カンカンに火曜日。
17日 8:46
どうして中央線はこんなに混むんだろうなと通勤に使用していて疑問に思わぬ人間はいないだろう。
大量に、一度に、効率的に移動する。
有難いはずの文明の進化で僕達はストレスにさらされている。
身動きも難しい空間で人々は、スマホを使い漫画やアニメを観ているようだった。
そしてそんな時に思うのだ。もしかしたら僕達の仕事は誰かの救いになっているのかもと。
17日 12:00
「もしもし高床式です。・・・少しわかったことがあるんだけど君は大概時間に正確だよね。」
他の人がどうかは知らないが、確かにそれは一理ある。
「それは連絡や確認が僕の仕事なので、決まった時間に連絡をしてくる方が良いじゃないですか。時間を守らない相手から時間を守れって言われるのは僕だったら嫌です。」
「私も嫌だけど、そこまでしっかりされると逆にいやらしいよね。」
「話は変わりますが。昨日のコンテ撮素材、撮監さんに丁寧って褒められてましたよ。」
「あら、そんなに褒められるような要素あったかしら。」
「撮影指示が特にってことでしたよ。ということで今日もお願いしますね。」
「結局はそういう流れになるのね。ちゃんと用意してありますわよっと。」
添付ファイルのみの新着メールが届く、確かに今日も予定通り140カット分の上り。
「確認できました。ありがとうございます。明日でラストなんでよろしくお願いしますね。」
「あいあい。」
17日 13:00
昨日と同じように加藤さんへ素材を入れた後、今日は昨日よりも遅い時間から稼働するとのことだったので、しっかりとした昼休みが取れるようになった。
外に出た僕はとりあえず駅の方へ歩き出した。駅まで行けばいろんな店があるので楽しくランチを選ぶことが出来る。
スタジオから駅へは徒歩10分ほどなのでその間にどこへ行くか決めれば良いだろう。
数百メートルほど行くと前方に見覚えのある背中が近づいて来る。
何も言わずに追い越す訳にもいかないので、一度並んで声をかけた。
「お疲れ、南口さんも駅で昼ごはん食べるの?。」
ゆっくりと振り向いたのは、同期の南口さん。彼女は8話の担当の制作進行だ。
「あぁ秋本さんお疲れ様です。秋本さんが駅に行くなら一緒に行きますか。」
「じゃあ何食べるか決めないとな。」
17日 13:20
「バターチキン辛さ普通でチーズナンとラッシーで。」
「私もバターチキンで辛さ普通のナンで、あとマンゴーラッシーでお願いします。」
「ショショオマチクダサイ。」
選ばれたのは行きつけのカレー屋さんでした。店内はいつも通りのやや混みで程よい喧騒とスパイスの香りが辺りを包んでいた。
「それで8話の具合はどんな感じ?」
「まだ時間があるからか監督から無限にリテイクが出てきてますよ。」
「9話のチェックとかも持ってる筈なんだけど困っちゃうよなぁ・・・関くんが。」
「関さんといえばなんですけど、最近様子がおかしくないですか?」
ここ数日話題に上がりっぱなしだな関くん。
「それ取り扱いが難しい話題なんだけど、関くんが何かしてるの見てしまった感じですか?」
「私リテイク対応で最近ずっとスタジオにいるんですけど、夜中に電話してたり。誰もいないからか予約も入れずに外回りに行くんですよ。」
「どちらも普通に制作進行の仕事の範疇ではあるんだけど・・・。」
「オマタセシマシタ」
注文した品が届き閑話休題。
17日 13:48
会計を済ましてスタジオへの帰路。
「さっきの話の続きなんですけど、関くんについては実はアニメーターさんから相談があったりもして変な風に見えちゃってた気もします。」
「誰からどんな相談があったんですか?」
僕の返事に急に小声でここだけの話ですよと南口さんは切り出した。
「玉柏さんがスタジオに来てた時に、ちょっとうっとうしい的な話をされました。でも最後に大事にしたくないから内密にって言われたんですよね。」
「女の子が内密って言った話を僕にしないでくださいよ・・・。」
偶然にも僕がすでに知っていた話と内容は酷似しているようだが、この場合に分かることはこの南口さんは口が軽め女子ということである。こういった場合あまり内密な話をする相手には適さないはずなのだが・・・?
そうなると玉柏さんが相手を見誤ったのか、それとも別の意図があって・・・。わにゃわにゃと隣で何か訴える声で考え事を中断。
「わにゃわにゃ・・・だから無視しないでもらっていいですか?たまにがっつり人の話聞いてないの良くないですからね。」
「まことすみませんね。」
適当に相槌を打ってみたががこの辺の話は、どこかで納得の出来る理由みたいなものが出てくるのかね。
そしてまた今日もアニメーションとはあまり関係のない事に、多くの時間を割かれてしまったような気がする一日だった。
香辛料といえばカレーか狼