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ロングロング  作者: くろ
78/85

No78 胸焼け


      アリロスト歴1945年  2月




  ジェロームが第二次ヨーアン戦争は終わったと言って居たので、恐らく終わったのだろう。




 1942年から始まったゲルン帝国とグロリア王国対メインはグレタリアン帝国と北カメリア連邦国とヴェイト社会主義共和国連邦とモスニア=フロラルス帝国との戦争は、敗色が濃厚になった1945年の1月にレーヴェ総統の自殺に寄り幕を閉じた。


 ゲルン帝国は、解体されランダ共和国・オーリア帝国・ハンリー王国・バンエル共和国・チーズ王国・バロキア共和国・ポーラン共和国・ルーニア王国・セルアート王国・デサーク王国・ノール王国へと戻っていった。

 破竹の勢いの拡大だったけど、レーヴェの自殺と共に潰えてしまった。

 

 ポーランとデサーク・ノール以外の国はゲルン帝国として統合されて、レーヴェ総統たちと懸命に連合国と戦ったので被害も大きく、歴史的な建造物や記念碑も多く破壊されたらしい。




 グロリア王国は北カメリア軍がベリカワ半島から上陸し、モッチリーノを捕獲して居たそうなのだけど、民兵たちにモッチリーノや親衛隊・愛人は裁判も掛けられず私刑に合い吊るされて晒された。

 モッチリーノたちファシスト党が遣っていた共産党や労働者への暴力行為を報告で読んでいただけに同情は出来ないが、せめて裁判で証言をさせたかったと思う。

 後の世の為に。

 グロリア王国から保護国とされていたアイスバニラ王国と占領されていたアシェッタ王国も解放されたけど、アイスバニラもグロリアも有権者たちは王政廃止を望んでいた。


 そしてモッチリーノが、どさくさに紛れて植民地にしていたプリメラ大陸のソルロモン王国は、前もって話していた通りに北カメリアが保護国にした。



 そしてゲルン帝国は、プロセンに成り首都のベルラックは、グレタリアン・北カメリア・ヴェイト・モスニアの4ヶ国で共同管理することに成った。




 ポーラン共和国はグレタリアンとヴェイトが矢張り揉めて、結局は北カメリアのビックベルト大統領の仲立ちに寄ってポーランは大きく西に移動し、クラナドやライナに掛かる領土はヴェイトに割譲されたけど、プロセンへ寄った分だけ領土は広がった。

 でもって選挙は亡命政府のビールスキと共産党が労働党と名を変えてトウフスキが戦った。

 普通に選挙をするとトウフスキが負けてしまうので、民主ブロック選挙を行い、自分へと投票させてトウフスキは勝ち残った。


 失意の中、グレタリアンにビールスキは亡命して亡命政府を再度作った。




 オーリア帝国は自主的にレーヴェのゲルン帝国と一体化したと言う事で、こちらも上オーリアが北カメリア、西・中央オーリアがグレタリアン、北オーリアはモスニア、下オーリアがヴェイトと4ヶ国で分割統治をすることに成った。

 俺は、未だ若いランツ6世の事を想うと胃が重たくなる。

 国を分割されるのは、国民を御せなかったランツ6世の所為とか言わないよな??



 そしてギール王国は『永世中立』になるとアルバート1世は宣言した。

 ジェロームの甥っ子だと言うアルバート1世は、此の短期間で2度もゲルン帝国に攻められたので、二度と国土を他国の軍に荒らされたくないと考えたのだろう。



 国際連合での話は、揉めてばかりで結局は5度も会議を行うことに成り、話し合いなのに闘いが始まりそうな様相を呈している中、ビックベルト大統領は4度目の再選を果たした。

 「中立」の筈なのに、ビックベルト大統領は公約違反だ!と言われながらも、気が付けば、なんと失業率が5%を切っていた。

 偏に武器弾薬製造や戦闘機などなどの製造がフル稼働だっただけのような。

 正にヨーアン諸国の弾薬庫だったみたい。



 でも何でだろう。

 俺は、ちっとも戦争が終わったと言う実感が無い。

 闘いが終われば軽口も増え、ジェローム達の纏う空気がもう少し弛緩している筈なのに、何故かそれが無いんだよな。


 白い瀟洒な扉を開いて、補佐官クラークが足早に執務室の室内へ新たな情報を運んで来た。







 


   ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





  アリロスト歴1948年   6月




  昨年ルスランを天国へ見送ったクロエは、「淋しいから来ちゃった、テヘっ。」と舌を少し出して俺に微笑みかけた。

 いやー、90歳過ぎたクロエが、可愛い子の振りして、若い子ブってもなー。



 クロエは俺の向かいで、細く成った白い髪を纏めて、黒の喪服に身を包んで籐の揺り椅子に座わり、生成りのレースを編んでミッシェルの部屋で飾るテーブルクロスを作っていた。

 俺はクロエの居る談話室で、ルーサーの淹れた珈琲を飲みつつ、籐椅子に座って「グランマ」とクロエに話し掛けていた。


 「娘のミッシェルの所へ行ったら?サマンサ。」

 「ふふっ、ジェロームが寂しいでしょ?知人が亡くなって行って。せめて私ぐらいは賑やかしでジェロームの近くに居て上げるわよ。ウィルも居なくなったのは寂しいわね。ジェロームと気が合っていたのに。パトリック議員もね、結局は辞められなかったわね。議員を。」


 「まあー、皆ジジイだったからな。俺もそうだけど60歳に成った頃に色々と覚悟はしているよ。でも、有難うサマンサ。パトはアレだな、レナードに看取られて幸せそうだったと奥さんが言ってたよ。まあ、ウィルなんてジョアンが起しに行ったら、あの世に逝ってたからな。まっ、みんな90歳過ぎてんだから大往生だろう、ふふっ。」


 「そうね、一先ずは戦争も終わったから安心したのね。子供や孫達が笑顔で過ごせると良いなってルスランは言っていたモノ。ミハイルを見送ってからルスランも肩の荷が下りたみたいだったから。」

 「まあ、ヴェイトに成ってからは旧ルドア帝国については、ミハイルも踏ん切りが就いていたみたいだしな。別の国に成ったってさ。そう言えば2人の亡骸は?」


 「ジェロームの甥のエイム公爵が、公爵領に或る墓所で預って呉れているわ。私の時代ではルドアへ返して上げられないと思うから、子供や孫へ手紙を書いておくわ。」

 「ニックやミッシェル、ダリウスは驚くだろうな。父親のルスランが元皇太子って知ったら。」

 「でもニックは薄々気付いて居ると思うわ。何と無くね。私とルスランがミハイルの話をしていたのを聞いて居ると思うのよ。」


 「結局は北カメリアの銀行へ預けていた資金は其の侭だったな。でも、確かにそうだな、俺とサマンサの時代では、ルスランを故郷のルドアへ返して遣れないな。ビックベルト大統領が変な演説をするから、ヴェイトと拗れてプロセン国が東西に分かれてしまったからな。」


 「住んでいる人達も堪らないわよね。急に往来が出来なくなるなんて。」

 「ホントにな。」



 終戦前から、北カメリアとグレタリアン陣営はヴェイト陣営との対立をプロセン問題へと持ち込まれ、民主化と自由主義経済を基本とする経済復興をめざす西側と、社会主義化を目指すヴェイトとの理念の違いが次第に表面化した。


 まあー、互いに不信感を持ってたしな。


 グレタリアンのピース首相は、あからさまにヴェイトへの不信感を口にしていたからな。

 全く、大人気ない。



 1,948年、プロセンの通貨改革を機に一気に拗れてベルラック封鎖にヴェイトは踏み切った。

 此れで4ヶ国の管理理事会が機能しなくなった。

 もうさ、互いに歩み寄る気持ちとか1mmもないよな。



『いつでも遣ってやんよー』ってな構え。

 いい歳をしたオッサン達は何を遣ってるんだか、恥ずかしい。

 でもって西側管理地域はプロセン連邦共和国『西プロセン』、そして東側管理区域は『東プロセン』となり、東西が分断された。



 1948年年4月20日、プロセンの西側三国(北カメリア・グレタリアン・モスニア)占領地域で新通貨ゲルンマルクが発行され、同時に自由価格制が敷かれるという通貨改革が行われた。


 当時プロセン全域で流通していた旧通貨は戦時に膨張して価値が下落していたので、経済の復興のためには新通貨の発行が不可欠と考えられ。

 終結宣言でも「プロセンを経済的に一体とみなす」とされていたけど西側陣営は、ヴェイトが占領地域で土地改革を実施し、社会主義化を進めていることに不信感を持ち、西側占領地域だけの通貨改革に踏み切った。


 ゲルン・マルクは前年から北カメリアで印刷され、暗号名「バード・ドッグ作戦」と呼ばれる輸送作戦で密かに西側地区に運ばれたものであった。

 この西側の措置はハーフシチ体制下のヴェイトを強く刺激し、両陣営の対立がエスカレートすることとなった。


 もう陣取り合戦を水面下で遣っていたつうね。



 実は終戦を告げてからグレタリアンでは選挙が在ったのだけど、「共産主義との戦い!」つうピース首相より、労働党の『ゆりかごから墓場まで』の社会保障政策に有権者の支持が集まり、セイヤー氏が首相に成った。


 つう訳で圧倒的多数で単独過半数を取った労働党。

 重要産業国有化と社会保障政策を謳った暴力を伴わないニコラス論を主軸にした社会主義革命かな?

 保守のホリー党は戦争に勝ったピース首相の人気は高かったけど、それに縋った形というか、ピース首相しか居なかったってのもある。

 デバーレイ元副首相や他の有名なホリー党議員は鬼籍に入ったり、引退したりしていたしね。

 フーリー党は、グスラン議員やパトが亡くなってパッとせず12名しかフーリー党議員は、当選しなかった。


 「財源を確保する為に重要事業を国営化するそうよ。電気やガス・列車や地下鉄なんかをね。」

 「ええー、それって上院は難しくない?サマンサ。財産を奪われるようなモノだろ?」

 「もう大騒動だったわ。それで、女性にも21歳以上全てに選挙権が渡るわ、ジェローム。恐らく此れでセイヤ―首相は有権者に信を問うって言って選挙をする心算ね。」

 「へぇー。何と無く社会主義的な施策だね。サマンサ。なんだかピース元首相はヴェイトとの対決姿勢を鮮明にしているのに、有権者の意識は正反対なんだな。セイヤ―首相を支持してるんだから。」


 「正直、本土攻撃が有ってから、45年の終戦まで長くて暫くは戦争は要らないって感じるのよ。どうしてもピース首相って闘う人って感じだしね。それにガロア人の被害が酷かったでしょう?戦後、詳しく新聞に書かれるように成って胸が痛かったわ。」


 「まあーね。ガロア人の被害に関しては、宥和政策を執らざるを得なかったヨーアン諸国の責任でも或るよな、あの数は。でも俺達に何か出来るってモノでも無いから、クロエは余り気に病むなよ。あっ、クロエって言っちまった。」

 

 「ふふっ、クロエって呼ぶって事は緑藍のその心配は素で言っているのね。有難う。そう言えば北カメリアとグレタリアンとモスニアが揉めているって記事に在ったわ。モスニアって静かなイメージがあるから何だか以外ね。」


 「あれか、国際通貨基金には入らないと締結を拒否した奴か。北カメリア主義だしな。元々ヨーアン諸国で貿易を行って居るのは同盟国と言うか、ほぼモスニアと同じのフロラルスとだけだし、今回の恐慌にも余り影響を受けて無かったしな。フロラルスやオシリス、カレ、プリメラと上手く経済を回して居るし、何が悲しくて北カメリアのドルと金を交換せねば成らないんだって言う話だ。モスニアの通貨の決定権はレオンハルト3世の専権事項だしね。」


 「モスニアはヴェイト寄りだと書かれてたわ、ジェローム。」


 「銀本位制だしね。外資の金融機関はモスニアで営業出来ないし、為替も然り。統制経済って言えば統制経済だけどな。資本主義って言うか通貨経済の穴を塞いでいる体制だな。投資家は入れないつうか稼げない。まあ、北カメリアやグレタリアンとは相性が悪いだろうな。ヴエイト寄りって言えばそうかもよ、サマンサ。」


 「それで戦争には成るの?ジェローム。」

 「いや、今は成らないよ。後から来た北カメリアが此のルールを遣ろうって話して、言う事を聞かないなら戦争だ!って終結直ぐに言ったら国内外とも信用を失うしね。まあ今回作ったモノが新たな国際連合だと北カメリアは話しているらしいけど。」


 「はあ、戦争が終わっても揉めてばかりね。あちこちで。」

 「ホントな。ジョアン達の子供には戦争に行かせたく無いな。」

 「そうね。」



 クロエと俺はオリーの運んで来た冷えたエールを手にして、軽くグラスを合わせて黄金色したそれを口にした。

 心地良い苦味と気泡を愉しみつつ、乾いた喉を癒した。

 

 そして、ふとギール王国にいる甥のアルバート1世を想った。

 珍しいよな。

 皇太子教育も強いて受けてなかったアルバート1世が国民を守ろうとするなんて。

 何時の間にか皇帝が守る側に意識の変容を起こして居る。

 

 1884年辺りでは皇帝は守られるモノで、そして住民も自分達を~国の国民とかは、考えて居なかった筈なのに。

 あくまでもその地域の住民であったはずなのに、大戦を経て、そしてゲルン帝国のレーヴェとの戦いが合って、何時の間にか国民と言う意識が根付いていた。


 モスニアが作っていた国際連盟の『民族自決』という言葉が行き渡ったのだろうか。



 そんな事を俺はほろ酔い気分でフワフワ思い、グランマクロエのルスランの思い出を聴く。



「 『君の瞳に乾杯』ってルスランは言うのよ、素敵でしょ?緑藍。」


 

  ルスラン、、、甘過ぎだ。

  俺は軽い胸焼けを誤魔化すように、冷えたエールを喉の奥へと流し込み、オリーへエールのお替りを頼んだ。

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