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ロングロング  作者: くろ
79/85

No79 美ジジイ



    アリロスト歴1949年  1月 




  サマンサ義母さんがロンドからクリストン特区にあるアレーク・タウンの屋敷に滞在してから1年近くに成る。



 一昨年ルスラン義父が亡くなったと報せを受けて俺とミッシェルと子供達と一緒に義母サマンサの居るウィッグ島へ行き、様子を伺った。

 既にご遺体はエイム公爵領へと運ばれ教会で祈りは済ませたと俺とミッシェルに黒いベールを掛けて義母サマンサは痩せた身体を真っ直ぐに立て出迎えてくれた。


 デルラで撮った数枚の家族写真を今の壁に飾って、俺やミッシェルに微笑んで「デルラで撮った皆との写真が一番ルスランの表情が幸せそうだったから飾って居るの、素敵でしょう。」そう言って義父の思い出話をサマンサ義母さんは始めた。


 俺が思っていたよりサマンサ義母さんは元気そうで、ミッシェルと瞳を合わせて互いにホッとした。


 「ミッシェルを身籠った時にジェロームから、良い歳なんだから考えて行動しろ、ってルスランと私の2人に怒っていたのよ。45歳だったから心配して呉れたんだろうけど、酷いと思わない?」

 そう言ってミッシェルを見てから懐かしそうにサマンサ義母さんは笑いながら話した。


 確かに。

 45歳と言えば、今のミッシェルより1歳年下なだけだ。

 流石に37歳でミッシェルが懐妊した時は、此れで最後の子に成るなと楽観的な俺でも考えたからな。

 リオンにも「余り高齢で出産すると母体も危険だよ。」言われたし。

 でも、サマンサ義母さんとルスラン義父さんが頑張って呉れたお陰で、俺はミッシェルと出逢う事が出来たのだから、「有難う御座います。」って思ってしまう。

 うん?有難うは、変なのかな?


 「ルスランが眠る場所は、その内に作る心算だから今は墓所が無いのよ。良く釣りに行っていたから海にでも祈りを捧げて呉れる?本当は灰にして海へ散骨したいのだけど、正教徒は駄目だから。」

 「ええ?ルスラン義父さんは正教徒だったんですか?ミッシェル知ってた?」

 「ううん、知らない。てっきり父さんは怠け者の新教徒だと思っていたわ。」

 「ふふっ、私は便宜上新教徒だけど、ジェロームと同じよ。ジョアンもミッシェルも内緒ね。」

 「ジェロームと同じって。神とかxxxって、とても口に出せない事を言ってるんですよ、あの人。」

 「ふふっ。」



 静かにそう笑って窓の外の空をサマンサ義母さんは見上げていたのを俺は思い出していた。










        ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



  アリロスト歴1949年   2月




 

 「今日はミッシェルと2人で話したい事が在るから」と、サマンサ義母さんは俺へ告げて、ニノの運転でヨークの5番街に或る俺達の家へと向かっていた。

 ジェロームは屋敷でも買えば良いのにって言うけど、俺はミッシェルと話して、歳を取ったらデルラへ戻ろうと約束して居るんだ。


 デルラには何と言ってもマイケルの画廊があるし、今は年に一度の報告だけどマイケルが暮らしていた青い屋敷で日々じっくりと語りたい事もあるんだ。

 俺はウィリアムが亡くなっていた日、ああ、マイケル達の元へと旅立ったんだと思ったんだよ。



 ゲルン帝国とグロリア王国と連合国が会戦を始めてからは、毎年のように近しい人や知人が亡くなって行く。

 ジェロームは「歳だから仕方ないよ。」そう言って俺の頭を優しく撫でて呉れる。

 如何も何時まで経っても俺はジェロームの野良猫みたいだ。

 俺はジェロームのだから野良じゃ無いか。


 ウィリアムやパトリック議員そしてモリアーニ氏やヤング元大統領やグフィス監督やルーサーの父親のクロードやリオンの父親のトマス。


 「次は私ですな。」


 とか、本邸に行った時にディックが言うから、「止めて欲しい」と思わず怒ってしまった。


 トーエン・ビレッジでも村長のハイマン・トーエン氏が亡くなり、顔見知りの爺さん婆さんも亡くなっていて、今は息子が2代目村長を遣っている。

 ヨークでの知人達も。


 『会うは別れの始め』ってジェロームは言うけど、こうも続いて親しい人が居なくなってしまうのは、どうしようもない寂寥感に包まれてしまう。


 「淋しいなって思ったらジョアンは子供の顔でも見て於け。俺もジョアンを見ていると元気に成るし。」


 そう言って整った顔の唇の右端を僅かに上げて俺にジェロームは微笑む。

 相変わらず年齢不詳で美しいジェロームの容姿を見て俺は「美ジジイ」と呟いた。

 速攻、ジェロームの手刀がパシリと俺の頭に落ちたのは言うまでもない。







   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 

  アリロスト歴1949年     4月




 ジョアンが最近懐いて来て俺の執務室に良く居るように成った。

 セインやクロエしかり。


 もしかして俺って愛され捲くりカモ。


 そういやあのイカれたランボーモノのミントペッパーが上院議員に成っていて議会で「政府の中に共産党員が多くいる」って発言したモノだから騒ぎに成り、序にポリウッドランドで赤狩りが始まったとジョアンが零していた。

 ペッパーシズムって言って下院の調査委員会が次々と取り締まって行くんだってさ。

 

 「自由の為の戦いってビックベルト元大統領は言ってたのに。」


 そう言って口を尖らせるジョアンだった。

 結構気に入っていた脚本家や演出家、監督がポリウッドで働けなく成っているらしい。

 今、北カメリアでは思想信条の自由は存在しない。


 スピークイージ華やかしき頃、同性愛者がカミングアウトしていたんだけど、今はそんな事を知られたら俳優でも仕事が無くなっちゃう。

 殆どナショナル党のレーヴェと同じ思想だよな。

 ポリウッドランドにいる映画人て、ガロア系の人が多いから敢えてターゲットにしたのかね。


 人気俳優や作家等の芸術家がグレタリアン流な友情をカミングアウトしていたんだけど、北カメリアが参戦するように成ってからは、そう言う自由な空気は消え失せたんだよな。

 ミントペッパーみたいな奴が幅を利かせる時代だし。



 さて、ビックベルト元大統領よりタカ派と言われる国民党のトリスマン大統領。

 5選目をビックベルト大統領は頑張っていたんだけど倒れてしまって急遽、交代したんだよね。

 如何かなと思ったら当選していたよ。

 おめでとう、トリスマン大統領。


 中産階級の収入は増えて来ていて投資より消費へ資金を回しているらしく、本来なら娯楽産業である映画業界とかのジョアンもニコニコしてそうなのにな。

 まあ、ジョアンは土地を貸しているだけだから呼び出しっぽい奴があったけど、法的根拠もなかったので余り関係がないかな。


 カラー映画も撮れるらしいけど、予算の関係や監督の趣味で未だ未だモノクロ映画が多いらしい。

 昔のフイルムは、よく燃えて火事に成りやすかったけど、今は昔よりは燃え難くなり、火災保険も入れるようになったらしい。


 でもって、旧ゲルン帝国のレーヴェや旧グロリア王国のモッチリーノ達は、上得意で製作費もバンバンもらえていたし、映画も買って貰えていたから商業主義で作品を作れていたらしいのだけど、戦争中から取引が禁じられて、その流れで映画業界は政府とのお仕事をメインにしているらしいよ。

 ホワイトプロパガンダって奴。

 意識して居ない所で好き嫌いな感覚を植え付けられている。

 しっかりレーヴェの所に居た宣伝部の真似をしているって訳ね。


 技術の進歩のお陰で、大分目が疲れなく成って来たので、俺もセインやクロエ達と偶に映画を観たりもするようになった。

 試写で多くの作品を観ているジョアンに選んで映画を買って来て貰っている。

 俺みたいな細っこい年寄りを映画館へ行かせようなんてご無体なって感じ。


 浮かないジョアンに俺はペッパーシズムには自己防衛の為に余り関わるなよとは忠告している。

 魔女狩りをしている奴等って自分達は正義と思っているから、どんな飛び火が来るか分かんねーからな。


 下手な人助けはさせないようルーサーやニノに忠告して置こう。





 


       ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 

  アリロスト歴1949年  6月




 モンロー主義を掲げて御1人様が好きだった北カメリアだったけど、やっぱり不味いよねっ事で反省して、あちこちの軍事同盟にも参加する事にした。

 いや、話し合いで良いと思うけどな。



 ヴェイトが魔の手を伸ばしてきてトルゴン共和国がヤバいかも?って事で北カメリア軍はトルゴンへ行ったり、経済援助をしたり。

 

 また、ハーフシチは閉鎖によって西側三国管理地区『西プロセン』への食糧・石炭・医療用品・生活用品をストップして北カメリア軍など西側の占領部隊が撤退せざるを得なくなると考えていたのだけど、これに対して北カメリア軍司令官ドレイ将軍は、物資の空輸による補給を決意。


 『陸の孤島』西プロセンへの空輸を実施した。


 この北カメリア空軍による『大空輸作戦』は4月末より15ヶ月に渡り延べ17万回、総輸送量103万トンに達し、西プロセンの市民生活と占領軍を守った。

 ヨーアン諸国は北カメリアとヴェイトの全面対決への展開を恐れたけど、ヴェイトのハーフシチが譲歩し、国連の場で両国外相による交渉が行われ、プロセン連邦共和国『西プロセン』が樹立された直後の1949年5月11日、プロセン封鎖を解除した。 


 意地の張り合いをせずに良かったよ、マジ。

 北カメリア、大人気ないと思うのは俺だけか?



 飴色の瞳を少し顰めてセインは籐のアームチェアーに腰を掛けて、新聞に載っているオーリア帝国の崩れた劇場の写真を眺めて、口を開いた。

 


 「しかし、オーリア帝国は街は破壊されてるし、4ヶ国に占領されているし、ポリゴン博士がギール王国から帰郷しても悲しむだけかも知れないね、ジェローム。」


 「まぁ、ポリゴン博士一家は、命があっただけでも運が良いと思うけど。強制収容所でのガロア人殲滅は徹底した情報封鎖をされていたみたいだから、強制収容所に入るまで、まさかナショナル党やレーヴェ達が其処までするとは思っていなかったみたいだね。移動させられるだけみたいに思っていたみたいだし。ホントにセインは良く動いたと思うよ。」


 「何だかね、レーヴェ総統からガロア人へに激しい憎悪を宣伝文から感じてね。居ても経っても居られず動いてしまったよ。しかし若いランツ6世は、如何するのだろうか。」

 「モスニア帝国が預かっているオーリアの占領地に、壊されてない王家の小宮殿が或るそうだから、暫くレオンハルト3世は、其処でランツ6世に滞在して貰う心算らしいよ。」


 「俺もレオンハルト3世から手紙を貰ったのですが、安全の為、モスニアへ来るように誘ったらしいのですが、ランツ6世はオーリアを離れらたくないそうですよ。」

 「ランツ6世の為、其処を占領地と決めたような采配だな。矢張り妻の義兄にはレオンハルト3世も気を遣うみたいだな。ふふっ。」


 「でもジェローム、セイン・ワート氏一番悪いのは侵攻したレーヴェ総統だけど、国連軍の遣っている事って、国をバラバラにしていっているだけのような気がするんですよ。レーヴェ総統は確かに止めねば成らなかったけど、国連のその後を見ていると、、、。」


 「まあジョアン、イニシアティブを取りたいからね。特に今回はね。」

 「資本主義を否定されたら西側の多くの国は困った立場に成るからな。しかし民主主義と資本主義は同列に並べられ無いのは僕でも判るのにね。」

 「社会主義=一党独裁って暗示に掛けたいのだろうさ。セイン、ジョアン。」


 「はあージェローム、国内の民族同士が此処まで分断されるとな。」


 「仕方ないよ、セイン。別にオーリアの事を考えて動いている訳でも無いし。ヴェイトにしても北カメリアにしてもグレタリアンにしても、当然モスニアにしても自国の利益を考えて動いてるしね。」



 東西プロセンとオーリアは、ヴェイトと北カメリアの外交戦争の最前線になる訳だ。

 俺とか、オーリアに絶対、住みたくねえー。

 まっ、今の北カメリアの空気も苦手だけどな。


 でもって当然、ヴェイトの情報員は北カメリア北部にも入って来ているだろうし、唯その人達がペッパーシズムの安易な調査とかで見付かるとも思えないけどな。

 あの高圧的な赤狩りは、庶民を脅しているように見える。

 共産主義者や共産党員って言うレッテルを張られたら市民生活を営めなくなるし。


 ジョアン達を笑顔にする日々は遠いな。

 俺はそう思ってジョアンの座っている右向かいを眺めた。


 柔らかな羊毛のような短い髪にジョアンの唇から吐き出された紫煙が薄く掛かっている。

 右の手の人差し指と親指で抓む様に煙草を持って、少し気取ってジョアンは唇へ紫煙の立ち昇る煙草を咥えた。

 ふふっ、それってウィルの吸い方其の侭じゃねーか、ジョアン。


 そんなジョアンも俺に『ジジイ』と悪態をつけるように成った。

 『糞ジジイ』ではなく『美ジジイ』って言うのがジョアンらしい。

 怯えて俺に懐かなかった11歳の頃の野良猫ジョアンが懐かしい。

 気が付けばジョアンも56歳に成ってるけど、俺の目に映るのは拾った頃の少年の侭のジョアンだ。

 歳は経てるんだろうけど、そのイメージが強くてジョアンは俺の中でジョアンの侭だ。


 セインは流石に爺様に成ったけど、俺の大好きな飴色の瞳はジェローム探偵事務所で助手をしていた頃の侭。


 俺が投げ遣りで冷たい性格なんだけど、セインやジョアンやクロエが優しくそれを中和してくれているんだよね。

 きっと俺一人だと靄ついて性格がもっと悪くなっていたと思う。

 「此れ以上、性格を悪くして如何よ?」ってウイルが居たら突っ込まれそうだ。

 まあウィルは忌々しい性格の侭、俺に何も言わずに逝っちまったけどさ。


 俺達のグランマ・クロエは忌々しいウィルが居なく為った俺を心配して来てくれたんだろう。

 北部で流行の映画を観たかったって俺やセイン、ジョアンへクロエは話して呉れているけどさ。



 さて、待ちに待ったバカンスだ。

 今年もデルラに帰る準備をしよう。

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