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ロングロング  作者: くろ
74/85

No74 決め台詞


   アリロスト歴1937年  9月



 兄が体調を崩したと言うのを、補佐官クラークから小耳に挟んだ俺はサクっとロンドまで見舞いに行き、痩せた兄の身体をハグして別れを告げ、北カメリアへ戻ってきた。

 兄も俺も互いにもう歳なので、何が合っても良いように手筈は整えているので、生存確認をしたって感じだ。



 ついでにクロエにも顔を見せミッシェルと孫たちの写真も渡して来た。

 ルスランと亡命して来た従弟のミハイルは釣りに良く出掛けているらしい。

 ミハイルの娘と孫娘はウィッグ島は田舎過ぎると言う事でロンドの共同住宅で暮らして居る。

 ルスランもミハイルも父親とは娘から捨てられるモノらしい。

 そう言ってクロエは笑っていた。


 まっ、男なんて種を撒いてるだけだしな。





 ロンドでは、マイクロフト首相はアーサー・バレン副首相の操り人形と揶揄されているらしいけど、いやあ、外交ではフリーダムな気がするけどな。

 絶対、保守のホリー党なら宥和政策とかゲルン帝国と二国間で結ばないだろう。

 後の事を考えて、遣るにしての他の国も巻き込む筈だ。


 だってチーズバロキア共和国へ「ゲルン民族が多いから元チーズ王国くれ」って、レーヴェが言いやがったよ。

 確かに人口比だけで言えば多いけどさ。

 チーズバロキア共和国としては「やだ」って拒否ったけど、元々は無理矢理くっ付いていた場所だったんだよね。

 でもって先の見えない不況の中、ブイブイ言わせてるレーヴェのゲルン帝国へと加わりたい元チーズ王国の多数派が動き回って、バロキア共和国と離婚を決意。

 そして元チーズ王国はゲルン帝国に嫁ぐことに成った。


 ヴェイトともレーヴェは何か密約があるのでは無いかと思う。


 宥和政策中のグレタリアンは「もう拡大しちゃ駄目だよ。」とレーヴェに期待しつつ、眺めていた。

 らしい、補佐官クラークからの報告。

 グレタリアンてヨーアン大陸の管理者か何かなのかね?

 違った。

 この世界の支配者の心算だったんだよ、グレタリアン人て。



 だけどアーリア大陸や周辺或る国々は、真龍帝国を中心に纏まっていた。

 北カメリアの視線は既に真龍国だし、有権者たちが反戦モードじゃ無ければ、ダイナミックお邪魔しますって、仕掛けたい所なんだろうけども。

 でもモスニアやオーリアと交易しているから今更なんだよなー。

 大体、北カメリアはグレタリアンと一緒に成ってヒャッハーして来た過去があるので、通商交渉は無理だと思う。

 俺も緑藍の時にグレタリアンと北カメリアには充分に気を付けろと言っていたし、書き残して来た筈なんだよね。

 子や孫たちが守って居ればだけど。



 まぁー、俺がジョアンやセインみたいにガロア人へ対するレーヴェの処置を批判しないのは、緑藍の時、了族に対して絶滅処置をしていた所為でも或る。

 腐敗行為も酷かったし俺達真龍族へ取って代わって皇帝の権力を奪おうとしていたし、お前等了族と遊んでいる暇ねーからと、光明兄さんが追放していたのに戻って来て、暴動とか起こすから俺が先頭をきって始末しちゃったよ。


 ちょうどグレタリアンが真龍帝国へ殴り込みを掛けて来ている頃だったので、グレタリアンの海賊と共に了族も遣っ付けていた。

 

 俺が光明兄さんの代わりで皇帝に成り代わって、日夜頑張って居ると了族に対して酷いつう意味の解らん決議を突き付けて来たので、大砲でグレタリアン等を弾き飛ばしたけどな。

 で、半島へ追いやっていた了族をグレタリアンは連れ帰り奴隷にしたようなのだけど、気が付いたらグレタリアン本土でアヘン窟とか作って、治安悪化へ一役買って居たのでプリメラ大陸の植民地へ島流しをした。

 グレタリアン人は何を遣ってんだろ?って話。

 そんな訳でグレタリアンは北カメリアと一緒になってアーリア人の移民禁止にして排斥運動をし、法律でアーリア民族の居住を禁止した。

 常識的に考えれば、そんな国と交易なんて出来る訳は無いよな。


 そんな大嫌いなグレタリアン人であるジェロームの肉体で俺が目覚めて53年も経ってしまった。


 目覚めて直ぐはストレスマックスで俺も遣りたい放題だったけど、ジャックやクロエも居て、でもってセインに癒されている内に妥協的産物と言うか、セインやジャック、クロエを中心に守って行きたい奴も増えて来て、それなりに暮らせていたけどさ。


 まあ、ジャックが消えて、なんかグレタリアンで暮らすのが嫌に成って、兄が買ったと言う北カメリアのデルラへと越して来たんだけど、科学技術の進歩がさ、グレタリアンと北カメリアの地形的距離を無視するように成ったんだよな。


 ジャックが新たな技術開発や物質の発見のニュースを新聞で知る度に、「チッ」って舌打ちしていた理由が今なら良く判るよ。

 碌な事にならない場合が多いのだ。

 誰かに取って良い物事が、本当に良い事なのかって奴だよな。

 ジャックは今より技術が進んでいた時代を生きてそれを覚えていたので、本当に用心深く俺にも科学系や理論に関する話を避けていた。

 クロエもジャックと同じ時代を生きて居た筈なのに、恋愛脳と女性の権利向上の話ばかりで、話題はチョット微妙。

 でも料理は上手いし、貫禄はあるので尊敬して居るよ、クロエも。



 でも俺が緑藍として目覚めてから、ずーっと戦争して居るんだよな、グレタリアンて。

 北カメリアとは争わなくなったけど、プリメラ大陸や南カメリアやイラド、そろそろアーリア地域での進出も北カメリアより先にしたいようだし。

 で、ソッチでの派兵は戦争って意識じゃ無くて鎮圧って考えている。

 グレタリアンに取って戦争とは、ヨーアン大陸での争いに限定されるようだ。

 俺は、ずっと軍を派遣しているグレタリアンって可笑しいのじゃないかって思うけど、本土に来られたら終わりって感覚があるので、派兵が通常認識らしい。


 そうかといって外交が成功しているとも思えないけどね。




 大戦以降もグレタリアンの外交交渉は今一つと思うのは、モスニアにしろ、オーリアにしろ、ヴェイトにしろ大国と呼ばれる国々とは、本音の所で敵対してるからだろうな。

 いつかは戦う敵国だって感じで。


 同じ議会制を取っていない国なら、モスニア帝国よりゲルン帝国の方が御しやすいって、考えなのかもな。

 グレタリアンは、幾度もフロラルスやオシリスやカレなどの国々へ、モスニア帝国から独立を促す工作をしていたみたいだけど、どれも不発だったらしいと兄は笑っていた。

 一応、ランダや南グロリアや周辺の公国へ工作して、上手く独立させたのでグレタリアンも調子に乗っていたのだろう。

 ジャックの話だと独立しても良いようにレオンハルトは手を打っていたのでは?と話していた。

 確かにレオンハルトの一族のモノは独立した国へは遣っていなかったなと俺も気付いた。



 オーリア帝国は、元々拡大する度に国も民族も吸収して居たので、ある意味トルゴン帝国と似ていた。

 女帝ビストールに成ってからは、公用語はゲルン語だけど、其々の民族での言語や宗教は其の侭にして置いた。

 但し、ガロア人は除く。

 そして排斥しようとしたら、景気が落ち込み始めたので、慌ててガロア教も認めることにしたそうだ。


 敬虔な旧教徒だった女帝ビストールはガロア教徒が苦手だったようだ。


 こう言う風に直ぐ対処出来るのが女帝ビストールの有能な所なんだろうな。

 

 で、そう言う緩やかなオーリア帝国に属していた公国や王国へ独立の機運を広げて行き、トルゴン帝国と同じく、力を削いで行った。

 イラドで宗教観対立を煽り王国や帝国を植民地化していったのと同じ手法だよな。

 オーリア帝国が持って居た植民地に金の鉱山が発見されたばかりに。


 モスニア革命後、レオンハルトが皇帝に成って治めている時、旧王党派に資金や武器を渡してグレタリアンは幾度も暗殺計画を起させていたとジャックは話していた。


 「くたばれ、グレタリアン。」


 でもって、そう決め台詞を言うのが俺とジャックのお約束で或った。









  ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




   アリスロスト1938年  3月




 1938年。

 クロードが淹れた薫り高い珈琲に口を付けてそんな事を想い出していた。

 そして俺はセインとジョアンへ前世とジャックの記憶を省いてグレタリアンの愚痴を話していると、繊細なカービングをされた白い扉を開き、生真面目を装った秘書官クラークが慌てた様子で俺の聖域へ入って来て、息を整え言葉を発した。


 「ジェローム様、オーリア帝国はゲルン帝国に併合されました。」

 「はぁ?」

 「「ジェローム。」」


 俺はクラークの入手出来ている情報を聴いていると、ウィルが息せき切って飛び込んで来た。


 「バンエル・ギール・ランダがゲルン帝国から同時侵攻を受けて占領された。」

 「はぁーー!?アルバートは?ウィル。」



 風雲急を告げる報告は、俺とセインとジョアンとの、まったりしていた午後の一時を吹き飛ばした。

 マイクロフト首相。

 レーヴェの拡大路線は全然収まってないじゃん。




 ドンブライヒ首相は、ヴェイトの共産主義に危機感を募らせ、ゲルン帝国のレーヴェにシンパシーを感じていた。

 元はゲルン民族で纏まる鉄腕宰相らプロセン王国の考えに賛成して居たのだけど、オーリア帝国の様々な国を纏める大ゲルン主義に抗えず大戦を戦ったのだけど、出口の見えない不況で悩んでいる時に、レーヴェの方からコンタクトがあり、今回のクーデターに及んだのだ。


 『退位してくれるなら、家族とランツ6世の命の安全は保障する。』

 

 ランツ6世は抵抗したけど、側近から匿われるように退出し、側近たちと家族と共に宮廷を後にして、フロラルスへと向かった。


 その後ドンブライヒ首相から連絡を受けたレーヴェとゲルン帝国兵が宮殿まで行進していくと沿道に居た人々から歓声で迎え入れられた。

 反対派はクーデターに賛成していた軍の将校達とレーヴェ親衛隊に寄って抑えられていた。



 その翌日に、バンエル・ギール・ランダへと同時にレーヴェ達は侵攻した。

 ギール王国は三日間しのいだけど、アルバートは軍や国民の傷付く姿を見て、「きっとグレタリアンの兵を連れて帰って来る。降伏した振りをして暫く耐え忍んでくれ、国民たちを頼む。」軍の総指揮官にそう言って、降伏文書を渡し、グレタリアンへと向かった。


 バンエルとランダは侵攻して来たゲルン帝国軍へと直ぐに降伏した。




 「マジか。抵抗したのはギール王国のみか、ウィル。」

 「ああ、空爆が続いたようだ。アルバート陛下自ら軍を率いたようだが空からの攻撃は厳しかったようだ。周囲のモノがアルバート陛下に一旦引くように進言したらしいよ。先程ロンドへ到着したと本邸から連絡があった。ジェロームも、そろそろ此の部屋へ電話を引いたらどうだい?」


 「ヤダ。それにウィルやクラークの仕事が無くなるだろ?」

 「お気遣いどうも。」


 「それは兎も角アルバートは大丈夫なのかい?ウィル。」

 「ああ、ギール王国に住む人々を心配して居るらしい。今、緊急議会を開いてるから直に結論は発表されると思うよ。ジェローム。」


 「しかし、矢張り大人しくはしていなかったな。」

 「レーヴェ総統が政権を執ってから、今まで対外的に大人しくしていたのは、一挙に侵略する心算だったのかな?ジェローム。」


 「うーん、レーヴェは一個一個を確認していた気がするよ、ウィル。各国の出方を見ながらさ。大国だけどモスニアのレオンハルト3世はまだ若いし、議会の発言権はグレタリアンが一番大きいだろうしね。偏に妖怪ぬらりひょんデニドーア外務卿の外交能力の賜物だったんだろうけど。ジュニアは其処までじゃないみたいだけどな。」


 「確認かー、それでチーズ国を手に入れて侵略しても大丈夫だと受け取ったのかね、ジェローム。」

 「恐らくはレインラントに進駐した時じゃね?ウィル。あれでグレタリアンは宥和政策取るし、マイクロフト首相は戦争したく無いってのをレーヴェに見透かされたのだろうな。」

 「しかし、動き難いよな、ジェローム。ギール王国以外はゲルン帝国の侵攻を国民が否定して居ないから、解放を望んでいないなら国際連盟も下手に手出し出来ないだろう。」


 「まあ、ギール王国は助けるだろうけど、、、オーリア帝国は複雑だな。」


 俺とウィルは大きく息を吐き出して、クロードが新たに入れた熱い珈琲に口を付けた。


 「ジェローム、オーリア帝国のガロア人はどうなったんだろう。」

 「ああ、セイン。ポリゴン博士のことか?連絡して見たらどうだい?クラークの報告じゃ、強いてオーリアでは戦闘は無かったみたいだから、大丈夫だとは思うけどね。電話は恐らく無理だと思うよ。交換手の問題が在るからさ。」

 「そうだね。手紙を書いてみるよ、ジェローム。」

 「セインが良かったら、僕の部下に手紙を事付けるよ。ギールやオーリアに様子を見に行かせようと思って居るんだ。」

 「有難う、頼めるかなウィル。」

 「勿論さ、セイン。」


 セインはそう言うとウィルにもう一度礼を言って自分の書斎へ戻る為に白い扉を開いた。

 羊毛を想わせるベージュの柔らかそうな短い髪を左右にセットしたジョアンが淡いアクアブルーの瞳を揺らめかせ不安そうにジャックと似たハスキーボイスで静かに俺へ訊ねた。


 「ジェローム、ヨーアン諸国は如何なって行くのですか?北カメリアにも多くのガロア人が逃げて来て港で入管の許可を待っていると聞きました。モリアーニ氏もグレタリアンで各国の要人と会ってガロア人の保護を求めているそうです。こんな事って。」


 「此の時代に許される事じゃ無いから、入国が許されたら保護して貰えるよ。流石にギール国への宣戦布告無しの攻撃は許されいからグレタリアンも反撃の準備はするよ、ジョアン。」



 俺はそう言って、固く握りしめていたジョアンの大きな左手の拳の上へ、柔らかく俺の右の掌を置いた。

 『欺瞞だよなあー。』

 ジョアンに告げたありきたりの慰めの言葉に、俺は内心で自嘲する。

 それでも言わずに入れなかった俺を気遣うように、ウィルは火を点けた煙草を、右手の指で抓んで俺の唇へと差し出した。

 

 「うぇー、ウィルとの間接キスかよぉー!」


 そう俺はボヤいて、薄い紫煙を立ち昇らせ、ウィルが指で軽く抓み差し出していた煙草を咥えて、温かな煙を深く吸い込んだ。

 ゆっくりと煙を吐き出すと胸に在った蟠りも少し解れていく気がした。

 意外に単純な精神構造に俺は苦く笑ってジョアンとウィルの座っている方向へと向き直った。



 さて気分を変えて、最近会ったと言うモスニアのレオンハルト3世の話をウィルとジョアンから聞こう。

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