私情警察 ~後編~
オレは資料に書いてあったヤツらの住みかへ足を運んだ。
そこはあまり人気がない大きな別荘のようだった。
(ずいぶんと豪華な家だ…ほとぼりが冷めるまでここにいる気か…?)
男3人となにやら話している。雰囲気からして世間話か…。
まぁ、どうでもいいが…。それにしても、随分と垢ぬけた格好をしている…。
事件のことなど、どこ吹く風といったところか。
自分がしたことへの罪はないのだろうか…。
(だが、それでこそ…オレも鬼になれるか…)
そういえば、資料にも書いてあったな。半グレたちともつながりがある…と。
遊び相手兼ボディーガードといったところか。
ツカ、ツカ、ツカ…
オレは真正面から歩いていき、話しかけた。
「よう…」
「なんだ? テメェは…?」
男たちが女のまえに立ちふさがる。金髪が聞いてくる。
「オレ知ってるぜ、ウワサの始末屋…だろ?」
そのまたとなりの茶髪が解説してくれた。
「そんなに有名人か…? オレは?」
「まぁな。とりあえず…死んどけ!」
なんの脈絡もなく、金髪くんがイキナリパンチを打ってきた。
オレは金髪の左の突きを手で受け止めた。
ニヤ…
オレは無言で挑発した。よほど癇に障ったのだろう。
「テメェ…離せやぁ!」
金髪は右の突きで反撃してきた。だがこれも…オレは手で受け止めた。反転し…
「おらぁ! 死んどけ…よ!」
オレは背負い投げをした。ただの背負い投げではない。
両腕をクロスさせて肘関節をそのまましめ…投げる。
よほどの達人しか抜けられない投げ技『十字背負い』である。
ダン!
「ぐはあ!」
受け身を封じ、脳天から地面に叩き出す。
「クソが…次は、オレだぁ!」
今度は茶髪が突っ込んできた。だが、不必要に近づいては来ない。
なるほど、接近戦は不利と判断したか。
「っふ、っは!」
なかなか鋭い突きとキックだ。正直驚いた。
だが、ミドルキックの際に一気に間合いを詰めた。
「うい!?」
格闘技経験があるようだが…ケンカにはこれがある。茶髪は体勢を崩した。
倒れようとする茶髪の胸倉を両手でつかみ…
「…フン!」
「おはぁ!」
頭突きだよ。自分で言うのもなんだが…綺麗に決まった。
茶髪は鼻血を出しながら、涙声でうめいている。
「残るは、おまえ一人か…?」
黒髪は左の懐に少し厚みがある。おそらくは…
「こうなったら…」
サッ!
「え? は、はやい…!」
「おまえが…遅いんだよ!」
オレはヤツのオデコに銃口を突き付けた。
「バァン! ……なんてな」
「へあぁ…ああ…」
「つ、つええ…!」
3人は完全に戦意喪失した。
「そ、そうだ! ア、アンタ、俺たちと組まねぇか?」
「…………は?」
オレはコイツがなにを言っているのか理解できなかった。同時にムカついた。
ボゴ!
「てめぇ……オレをやすく見んなよ…」
「グ…いってぇ、ひいい! いってぇ…!」
「オレはな…。確かに警察はやめたよ。だがな、警察官としての誇りは捨ててねぇんだよ!てめぇらヤクザもんと手を組むか!消え失せろ!!」
「俺たち、ヤクザじゃないです、半グレです」
「大してかわんねぇよ! 消え失せろっつってんだ!」
「「「は、はい消えます!!!」」」
「え? ちょ、なによ! アンタたち! どこ行くのよ!?」
半グレどもは、すぐにいなくなった。オレは女の方にゆらりと歩みよる。
「まぁ、おまえはこんなもんじゃ済まさんがな…!」
「なにな、なになに? あたしをどうしようっての?」
「オレが考えた特別番組に出てもらいたいんだ。拒否権はないがな」
腹パン一発で女を気絶させる。こうして、ターゲットの身柄を確保した。
そしてオレは…女をある部屋へ運んだ…
「断罪の時間だ。おまえの罪をかぞえろ…! なんてな」
オレの拷問室へ運んだあとも…女は寝ている。
なんかムカついたから冷水をぶっかけてやった。
「ひゃ、つめた…ってここドコ?」
女は目が覚めた途端、喚きちらした。
「うご…け…ない?」
「ああ、ガッチリ固定しているからな」
「誰よ? アンタ?」
ボグ!
「あぐ!」
「質問はオレがする。…いいな?」
そしてオレは女に確認する。
「キサマは…原作者の意向を無視して独断で脚本を変えた…間違いないな?」
(まぁ、これは通過儀礼だ。あまり意味はないが…)
「罪の意識はあるか? 反省しているのか?」
「反省?っは! ジョーダン!!わたしは悪くないわ!むしろ被害者よ!!あの原作者のせいであたしは、業界から白い目で見られて…いい迷惑よ!だから、事故に見せかけて…」
「ああ、それ以上喋らなくていい。もう充分だ」
反省の色なしか…まぁ、概ね予想通りだが…。
オレは大きなハンマーを思いっきり振り下ろした。
ガゴン!
「ぐぎゃああああ!」
女の悲鳴が響く…。
「心配すんな。ちゃんと助けてやるから。台本通りにな」
これみよがしに台本をテーブルに置いた。
その後もオレは女を痛みつけた。
ほどなくして…
「ひい……ひい………た…たすけ………」
「ああ、それなんだが…脚本を変えることにしたんだ」
「………………え?」
「助けてやるといったな? あれはウソだ」
「そ、そんな話がちがっ」
「うるせ…えなぁ!」
ゴッ!
「あが!」
「生かすより殺した方が盛りあがるとおもってなぁ…」
「そ、そんな、お願いだから、脚本……変えないで…ください」
「イヤだ…ね!」
ゴッ!
(これで少しは原作者の痛みが伝わったかな…?)
「『ジョニーは戦場に行った』って映画知ってるか?」
「なにその映画? わたし知らない」
「おいおい。脚本家なんだったらいろんな作品観とけよ…なぁ!!」
オレは女の目、鼻、口の機能を奪い…四肢をハンマーで粉砕した。
残る機能は耳と首を少し動かせるだけ。
「助かりたいか…?」
女はうなずいた。
「なんでもするか?」
女はつよくうなずいた。
「なんでもします? じゃあよ…」
オレは髪をつかんでこういった。
「あの世で…原作者に…謝ってこいよぉ!!」
それから、3日くらい放置してたら…女は永遠に動かなくなった。
「3日か…意外ともったな…」
「あらら、今回のお掃除が大変ね…」
マリが部屋を見て、不安そうに言う。
「クズが…死んだ後まで迷惑をかけるな…!」
「もっと後処理がラクなのないの?」
「………考えておく」
こうして今回の依頼は無事に終了した。
復讐は何も生まない? だが、依頼者の溜飲が少しは下がっただろう…。
高揚感…? 達成感…?犯人逮捕とはちがうなんとも表現しがたい感情が…
オレの中にあった。警察官を辞めてよかったかもしれない…。
こんなヤツらを裁くことができるのだから…。
翌日、オレは依頼者の木島さんに依頼完了の知らせをおくった。
事件の真相、事の顛末、なるべく依頼者がキズつかないように言葉をえらんで…。
勉強がニガテなオレは、これにとても神経をつかう…。
でも、ときどき…ふと考える…。
『オレのやっていることは……正しいのだろうか…?』