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ロングロング  作者: くろ
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プラトニック

 


   アリロスト歴1915年  11月




 デルラ・ビレッジの村長ハイマン・トーエンから新たな移民81名がビレッジに入村したと言う連絡が在ったとクロードが俺に伝えた。

 ハイマン・トーエンは元は紡績工場で財を成していた人などだけど児童労働に疑問を持ち、その頃パトと活動していた児童労働を規制しようとしていたグレン・ギブトン男爵と知己を持ち、学んでいく内に労働問題にも興味を持ち、解決策として自分達の共同体を作り、労働を資本家に搾取されないように自分達の通貨を作って賛同者とコミュニティを運営していた。


 そして2回失敗し2回目に破産した所で、例の呪われた男パトからハイマン・トーエンの事を相談された。

 

 失敗の原因は、農地を買って賛同者に農業を遣らせたけど皆が農業に不慣れだったとか、作った通貨を質の悪い投機家に利用されたとか、まあ色々と或るんだけどカリスマは有るけど実務能力不足だったので、グレン・ギブトン男爵にも人を紹介して貰ってハイマン・トーエンを補佐して貰うことにした。


 パトとグレン・ギブトン男爵に紹介されたハイマン・トーエンは、もう直ぐ禿げ散らかすであろう褐色の薄い短い髪にオイルをつけ、オールバックな髪型で角ばった細い顔に、生命力溢れる茶色の瞳を輝かせている、いい歳をしたナイス・ガイであった。

 人を愛し人の理性を信じている変態さんだった。

 こんな面白いナイス・ガイをグレタリアンで放逐して居るのは勿体なくて「村を作ってみてよ」とハイマン・トーエンに誘いを掛けて、彼が連れて来た133人の仲間と共に阿保みたいに広いデルラの比較的平地に見える敷地に放牧した。

 樹木は売る程生えているので蒸気トラクターや農具諸々も渡して管理と言う名のお仕事。

 10年耕作して管理したら土地は耕作した人の物となる。

 広大なデルラは、どうせ悪の親玉モリアーニが兄に押えさせたのだからと、俺は腹いせに好きに使うことにしたのだ。

 兄からの了解は取ったけどね。


 デルラ・ビレッジ迄は馬車で約二時間位は掛かる。

 蒸気自動車ならもっと早いそうだが俺は乗る気が無いので関係のない話だ。

 ハイマン・トーエンが上手く行かなくても然もありなん。

 そんな気持ちで放置して居たら、意外に上手く行っていて俺が吃驚した。


 だってなんだかんだ言っても、ハイマン・トーエンの目指している形って、緩やかなコミュニストだからね。

 ギャンブラーで資本主義なグレタリアン民が自己資産形成の為にハイマン・トーエン達が決めたルールとか破りそうじゃん?

 そして今回の内戦は、半数位の男性がポスアードの街から北軍へと参加して12名が亡くなって、補充と言うか人手増やす為にパトの紹介で来た81名だそうだ。

 一応、彼等は北カメリアの国籍を取得しているから参戦已む無しだからね。


 やっぱりハイマン・トーエンがグレタリアンで失敗したのって、圧倒的に実務能力が不足して居たからだよなと、増えた人数の報告をクロードから聞きながら俺は実感した。







   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




   アリロスト歴1,915年   12月



 俺はエルム材で造られたライティングデスクでセインへ手紙の返事を書いていた

 

 セインの娘オリビアと俺の息子ユージンとの間に息子が生れたと孫の様子に浮かれ捲くっているセインの手紙に俺は思わず苦笑いを浮かべた。

 そしてエイム公爵家の領地へユージンとオリビア一家は引っ越すと記して有った。

 どうもこの所冬のロンドは今までにない濃い霧に覆われていて、オリビアや孫の体調を心配したセインは兄に相談したようだ。

 現在、比較的余裕の或る層は冬の間、ロンドを離れる事がムーブに成っていると言う。

 俺はセインの身体が心配に成って、冬の間はデルラに来るようにと慌ててペンを取ったのだ。

 全く自分の事を忘れてセインは人の心配ばかりだ。


 其処へウィルがにこやかにイケメン・スマイルを浮かべて俺の向の席へスルリと座った。


 「やあジェローム、不機嫌な顔をして如何したんだ?」

 「別に。はぁー、暫くウィルが居なくて平和だったのに。」

 「ふふっ、退屈して居ただろうジェロームに北部の連合国大統領ベンジャミン・ヤングからの招待状だ。念の為に言って於くけど断れないからね。」

 「なー、ウィル、そう言うのは招待状ではなく召喚状って呼ぶんだぜ。良かったなウィル、1つ賢くなって。つうか何の用だよ、俺には大統領ベンジャミン・ヤングと会う用などないよ。」

 「さあ、一度は実際に会ってみたかったんじゃない?ロンドで著名なジェローム探偵に。」

 「俺って見世物じゃないつうのに。」

 「そうだ、序にお願いして見たら?グレッグ出版社を北部で営業させて貰えるように。もうロンドじゃ開店休業だろ?本を出版しても置かしてもらえる店が無くなったから。」

 「あー、そうだった。貸本屋つうか今は出版社のローディーズとライティーズの寡占化が完遂して、ローディーズかライティーズの許可が無いと本屋に出版物が置けない状態だとセインから報告が在ったんだ。エグイなー、寡占化って。」

 「研究関連の本は大学や王立研究所の出版物は良いらしいよ。」

 「流石にそれまで規制したら権力側や知識階級も黙って無いだろうしね。でもウィル、あいつら新聞社も運営してるから始末が悪いよな。一般労働者にも選挙権が拡大するから議員も新聞記事が大事に成って来るし。マジで情報の女神さまは手に負えない。」

 「神も人も女性に男は気安く触れては駄目って事だね、ジェローム。」

 「うん、情報の女神さまとだけはプラトニックを俺は誓うよ。ラブには成らないけどな。」


 俺はクロードの淹れた薫り高い珈琲を一口飲み、右手で銀色のシガレットケースの留め金を外した。



「もう直ぐクリスマス休暇でジョアンが戻って来るな。ジェロームも寂しかっただろう。」

「はっ、俺は別に。それにジョアンは土曜の午前中には此のロッジに戻って来ている。マイケルの顔を見にな。片道3時間以上も掛けてジョアンもご苦労な事だよ。」

「ふふっ、ジェロームは悔しいんだろ。」

「全く。」

「そう言えば、エイム公爵はシルビア・ラットン嬢と婚姻されていたそうだよ。」

「はあぁーー?」

「ロンドに戻った時にエイム公爵の補佐官クラークから聞かされた。周囲が知らない間に婚姻を終わらせていたそうだ。66歳で20代の女性と婚姻とは、流石エイム公爵だよ。」

「マジかー。」



 俺は楽し気に語る忌々しいウィルを見て、全身から力を抜けて行くのを感じた。

 兄は俺への執着から卒業したと思っていたのに、ちっとも全く卒業など出来て居なかったのだろうか。

 目尻の皴を深くして微笑み煙草を燻らせるウィルを見つつ、ふと思った。

 暇が有ればデルラに居る俺の前に現れるのは、まあ俺って言うよりもジョアンだけどな。

 きっと自覚して居ない喪失感を埋める為なんだろう。

 それはきっと兄も。

 ジャックの記憶が消えた今も残る寂寥感に戸惑い、兄は分からない侭その隙間を埋めるモノを探し出したのかもしれない。


 「で、ウィル、兄に見初められたその娘の方は如何なのよ?」

 「例の南セントラルにある男爵邸までシルビア嬢を連れて来て、エイム公爵は片時も話さないって補佐官クラークは零していたよ。目のやり場に困るってさ。でも年を取っていてもエイム公爵は、あの麗しさだろ?シルビア嬢は照れているそうだが嫌がって居ないそうだよ。」

 「うーん、クラークには兄が申し訳ないな。」

 「でも不機嫌で居られるよりは何倍も良いって補佐官クラークが話していたよ。しかしエイム公爵が弟のジェローム以外に興味や愛情を向けるってシルビア嬢って凄いよね。僕も一度お会いしたいものだ。ジェロームも会ってみたいんじゃないか?」

 「その内に機会が有れば。まあ兄が楽しそうで何よりだよ。」


 俺がそう言って煙草を燻らすとウィルが「実は寂しい?」つって、ニヤニヤしながら揶揄って来た。

 あのなウィル、お前は兄の面倒な執着を知らないから、そんなアホな事が言えるのだ。

 あの執着から逃げる為に、俺はジャックを兄へ生贄として差し出していたと言うのに。

 うん、そうなんだ。

 御免ジャック。

 今は居ないジャックへ俺は軽く詫びた。

 だって、ジャックも心のどこかで兄を受け入れていたと思うんだよね。

 俺だった鬼じゃ無いんだから、ジャックが本気で兄を嫌がって居たら助けたさ。

 だいたい、嫌な相手に「苺アーン」をして食べさせられないだろ。


 そんな事を想いながら、俺は吸い込んだ煙草の煙を綺麗な顔で揶揄ってくるウィルへと吹き掛けた。







  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 下宿112Bにある一階の談話室で白髪が増えたルスランと貫禄が少しついて横皴が増えたセインがアームチェアーに座り向かい合って話し込んでいた

 私は邪魔に成らないようにそっと熱い珈琲が入った青い陶器のカップを揃いのソーサー事、ルスランとセインの前に置いて、自分のカーキ色をした珈琲の入ったマグカップを持った。


 「有難うサマンサ。」

 「相変わらずサマンサの淹れる珈琲は良い香りだね。」

 「ふふ、どういたしまして。でもルスランやセインの話の邪魔をしたわね。御免なさい。」

 「いや、大丈夫だよサマンサ。」

 「うん、わたしも珈琲が飲みたかったんだ。」



 すっかり白髪が多くなったプラチナブロンドの短い髪に優しい薄い水色の瞳で微笑んでいるのが私の夫のルスラン58歳、そして向いで大きな体をして飴色の瞳を細め人の好い笑顔を見せているのがセイン・ワート博士53歳でジェロームこと緑藍のステディだったり。

 比較的顔面偏差値の高い此の下宿112Bでケモナー枠で頑張っている普通のオジサンなセインです。

 ハイ、全く問題なし。

 優しくって良い人なので医師として私たち家族の健康管理もしてくれている。

 ジェロームこと緑藍が北カメリアに行って寂しそうだったので我が家に良く招いたりしていました。

 で、今は娘オリビア一家が引っ越したので此処下宿112Bで私の家族たちと一緒に生活を始めました。


 冬場の空気が悪くて案外、ここ最近は此のブレード地区に住む人もロンドを離れる人がポツポツと出ている。

 でもまあ、ロンドは住む場所は何時も足りていない状況なので直ぐ借り手が着くのですが。

 友人だったマーサ母娘も私の親戚のシェリー一家が住んでいる地区に引っ越して行き私が少し寂しい状況。


 て言っても、それなりに私も忙しいのでしみじみと感慨に耽っては居られないんですけどね。

 あくまでもそれなりですが。

 嫡男のニックが今17歳でフォック大学に通い、次男のやたら賑やかだったダリウスはプライベートスクールに通って居るのですがヤンチャ過ぎて寮から良く呼び出しを受けてたり、末娘のミッシェルとは一緒に料理作りをしたり刺繍をしたりと嫁に行っても困らない教育をしている最中。


 花嫁教育とかと言うと夫のルスランは絶対に嫁に遣らないと駄々を捏ねるので、「パパの為にミッシェルが頑張って作って居る」とカモフラージュは忘れずに張っています。

 ミッシェルには夫婦仲良くする為、ハズバンド・ドライブって夫の操作術と勿論、教えていますよ。

 基本的に食事を用意したり、この大きな二階建ての屋敷下宿112Bを掃除したりして日々過ごして居る。

 ポーター兼下男だったロビンやコックのサニーそしてトマスやクロードは緑藍について北カメリアに行ったので、今いるのはメイドのニコルと昔ニックの乳母だったアニタがメイドとしての此処に残って私のフォローをしてくれている。


 まっ、私の仕事量は若い頃に比べてガタリと減っているから、メイド2人で充分と言えば十分なんですよ。

 先ず、ジェローム探偵事務所の経理をしなくて良く成ったし、商会の方はルスランが取り仕切って呉れているので、外での私の仕事は広告を兼ねた慈善活動へ出る位だし。



 「それにしてもエイム公爵が24歳?のお嬢さんを妻に迎えるとは、驚いたよネ、サマンサ。」

 「そうね。でもその妻がセインの娘オリビアと婚姻したユージンの妹だったなんて。そっちの方が驚いたわよ。セイン。」

 「うん、僕もユージンからコッソリと報告された時は吃驚したよ。」

 「ええー、て言う事はセインとエイム公爵は親戚?」

 「いやーサマンサ、違うと思うよ。エイム公爵家と縁が在ると言えるのは精々オリビアまでだよ。それに僕はエイム公爵が相変わらず怖いから、知人位までがいいかな。」

 「うん、わたしも彼は怖いよ。」

 「そうかしら?私は昔から知って居る所為か怖くないけれど。ブラコンで残念なイケメンだわーって何時もおもってたくらいだもの。」


 「「それはサマンサだけだっっ!!」」



 2人に盛大に突っ込まれた後、私は口直しにカモミールティーを入れる為に笑いながら席を立った。

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