No73 再起動
アリロスト歴1935年 12月
遣ると時は遣る男だったのだゲルン帝国のレーヴェ総統は。
革命的手段で政権を執ってから、独自のゲルン通貨を流通させ、大型公共事業と34年に徴兵制を復活させ再軍備を整えていた。
レーヴェが色々と仕込み、経済も復活させて気が付けばゲルン帝国は強国へと戻っていた。
元々は、プロセン連合王国て、そのポテンシャルはある国だったんだよな。
まあだからオーリアやグロリア、グレタリアンは力を削いで於きたかったのだけど、100年経っても返済が出来そうにないあの賠償金額と自国防衛も難しい軍縮は、それを課した各首脳たちに苦悩を迫る再起動をゲルン帝国は起こしたのだった。
やっぱり切れるまで追い詰めるって碌な結果になりゃしない。
戦争が強い国の兵士を大量リストラとかさせちゃあ駄目だよねって話だ。
彼ら達の国際連盟の主要3カ国へ憎しみは半端ない。
確かに国際連盟を主導して作ったのはモスニアだけども、ゲルン共和国へフォローしていた唯一の国なのに、ゲルン帝国では、『打倒、オーリア・モスニア・共産主義』って言われているとか、全く酷いよな。
何故、グレタリアンが入って居ないのか。
「グレタリアンのマイクロフト首相は前回の会議が終わった後、レーヴェ総統と密談して宥和政策を執ることにしていたんだよ、ジェローム。ゲルンは膨張政策を執らないとレーヴェ総統に約束をさせて。」
「はあ?無理だろ。つうか、ゲルン帝国が重装備の武器を開発・生産し捲くってるってウィルから俺に報告を呉れたんだろ?1934年の会議にはウィルも就いて行ったよな?」
「僕とデニドーア・Jr外務卿がモスニア帝国と今後について話している時、マイクロフト首相は秘密交渉をしたと言っていたよ。制裁措置をしてゲルン帝国と戦争に成れば、大戦のような戦いに成り兼ねないからと宥和政策に切り替えたそうだ。」
「だからマイクロフト首相に外交案件を任せたら駄目だってば。あの人は戦争カードは見せない人だから足元を見られるんだよ、ウィル。俺も戦争はヤダけど、手札に或るフリしないとさぁ。」
「まあ、戦争回避はマイクロフト首相の第一目的だけどさ、本音はヴェイトへの反共産主義同盟の1つだと思うだよね。グロリア王国と密談したのもモッチリーノは反共産だからだろ。諸国で共産党が増えているってジェロームへ報告しただろ。ヴェイトを危険視して居るんだろうな。」
「俺はマイクロフト首相って、てっきりヴェイトの共産党支持者かと思っていたよ。独断専行でヴェイトを国家として認めた発言をして秘書官だったヒューイを苦労させていたようだから。」
「メクゼス博士の社会論に感銘は受けても暴力革命には反対していたからな。それに労働者を守ろうとすれば金融資本家も必要だと考えているリアリストでも在るからな。」
「ふーん。」
まあ、グレタリアンでは資本が合っても金融屋って立場的には貶められていたからな。
金融屋は貴族には成れないって感じで。
過去、信仰的にも金を稼ぐことは穢れでもあったし、そう言う事は宗派が違うガロア人の仕事って奴だ。
でも時代の中で、グレタリアンでも教会や王族の権威が薄れると、金が権威の代わりの力に成って来たけどな。
マイクロフト首相がリアリストで或る無しに関わらず、レーヴェが政権を執り、パルス条約やロルカ条約を破棄した1933年にはダール地方編入を成してたりしていた。
長らく旧プロセン連合王国のモノだったダール炭田は国際連盟管理下に在ったけど、レーヴェ達がダール地方で住民投票をすると90%以上の住民が旧プロセン、現ゲルン帝国に編入される事を望んだので、止む無く、国際連盟は管理を外れた。
面倒な地域だけど、住民の殆どがゲルン民族なのでグレタリアンもオーリアも仕方なく。
でもまあ、ヨーアンの領地で面倒で無い場所は無いんだけどね。
奪い合い上等の戦闘民族しか現在まで生き残れてないので。
陽気なカレ帝国や南カメリア大陸のノリとは全く違うヨーアン諸国である。
モスニアから持ち込まれたカリント教の旧教徒信仰は、眩い太陽に焼かれて土着の宗教と溶け合い、何処か寛容なカレ的なカリント教に成って居るらしい。
3ヶ月に一度はポリウッドランドへ行くように成って、ジョアンはカレの文化に詳しく成って来ていた。
そう受け売りの大元はルーサーなのは判ってんだよ。
ジョアンから暇を貰っては、カレ帝国の古代遺跡をウロウロしてるってのは、その日焼けした肌を見れば俺にも判るってーの。
全くジョアンはルーサーに甘過ぎだ。
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アリロスト歴1936年 10月
グロリア王国モッチリーノとモスニア帝国レオンハルト3世とグレタリアン帝国のマイクロフト首相達3国は個別で1934年の国際連盟後、ゲルン帝国を抑え込もうむ為の協力をする対応策を話し合った。
そしてグロリア・モスニア・グレタリアン3国で、ストレース条約を締結させた。
その陰でグレタリアンのマイクロフト首相とゲルンのレーヴェ総統が宥和政策の密談をしていた。
グレタリアン・ゲルン海事協定を締結。
あの生真面目そうなマイクロフト首相でさえ、舌が2枚あるのはグレタリアンのスタンダートな装備。
1934年、恐らく40近くが集まった他の国々も国際連盟会議の裏で、こっそり握手したり殴り合ったりしていたのだろう。
そんな事をウィルと話し合って居たのは善き思い出、、、?
だがしかし。
グロリア王国のモッチリーノは、1936年『アサッテの報復』と『文明の使節』を掲げて、プリメラ大陸でヨーアン諸国から一度も植民地にされた事のないソルロモン王国へ侵攻していった。
いや、報復したいのはソルロモン王国の方だと思うけどな。
勝手にアサッテへ攻めて来たのはグロリア王国の方だし。
あの大戦の時、グロリアって役に立たないなーって言われてたけど、東プリメラまで行って負けてたんだな。
てな訳で、グレタリアン・モスニア・グロリアの3国で結ばれたストレース条約は、僅かの間で流れてしまった。
そして同じく今年1936年、レーヴェは大戦後、非武装地帯と取り決められていた旧プロセン領土だったレインラントへ進駐した。
レイン川右岸は非武装地帯にロルカ条約で取り決められていたが敢えてレーヴェは3万以上の武装した兵士を進駐させ、右岸に留めてみせた。
後々の報告で俺が知る事になるのだけども、実は、左岸には約3千名しか兵は集められておらず、レーヴェのハッタリ?つうか、賭けだったようで、万が一、オーリアやグレタリアンの兵が進軍して来たら、即時撤退するように、とゲルン帝国の軍人にレーヴェは厳命してたようだ。
モスニア帝国は、現在東プリメラやアワギレ半島でグロリア王国の困った奴モッチリーノ軍を自国の領域まで侵さないかを監視していると言う話。
俺とウィルが煙草を燻らせ、近頃のロンドについてダベっていると、室内に入って来た補佐官クラークは、銀縁眼鏡のレンズを光らせて迷惑コンビ『モッチリーノとレーヴェ』の報告を飄々とした表情で俺達2人に、そう伝えてきた。
「グレタリアンとオーリアそしてモスニアが2国へ強い言葉で批難声明を出しました、報告は以上に成ります。ジェローム様。」
「いやークラーク、強い言葉って言ってもなー。なあ?、ウィル。」
「まぁ、実行力が伴わない言葉なんて気にしないだろう。しかし、此れで小協商国のルーニアやチーズバロキア共和国、ポーラン共和国等は完全に西ヨーアンを信用しなくなったな。レイン川流域に或るランダ国やバンエル共和国はゲルン帝国かヴェイトに流れるかも知れないな、ジェローム。」
「元々、レインラントは旧プロセンの国だしな、ウィル。グレタリアンは何処までレーヴェが遣らかしたら融和政策を解除する心算なんだ?」
「んー、自国の権益が損なわれる所だろうな、ジェローム。」
「しかし、去年の会議でヴェイトは方針転換をし、資本主義国家のポーラン・ストニア・フィルド・モスニアと不可侵条約を交わして、チーズバロキアとは相互不可侵援助条約を結んだよな。実質、チーズバロキアとは一体化してる状況だろ?モスニア以外は東ヨーアンは大分ヴェイトのブロック化が進んでいるよねウィル。もしレーヴェの侵攻を受けたら、グレタリアンとモスニアが、ランダやバンエル、ギールは何とかしないとさ。」
「今の所はジェローム、グレタリアンと北カメリアは、ヴェイトの防衛ラインにゲルン帝国とグロリア王国を置くつもりなんだろうな。でもギール王国は見捨てないからジェロームも安心してなよ。アルバート陛下の事が心配だったんだろ?」
「別にそんなんじゃねーし、ウィルは気を回し過ぎだ。」
はい。
嘘です、心配してるよ、勿論。
だってあの賢き義姉エリスの息子だよ?
アルバートってさ。
問題しか無い兄の子供を4人も産んで呉れた有難い人の忘れ形見だよ。
キッチリ寿命までは生きて欲しいじゃん。
アルバートは「国が安定する迄は」って33歳なのに婚姻もしないと言う頑張り屋なのだ。
単に兄と同じで強いて女に興味ないだけかも知れないけど。
兄の場合は興味が俺ってだけだったんのだどな。
それを単刀直入に話した兄のプロポーズを受けて呉れた偉大な義姉エリスには感謝しかない。
エイム公爵家に後継を産んで呉れた、恩人の息子アルバート陛下の隣国で可笑しな男が暴れているのかと思うと、マジで始末しに行こうと言う想いを俺は押え付けるているんだよ。
今、ゲルン帝国でレーヴェの人気は最高潮らしくて、こんな時に消しちゃうと、スゲー英雄に成っちゃうんだよな。
遺志を継ぐものとか言う奴が絶対に湧くから。
もっと始末が悪いのは、此の北カメリアでも薄っすら人気が或るんだよ。
景気が一時よりかはマシに成ったけど、ビックベルト大統領の政策で全ての人を救える訳でも無いから、鬱屈した人達が増えてきたプリメラ人に対して差別的に成って来ているんだよな。
そう言う人達が案外、レーヴェの宣伝文やら声明文を喝采してたりしていて、やや気持ち悪い。
俺の住んでいる区域からは離れているけど、アレークタウンは寂れていた古い町だから、昔に建てられた長屋みたいな場所には、貧困層のプリメラ人も移り住んでいるらしく、ウィルやモリアーニに連れられて新たなコネクションを作っている時に、紹介された上品なジジイやオッサン達にアレークタウンからプリメラ人排斥活動の話を聴かされると、「うげっー!」つうて、俺は内心で思わず叫んでたりしている。
「お前等もか、、、。ジジイ達の癖に。」
景気が良い時は見ない振りも出来ていたんだろうけど、流石に29年以前のような熱狂は無いし、正常な空気に成って来ると、身近で見慣れないモノに不信感を覚え始めるんだろうな。
こういう空気を上手くコントロールしてるんだろうなー、レーヴェ達は。
プロの扇動家を使っているらしいし。
元コミンテルの人間らしいけど、転向して雇用されているとか。
でもって、なんかチーズバロキア共和国にはゲルン民族が多く住んでいるから寄こせと、レーヴェはマイクロフト首相へと訴えているそうなんだけど、「チョロイ」ってレーヴェ達に認定されているとか?かな。
それって勝手に決めたら駄目なヤツだからな、マイクロフト首相。
俺は溜息を吐いて煙草を口に銜えると、ウィルが器用な手つきでマッチを擦って、煙草の先端に火を点けて呉れた。




