのアカウントを確認しながら今回の話数に想いを馳せる。どんなシーンをどんな芝居で観たいか。この瞬間が制作進行の醍醐味かもしれない。

ひとしきりネットサーフィンをした後で、そういえば高床式さんはアカウントを持っているのだろうかという疑問が浮かんだ。

いくつか思いつくキーワードなど入力してうろうろと界隈を徘徊すると思いの外すぐにそれは見つかった。

「高床式倉庫」というひねりのない名前のアカウントはハイクオリティなイラストを公開しており、少し遡ると監督が前に行っていたPVの告知もあった。なのでURLから移動してPVを観てみた。

それはまさしく圧倒的な作品でカメラワーク、アイデア、デザイン。そして何よりもその画面の情報密度。さらにそれでいて明快な内容。アーティスティックであり、商業的でもあるその映像を観たものは彼女と仕事をしたがるだろうと思った。



18日 12:00

「お疲れさまです。秋本です。」

「もしもし、高床式です。今日は既にメール出していたと思うんだけれど?」

「それについてはいつも通りありがとうございます。とりあえず明日のカッティングを無事に迎えられそうで一安心です。

今日連絡したのは、明日の予定を伝えようと思いまして。」

「わざわざ律儀なのね。」

「前にメールだけ送っておいたら[確認してなかったわ。]ってすっぽかされかけたことがあって大変だったんですよ。それで明日は新中野に15時集合でお願いします。」

「新中野に15時ね。了解です。ちなみに秋本タクシーはないの?」

「帰りは送るんで勘弁して下さい。行きは監督とかデスクなんかも送るんで定員オーバーなんですよ。」

「ふーん。」

電話が切れたので加藤さんへの伝票を素早く記入して撮影部へと向かった。



18日 16:00

一つ忘れていたことがある。忘れていたというかどうしようもないので考えないようにしていたことなのだが、高床式さんからのリクエストであるアニメーターが一人も捕まっていないのである。足掛かりも何もない。電話も繋がらない。

こういったことはよくあることではあるのだが、場合によっては高床式さんがこの作品を降りる可能性があるということなのでそろそろ真面目に向き合わないといけない。

これまでの高床式さんの仕事ぶりから察するに完璧主義的なところがあるんだと思う。

何せこの仕事を始めてこんなに締め切りに正確に上がりを出してきた人は今までに居なかったからである。

制作進行は漫画家にとっての編集者、小学生にとっての夏休み明けの先生的な側面があるため、基本的には成果物を追う猟犬なのだ。

しかし蓋を開けてみると高床式さんは猟犬側だった。つまり僕がリクエストに答えられなければそれ相応の対応を取ってくるのだろう。


はぁストレスを内臓で感じられるね。



18日 17:00

今日も時間になったので予定通りに営業を始める。

と言っても既に連絡がついている人や、ていったーでやり取りしている人には随時で連絡をしているのでやはりメインは高床式さんからのリクエストの三人。

コールはするが相変わらずに電話は繋がらない。

「はじめまして、ザイガミピクチャーの秋本も申します。ぜひ仕事をお願いしたい作品がありご連絡させていただきました。ご都合が悪いみたいですのでまた後日連絡させていただきます。何卒よろしくお願いいたします。・・・。」

こんな感じの留守電を定期的に入れることしか出来ない。今日も空振りかとリストの別の番号をコールする。

いっその事街へ飛び出した方が可能性あるんじゃないかと考えていた矢先、パツンと音を立ててコールが止んだ。



18日 17:09

「どちら様?」

ぶっきらぼうな声の主は当然の質問を投げかけてきた。

「ザイガミピクチャーの秋本と申します。」

「知らない会社なんだけど、この番号どこから聞いたの?」

これまた当然の質問。

「どうしても田打さんに参加してほしい作品がありまして、伝手で手に入れました。絵コンテだけでもm」

「はぁもうめんどくせぇな。この番号は解約するから二度と掛けてくんなよ。」

僕の言葉を遮り、それはもう大変面倒くさそうに言い終えると電話は切られてしまった。

再度電話を掛けてみるが、電話番号が使われていないことを機械的な音声が丁寧に教えてくれるだけになってしまった。



18日 18:00

どこかから戻ってきた溝ノ口さんに田打さんとの一部始終を説明すると突然頭を抱え出した。

「そりゃまずいなぁ・・・。田打さんがそう言ったってことは多分本当に携帯解約してるでしょ。これが露見したら秋本君業界人から相当恨みを買うね。」

どういうことなのかkwskしてみると田打さんによるリセットは過去に何回か起こっているとのことで、原因は様々だがこうなると田打さんは大いに機嫌を損ねてしまいの後の仕事にも凄まじい影響を与えるのだとか。


まったく変な人しかいないのかよ・・・。

普通な人もいる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ