No77 スタンドアップ
アリロスト歴1941年 4月
ゲルン帝国のレーヴェが1938年オーリア・ランダ・バンエルを占領したのを見て、グロリア王国のモッチリーノはアイスバニラ王国へ侵攻、親グロリアだった国王を其の侭据え置き、保護国とした。
先の大戦終了後、オーリア帝国から独立国となり立憲君主制をとったけど、ムーン教の地主達の部族政治が続いている中で金融恐慌の不況が続き、グロリア王国に経済的な依存を強めていた。
「アイスバニラの国王はグロリア王国に併合されたがっていた。」
そう言うアイスバニラ王国の事情も在って、モッチリーノの言葉も分かるんだけどさ。
実はチーズ国をゲルン帝国が併合した時にレーヴェとモッチリーノは交渉をしたそうだ。
そっちの方に国際連合はザワザワしたそうだ。
ウィルの部下の報告。
1939年9月、そんな慌しい中でなんとゲルン帝国とヴェイトがポーラン共和国へ侵攻。
ゲルン帝国は西ポーランを制圧、ヴェイトは東ポーランを制圧し、ポーランを密約道理に分割した。
流石に怒ったフリのグレタリアンのマイクロフト首相は、ゲルン帝国へ宣戦布告をし、ヴェイトへも批難声明を出した。
1940年、そしてヴェイトはバトル三国へ侵攻し、ゲルン帝国はデサーク王国、ノール王国へと侵攻し、グレタリアン帝国を仰天させた。
ノール王国は北方の島国で海を行けばグレタリアン本土に近く、防衛上大きな穴が開くことに成るからだ。
ノール王国へ慌ててグレタリアンは海軍を出して救援しようとしたけれど、上陸に失敗しゲルン帝国軍にノール軍港は占領されてしまった。
マイクロフト首相は上陸失敗の責任を取り辞任し、ピース陸軍相が首相に成り、「ゲルン帝国と徹底的に戦う決意」を表明した。
今までの宥和政策から180度方向転換したグレタリアンへ見せしめのようにゲルン帝国はグレタリアン本土へ空爆を仕掛けて来た。
この空爆はグレタリアン上空、カレー海峡で7月10日から8月31日まで行われた。
グレタリアンとゲルン帝国との世界で初めての激しい空中戦が続いたと言う。
そしてモスニア=フロラルスはグレタリアンの支援支持を表明した。
この時ギール王国へ侵攻して来たゲルン帝国の戦車隊等を防ぎながら、グレタリアン軍と救援しに来たモスニア=フロラルス軍は、3万のグレタリアンの駐屯兵やギール国民達を守りながらフロラルスのマンディ港から避難を完了させた。
俺は執務室でウィル達と上がって来た報告を読みながら息を吐き出した。
大戦時に市街へ空中から爆弾を投下された報告を読み、下宿112Bの地下やブレード地区のセインやミューレンの煙草屋クレッグ貸本屋の地下やタウンハウスには防空施設を兄は作らせていた。
準備が良いと言うか何と言うか。
まあ、ヨーアン諸国が戦争をしない訳がないと言う兄の諦めなのかもね。
「セイン、オリビア達は大丈夫だったか?」
「ああ、ブレード街の僕の家に皆、避難したそうだ。亡きエイム公爵には感謝してもし足りないよ。ジョアンはヨークの自宅かいジェローム。」
「うん、妻のシルビアが心配だからと本土攻撃の一報が入ってから、ジョアンは自宅に居るよ。サマンサとルスランは小さな島だし、心配だからとロンドの下宿112Bへと向かわせていたけど、大丈夫だったみたいだよ。勿論ニック達もね。」
「ウィルは?」
「ウチはウェットリバーの領主館へと非難させたよ。田舎だし、此れと言った重要施設もないからね。しかし、バレン宮殿にまで爆弾を落とすとは。ジェロームも姪のエレイン皇太子妃が心配だったろう?」
「まあ、あそこの守りは特別だし、バレン宮でヤラレるなら運が無かったと諦められるよ。皇太子夫妻はロンドを離れないと言ったそうだね、ウィル。」
「ああ、ジェローム。ピース首相が勇気ある真の皇帝陛下と言って賛辞を送り、臣下の礼を取ったそうだよ。」
「駄目じゃん、そんな事を言ったらピース首相も。スチュアート4世が拗ねるよ。」
「仕方ないさ、スチュアート4世は一目散に保養地へ愛人と逃げて行ったんだから。全くエリザベス皇后が肺を病んで亡くなってから気儘に成って。お目付け役だったデニドーア公爵も、もういないしな。」
「でも通常はスチュアート4世で何の問題もないし。しかし、戦闘機ってアルコール燃料で早く移動出来るモノなんだね?ウィル。ゲルン帝国やモスニア帝国の技術力に驚いたよ。」
「グレタリアンも中々だと思うけど?ジェローム。爆撃機なんかは負けているけど、戦闘機は戦果を挙げているよ。未だ未だ故障は多いけどね。」
「全くさ、お金が足りないって緊縮財政していたのに、900機以上の戦闘機をお釈迦にしても未だ余裕で残してるとか。マイクロフト首相は宥和政策を執って戦争を回避したかったのじゃ無いのかよ。」
「いや防空体制を整えていた事はジェロームも褒めて上げなよ。此れが無いとグレタリアンは負けていたんだからさ。でもパイロットが少なくて足りなかったから、ポーランやギール王国、北カメリアの空軍義勇兵に力を借りたんだよ。他にもエーデンやノール、デサークにもね。」
「アレ?北カメリアは中立じゃあ?ああー、義勇兵か?ウィル。」
「そう言う事。エーデンがノールやデサークの義勇兵を船で回収してグレタリアン迄、届けて呉れたんだよ。しかし今回はロンド市街が見事に燃え落ちているらしくて、貴族街のある場所も被害が大きいらしいよ。」
「血の気の多いピース首相がロンド市民の復讐心に後押しされて、ゲルン帝国の市街地も攻撃するから。始めはゲルン帝国も軍の施設や軍工場だけを攻撃していたのに、事故って墜落した敵の戦闘機を攻撃だと煽るからさ。お互い市街地攻撃戦に成ったんじゃん。」
「スロン王国や教皇、モスニアからもレーヴェと交渉するようにと説得して来たんだろ?ウィル。市民の被害が大き過ぎるから。」
「でもまあ交渉して来たマイクロフト首相は裏切られた形だろ?ピース首相は独裁国家ゲルン帝国に甘い態度は取らないと断言したしな。ジェロームもマイクロフト首相の宥和政策に批判的だっただろ?」
「そうだけどさ、で、突然空爆中止をして休戦した理由はなんだい?ウィル。」
「ああー、グレタリアンとの話し合い後、ベリカワ半島にグロリア王国と同盟を結んで軍を進め、セルアート共和国とアシェッタ王国へ侵攻したらしいよ、ジェローム。」
「ええー!如何したんだろレーヴェって。ベリカワ半島は元からヴェイトも狙っている場所じゃん。幾度狙ってトルゴンと戦争したと思ってんだよ、ウィル。ヴェイトとゲルン帝国って悪魔の結婚って言われてたのに。つうかレーヴェは破滅願望でも或るのかな。西の端から東の端ってレオンハルト1世でも目指して居るのかも。此れって絶対、ヴェイトとも揉めるだろう、ウィル。今はカザーフ王国がコミンテルへの抵抗運動を始めてるし、クラナドも反ヴェイトで国内が割れているしで集中出来てなかったけど、技術力が遅れていても人口だけは多いから、本気で戦うとヴェイトってヤバい国だよ、ウィル。」
「ジェロームも言いたい事は在るだろうが、先ずは落ち着こう。グレタリアンへの本土上陸が達成出来なかったから、冬に成る前にベリカワ半島を抑えたかったんだろう。」
「いやウィル、ピクニックじゃねーんだから。」
「あそこの冬の戦闘は最悪だよ?昔、グレタリアンも酷い目に在ったし。いやさ、レーヴェも戦果は必要なんだよ。ゲルン帝国へグレタリアンから都市攻撃はされているし、でもレーヴェの戦果は在りませんじゃあ、国民の支持率低下は著しいだろ?ジェロームも判っているだろうけど、あーいうポッと出の人間が好き放題に遣れるのは、支持されている、此の一点だからな。」
「いや、分るけどさウィル。」
俺はそう言ってライティングデスクの上に置いてある銀色のシガレットケースの蓋を開け、煙草を一本抓み上げ口に銜えた。
長椅子に腰掛け苦笑いをしているウィルはセインと一緒に、久しぶりにクロードが淹れた薫り高い珈琲を味わい始めた。
結局、ヨーアン大陸西部の雄・グレタリアン落ちず。
アリロスト歴1942年 2月
予測通り怒ったヴェイトはゲルン帝国との条約を破棄し、国際連合に呼び掛け、対ゲルン帝国対策会議を開催した。
対策会議と言うか、勝った後にゲルン帝国の領土と現在ゲルン国が持って居る植民地を如何するかと言うエグイ分け前の話。
チャッカリ北カメリアも入って居ると言う。
一応はグレタリアンが攻撃された時に同盟を結んで国際連合の借りの仲間に成ってるけどな。
でもってヴェイトのハーフシチ書記長がコミンテルの解散を約束したので、北カメリアとグレタリアンも友好を確認し合った。
いいのいいの。
外交なんて建前が整っていれば。
親愛の情なんて本気で言えるのは、レオンハルト1世みたいな天才だけだから。
オーリア帝国のランツ6世やギール王国のアルバート1世もモスニアのレオンハルト3世と一緒に参加している。
ゲルン帝国の植民地って言っても、今増やしている植民地って、ランダ共和国やギール王国やオーリア帝国のモノだからな。
まあ、喧々諤々話し合われて、北カメリアやグレタリアンやヴェイトにもプリメラ大陸や南カメリア大陸の植民地が分けられていった。
一応はヨーアン諸国の国境線はゲルン帝国に占領される前に戻すとして、ヴェイトに北方3島の独立も約束させて、ゲルン帝国とグロリア王国と戦う事が決まった。
北カメリアは議会の承認が降りればヴェイト以外に武器のレンタルをしてくれる。
ギール王国やエーデン王国やグレタリアンは国庫がカツカツなんだよね。
オーリア帝国のランツ6世は微妙な面持ちで話しの成り行きを見守ったそうだ。
それりゃさあ、国民から要らね!って言われた様なモンだしね。
7割以上がレーヴェを支持している現状だとさ。
落ち着いたら、外交とかの役割を引き受けて見れば良いと思うよ。
閣僚とかそう言う奴じゃなく、権力が絡まない立ち位置モノで。
ハンリ王国は、ヴェイトがコミンテルを解散してくれるって言うので、トルティ宰相もホッとしているようだった。
そんな訳で開戦なのだけど、ビックベルト大統領は『帝国主義と民主主義との戦い』とかブチ上げたので、きっとモスニア=フロラルス帝国のレオンハルト3世とかイラっとして居ると思う。
序にグレタリアン帝国も。
そして『4つの自由』の為に戦うとビックベルト大統領は演説し、有権者の支持を得た。
『言論および表現の自由』、『信教の自由』、『欠乏からの自由』、『恐怖からの自由』
流石に3選もしてしまえる大統領は強いのだった。
なんかさあ、ジョアンが「此れでガロアの人は助かりますね」って、表情を明るくしてジャックに良く似た耳に心地良いハスキーボイスで話して呉れるんだけど、俺は複雑な思いなんだよな。
もっと早い時期にゲルン帝国を止められた筈なんだよな。
グレタリアンも当然モスニアも北カメリアも。
結局はゲルン帝国の爆撃機と戦闘機を使われたら、自国も安全じゃないとグレタリアンを見て、腰を上げたって形なんだよな。
つうか俺も動かなかったしな。
まっ、俺が動いたとしても気泡の泡みたいなモノだから、動いている時代の前じゃ無意味だと思うし、兄もあの大戦は防ごうと動いていたみたいなんだけど、一ヶ所の争いを防いでみても結局は似たような動きで連鎖的に動いて、どうにもならないって感じだったみたいなんだよね。
だから兄は、今後の事を想って、俺や俺が大事に感じている人を個別に守ろうと、動いて呉れていたのだろう。
毎日慌しく報告書が届く中でクロエから見慣れた文字で手紙が来ていた。
空爆が合った時もロンドから逃げずにクロエは下宿112Bで過ごして居た様でルスランやニック妻のヒルダや孫達、そして下宿人達と過ごしたと綴っていた。
ミハイル一家はエイム公爵家の領地へフレデリック達は非難させたそうだ。
主に夜に空爆が合ったそうなのだけど、三日も過ぎるとグレタリアン・スピリッツで皆、冷静に成り、朝に成れば普段通りに仕事へ行ったり、デパートや商店は開店していたそうだ。
ミンティ・クリケット・グランドではクリケットの試合も合って観戦していたと言う。
それって、冷静に成っているのだろうか?
そう思わなかったでも無かったけど、セーラ病院では普段より神経症を発症して病院へ訪れる人は、激減していたそうだ。
つうか、クロエってば、危ないのにロンドの街をウロツキ過ぎだろ。
俺も日頃は忘れてるけど、クロエも84歳でルスランなんて85歳じゃん。
焦って道で転んでしまって寝たきりに成ったら如何するんだよ。
って75歳の俺に心配されてもアレだろうけどさ。
ロンド市民たちが不屈の精神で自らで地下シェルターも作り始めたそうだ。
それは家族用の小さなものから、50人程度が入れるコミュニティサイズのモノまで。
逞しい。
流石、自助努力をDNAに刻み込んでいる人達だよ。
グレタリアン政府も堅牢な地下鉄構内を解放して、本格爆撃の数週間約175,000人の市民たちは避難して人的被害を抑えたらしい。
なんかクロエはウキウキ楽し気に通りの様子や焼け落ちたビルディングをルポタージュしてくれてるけど、時折滲んでいるブルーの文字には、俺も気付かない振りをしておくよ。
『私達は俯かない!スタンド・アップ!!』
そうキリリとしたクロエの文字で〆られていると思ったら、「鳩レース」負けちゃった!悔しいーっ!て書いていた。
うん。
クロエはやっぱりクロエで、俺も安心したよ。




