私情警察 ~前編~
「おっと、もうこんな時間か…」
すこし眠いが…。一階に行って準備をしなくてはいけない。
オレは階段を駆け下りた。
ここはオレが経営する喫茶店…。都心から少し外れにある。
オレは警察官を辞めたあと喫茶店を開いた。
(せまい店だから、仕込む量も少なくて楽だ……)
内装は…どちらかといえば年配向けのデザイン…らしい。
モダンというより、レトロという表現がピッタリだ。
妻のマリからは「古臭い」だの「これでは若者は来ない」とさんざん言われた。
オレとしては老若男女入りやすい内装にしたつもりだったが…。
「おはよう、マモルさん」
「ああ、おはよう」
「ほらほら、スマイル、スマイル!」
「こ、こうか…?」
「ん~まだカタいかなぁ…」
接客はマリ、オレは料理担当、といったところだ。
オレも接客をガンバってみたものの、元警察官だからか会話というより職質みたいな話し方になってしまう…。そんな理由でオレは裏方の料理担当になった。
マリは美人だからか、お客さんからよく話しかけられる。
おそらくだが、マリ目当てでここに通いつめているお客さんも何人かはいる!…と思う。
(適材適所…かな…)
ここではハーブをつかった紅茶や料理を出している。
涼し気に揺れる月桂樹が目印のログハウス調の店だ。
マリの提案で店内の客層に合わせて、BGMを変えている。
常連さんが来ると気を利かせ、曲を変えたりもする。
(ピアノの音に癒されるのが女性脳で、ギターの音に癒されるのが男性脳…だったかな…?)
カラン……
ドアの方を見ると、一人の男が入ってきた。
オレの後輩だ。
「やぁやぁ、マリさん。今日もお美しいっス!」
「まぁ、どうも…圭介さん」
「これ、僕の気持ちを詰め込んだラブレターっス!」
「あらあら、ラブレターなんて…古風なのねぇ」
「おいおいおい。人妻を口説くな!ってか、デカいな! 封筒!!」
A4サイズが入る封筒で持ってきている。しかも少し厚みがある…。
「マリさんへの想いを文章にしたら…こんなになったっス!」
「まぁ、ありがとう…」
「マリさんは結婚していても魅力的っス! 先輩にはもったいねぇっス!」
「うるへー!」
「お店を閉めたら読ませていただくわ」
「じゃ、僕は勤務中なんで…失礼するっス!」
「早くでてけぇ!」
オレは玄関に清めの塩をまいた。
「うふふ…オモシロい後輩ね」
「ふ……っともうこんな時間か…」
「明日は定休日だから、掃除と戸締りもね」
「へーへー」
時刻は夕方。オレは店じまいの準備をする…。
そしてその晩のこと…
「圭介さんのラブレター…とても面白いわ」
「どれ…」
オレはラブレターに目をとおす。
そこには、今回の事件の容疑者の資料が載っている。
そう、あいつはラブレターと言っておきながら、
こんなふうに情報を提供してくれているのだ。
警察しか知らない情報も、こうして教えてくれる…。
他の人に怪しまれないよう、三文芝居をしながら資料を持ってきてくれるのだ。
(オレの奥さんを口説くのは本気じゃないと信じたいが…)
たまに不安になる。アイツ、イケメンだし…。
そして次の日の朝、10時ごろ…。
コン…コン…コン…
店の裏口から一人の男性が入ってきた。