No80 晩秋
アリロスト歴1950年 6月
デルラに或るロッジに戻ってからは、ジェロームとセイン氏とサマンサ義母さんはオークの巨木が或る籐を編み込んで作ったリクライニングチェアーに寝転がって日向ぼっこをしたり、ロンドでの事件の話をしたりとゆっくりと寛いでいた。
その近くにはハスキーとグレーの子孫たちが木陰の下でジェロ―ムたちを護衛していた。
俺は、屋敷で大きく開いたフロラルス窓から、その姿を長めながら、ミッシェルと冷えたアイスティーを飲んで居た。
横になったリクライニングチェアーから、ジェロームは細い腕を伸ばしてセインの伸ばした長い腕と手を絡ませていた。
クリストン特区やヨークではグレタリアン式友情を確かめれる空気では無いので、邪魔の入らない此処デルラの地では、ジェロームとセインは気兼ねなく枯れたスキンシップを愉しんでいた。
如何見ても枯れた老紳士のセイン氏では、ジェロームの言うエロい仲には見えなかった。
美ジジイとジジイの友情かな?
「ジョアン、何か失礼な事を考えていたわね?」
「いや、ジェロームとセインて仲が良いな―って思ってさ。それにしてもミッシェルの義母さんは2人が手を繋いでいても、動じないよね。流石サマンサ義母さんだよ。」
「ふふ、ジェローム氏が10代でセイン博士が20代の頃からの付き合いだから母は慣れているんですって。若い頃のセイン博士って母のお眼鏡に敵わなくって、見えない振りをしていたって言ってたわ、ジョアン。酷い話でしょ。ふふっ。」
「確かに酷いね、ミッシェル。」
ミッシェルはすっかり北部のファッションに慣れて、淡い藤色に白い小花をプリントしたスカート部分にプリーツと切り替えの或る膝下までのコットンワンピースを着ていた。
プラチナブロンドの髪は肩に掛かる長さでウェーブをつけ、すっきりとした品の良い装いだ。
未だ未だ綺麗なミッシェルに俺は微笑みかけた。
問題があるとすれば娘のシンシアとセレーナのスカートが短過ぎて派手な所だろう。
シンシアは22歳で大学を卒業してから、ポリウッドランドでミッシェルに教え込まれた経理の仕事の見習いをしている。
家でミッシェルの手伝いをしろと俺は言ったのに話を聴かずに、滞在していたサマンサ義母さんを味方につける始末。
仕方が無いので本邸に居る人達を護衛に就けている。
マジでポリウッドランドは男が多くて危険だからね。
セレーナは将来ダンサーになると言ってたのを、ミッシェルが姿勢や綺麗な身体を作る為だと騙くらかして、バレエ教室へ放り込んだ。
可笑しいよな。
戦争が終わってからは、職業婦人より世の中は、昔ながらの家庭を守る女性が理想とされているのに、シンシアもセレーナも婚姻より仕事をしたがるなんて。
俺はミッシェルにそう零した。
「それはね、ジョアン。母の教育の賜物よ。私も幼い頃から言われていたモノ。女性が自由に動く為お金は必要なモノだから、イザと言う時の為に手に職をつけて於きなさいって。ふふ。母は若い頃お金が無くて苦労したらしいのよ。母の時代は女性は働けなかったし。その話を聴いたお陰ね。」
「はーぁ、俺って頼りないのかなー、ミッシェルやシンシア、セレーナにそんな思いをさせるなんて。」
「ふふ、ジョアンは頼りがいの或る旦那様で父親よ。でも子供達は夢を追いたくなるモノなのよ。カメリアン・ドリームを追い掛けるカメリアン・スピリッツってモノね。あの子達は北カメリアで生まれて育ったから。」
ミッシェルの話を聴きながら、俺はルーサーが運んで来た二杯目のアイスティーに口を付けた。
そうか。
俺の子供達はカメリア人なのだな。
日頃ジェロームやセイン博士達に囲まれているから、俺はグレタリアン人の意識の侭だった。
「そう言えばジョアン、本邸にはテレビジョンが置かれていたわよ。子供達が後で来たら面白がるでしょうね。まだ一般的ではないから。」
「絶対にジェロームは嫌がるだろうな。ヴェイトに発表時期が負けていたと言う事で急遽、『NCC』ナショナル北カメリ放送協会ってのを作って昨年放送に踏み切ったけどさ。ルイスも真空管の研究チームに呼ばれて大変そうだったよ。」
「ヘンリーもルイス博士に学ぶために同じ大学へ行ったのに中々会えないと零していたわ。」
「基本ルイスは研究棟か研究チームと一緒に居るから講義とかはしないからな。ヘンリーに見所が有ればルイスから誘って呉れるだろう。探針や真空計の研究もしているし、ルイスも多忙だよな。」
「もうヘンリーやウォルトに就いてジョアンも娘たち位には心配してくださいよ。」
「いや、ヘンリーもウォルトもガッツあるし負けず嫌いだから、俺が心配しなくても成したい事を成すだろ?俺って2人みたいにスポーツも我武者羅にやるって性格じゃ無いからね。ミッシェルの兄のダリウスにどっちかと言うと似ているよね。もしかしたらサマンサ義母さんの血筋かな?」
「もう、ジョアンたら。」
そう言ってミッシェルは頬を膨らませて、澄んだアイスブルーの瞳で俺を睨んだ。
ミッシェルのその表情が可愛らしくて、俺は右腕を延ばして膨らんだ白い頬を突いた。
思わず2人で笑い合っていると、鮮やかな青いブルージェイが開いたフロラルス窓から見える樫の木の小枝へと止まって羽根を繕い始めた。
俺とミッシェルは息をゆっくり吐き出して、その鮮やかな青い小鳥を静かに眺めた。
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アリロスト歴1950年 7月
人生の晩秋。
デルラの季節は緑が燃える7月の頃だけどね。
俺とセインとクロエとが、こうして過ごせる時間は残り少ないだろうなと、そう思うと共に居れる時間が愛おしくて、3人で話し合ってゆっくりしようと言う事に成った。
一人残ってしまっても、こうして語り合った事を想い出せば、寂しさも又、楽しいかも知れない。
クロエはこっそりと自分が先に逝ったらデルラの地へ埋めて欲しいと言いやがる。
土に還りたいそうだ。
ルスランと離れても良いのかよって俺が問うとクロエは悩み始めた。
本音はルスランと共にデルラの地で眠りたいそうだ。
たく、クロエは何を遠慮しているのやら。
恐らくルスランもクロエと共に眠りたいに決まってるだろ。
あれだけクロエにゾッコンだったルスランだぜ、離れたい訳が無かろう。
クロエも俺も死者の復活なんて信じていないし。
クロエも俺もジャックも復活してるじゃんって?
此れって復活とは言わない。
ジェロームが死んだ身体に俺の意識が入って緑藍として覚醒しただけ。
身体はジェロームだけどな。
ジャックがこの世界で消えて、後から俺はジャックの痕跡を調べると、ジャックの肉体はイラドで戦死していた。
イラドで戦死してから先のジャックの行動は記録も人々の記憶も俺とクロエ以外からは消えていた。
だから、まあ俺達が寿命を迎えるとクロエも俺もどう人々の記憶に残るかは全く謎なんだよな。
でもクロエも俺も子供を残しているからジャックみたいに綺麗さっぱり消える事は無いって思ってるんだけどね。
其処は神の呪いか悪魔の祝福かって奴に任せるしかない。
俺とクロエは互いに死んだときに遣って欲しい事なんかを語り合っていた。
「私達ってソウルメイトよね。」
うんうん。
って、満足気にクロエは頷くけど、そのソウルメイトって言葉は恥ずかしいから、俺的に止めて欲しいなあ。
それはさて置いて、現在、北カメリアの提唱した国際連合に入っている国は、グレタリアン帝国、ランダ共和国、西プロセン共和国、デサーク王国、ギール王国、ナユカ連邦共和国、スロン王国、グロリア共和国、トルゴン共和国、アシェッタ王国、バンエル共和国、ヴェイト、ハンリー王国等が或る。
モスニア=フロラルス帝国は先の大戦で作った国際連盟もあるので、其方を主軸に動くと言っていた。
こっちは、ランダ共和国、デサーク王国、、エーデン王国、ノール王国、スロン王国、ギール王国、カレ帝国などがある。
植民地を持ってるポガール王国やフロラルス王国なんかは、別個にしてもモスニアが宗主国だしな。
トルゴン共和国はトルゴン帝国の時に国際連盟に酷い目に遇ってるから脱退しても仕方ないけど。
恐らくモスニアは通貨の問題もあるし、北カメリアと一体に為るのは遠慮したいのだろうと思う。
連合の方で国際会議が有ればモスニアも参加はするそうだ。
でもってヴェイト社会主義連邦なんだけど、結構広がっていて吃驚した。
東プロセン、ポーラン共和国、チーズ共和国、バロキア共和国、ルーニア共和国、クラナド共和国、ベルビア共和国、ルガリア共和国、そして北方3国。
何処の国も国土的にも人口的にも広くて多い。
ほぼ東ヨーアンは共産圏に成ってて、アイスバニラ国が現在係争地かな?
グロリアのモッチリーノがダイナミックにお邪魔して保護国にしていた所なんだけど、グロリア共和国やトルゴン共和国を共産圏にする訳には地理的に行かないので緩衝地帯としてアイスバニラに頑張って貰っている感じ。
アイスバニラ共和国は、ヴェイト系の共産党と社会民主党とカリント教保守党が戦っていて、北カメリアは武器供与している所なんだよね。
で、グロリア共和国もモッチリーノの所為で経済が疲弊しているので、トルゴンと合わせて4億ドルほど北カメリアは出資している。
現在大ヒットしている映画『ロマンの休日』も上映しているので、グロリア共和国には観光客がヒロインを真似てベスパに乗って真実の泉へ行くと思う。
女優のオードリーみたいな子と一緒なら俺も楽しめると思うけどな。
「80歳過ぎたジジイは嫌!」とか言われそうだけどさ。
でもって現在、イラド方面のカザーフ王国は旧ルドア帝国が倒れてから、ヴェイトと戦って居たりしている。
信仰を否定されるヴェイトとは相容れないらしく、抵抗運動を続けて居て敵の敵は味方と言う事でグレタリアンが旧ルドアだった頃は敵だったカザーフ王国に味方して、似合わないゲリラ戦をしたり武器の供与をしたりしてイラドの共産化を防いでいる。
そして北カメリアもイラドに進出したかったので、「共産化を防ぐ」って理由で南部軍が取っていた植民地ベルガーガの3国を拠点にして、グレタリアンと協力してイラドの各王国の民主化を進めている。
大きなお世話だと言ってるイラドの各王国に居る知識階級の人達もいるけどね。
人口も資源も多いイラドはヒャッホーなヨーアン民族やカメリア人には矢張りご馳走に見えるらしく、硬軟織り交ぜての交渉をしているとか。
意外に故メクゼス博士の社会論が流布されていて危機感も持ったみたいだけどね。
ウィルの小さな親切はイラドの人を救えるか?
全く何を想ってイラドに共産思想をウィルはバラ撒いたのかな。
ウィルに理由を聞いてみたいけれど、きっと人好きのする笑顔を作って、忌々しくも俺を揶揄って来るだけ何だろうな。
だって、ウィルだしさ。
自分が育てていた配下を全てジョアンに預けて行くから、ジョアンは驚いて挨拶に来た7人を前にアワアワして言葉を失ってただろうが、ウィルの馬鹿野郎め。
つってもこの本邸に居る多くの人材を俺へと言いつつ、兄もジョアンへ預ける心算だったみたいなんだろうから、ウィルと同じ穴のムジナだな。
現、エイム公爵家当主のフレデリックも59歳だし、妻になったパトの孫娘サブリナも43歳に成っちまった。
16歳も年下のサブリナを嫁にするとフレデリックが言った時は、「犯罪だぞ」と、俺も思わず声に出してしまったけど、59歳と43歳だと別に違和感もねーなぁ。
パトの娘は暗号作りが得意だったらしいけど、孫娘のサブリナは二進法と電気信号を使って言語を作っちまうし、パトの血縁者にしては有能だと感心する。
パトなんて甘ったるい恋愛戯曲や詩しか作らない俺には迷惑な呪われた恋愛脳だったのに。
中々の才女だったパトの孫娘サブリナは夫のフレデリックを公私共に支えて居るらしい。
独身生活が長かったフレデリックは35歳でサブリナと婚姻して、焦って子作りをし、嫡男のセドリックは22歳に成り、後の2人は16歳と11歳だったかな。
嫁のサブリナは夢中になると研究に没頭するタイプらしく、中々フレデリックは夜の相手をして貰うタイミングが難しいと零していた。
つうか、叔父で或る俺にそんな事を話すのって、やっぱりフレデリックって兄の子だよなって思う。
そういや、グレタリアンのセイヤ―首相が行った重要産業の国有化でエイム公爵家も若干の減収はあったけど、それなりに対策は終わらせていたらしく、結局、国有化されたのは国全体で2割程度だったらしい。
其処ら辺は海千山千の貴族や資産家がそう簡単に財産を手放さないか。
公の仕事は下院に任せることに成ったので、表に顔を出す機会も激減したフレデリックは近頃、デニドーア公爵家やノーロック公爵家との付き合いが増えて家族同士で交流しているらしい。
兄は同じ家格の二家と殆ど交流を持とうとしなかったので、新たなエイム公爵家の誕生かも。
ギール王家に入った弟のアルバートとも良く連絡を取っているらしく、アルバート経由でオーリアのランツ6世やモスニアのレオンハルト3世、フロラルスのエル王家とも親交を結んでいると言う。
兄もそうだったけど古く名の或る家のモノは、一先ず隠して避難させて置く。
レオンハルト3世は、まだ若い家なのに其処ら辺のしきたりは理解しているようだった。
そして此のデルラの保養地には国体が変わって逃がしていた家々の人や一族もいる。
でもって兄が残念がっていたのは、ルスランがクロエと婚姻した事かな。
兄は、ルスランと婚姻させて於きたい家が在ったみたいだったけど、まあ俺は兄とクロエを並べられたらクロエの味方なので、諦めて貰った。
古い家では血に見合うモノとの婚姻で血を絶やさず繋いで於かねば、いけないようなのだ。
ソレを想うと血の浅いスチュアート家へエイム公爵家の娘を嫁がせるのは兄なりに「イラっ」と来ただろうと思うけど、実はウィルの嫡男に嫁がせたけどウィル自体は養子だからな。
ウィルのベルドア伯爵自体は古い家柄だけどさ。
此れを兄が知ったら切れただろうな、と思うと少し楽しくなる性格の悪い俺であった。
ああ、でもウィルの血筋は悪くないよ。
だってジャックことアルフレッド王太子の曾孫だしね。
そんなウィルは今頃、あの世でアルフレッドと会えているのかな。
会えているといいな?ウィル。




