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ロングロング  作者: くろ
72/85

No72 お告げ


   アリロスト歴1935年     4月



 クリストン特区は連合議会議事堂6.1mより高い建築物を建てる事等が禁止されている為、ホワイトスワンハウス公邸は2階建てで左右へ広く横に増築された建物に成っていた。

 シルベニア大通りは議会議事堂とホワイトスワンハウスを繋ぐメインストリートとして記念式典のパレードにも使われる。

 3つの川に挟まれた此の特区は川の水さえ綺麗なら言う事無しの美観なのに勿体ない話だ。

 川を使っての蒸気船での移動が何だかんだと言っても早くて便利なので、多くの船が行き来していて水質の浄化は、難しそうだ。


 俺の住むアレーク・タウンには、ビックベルト大統領の私邸も在ったりと嫌な予感しかしない。

 昔は栄えていたらしいのだけど、近頃は終わった町として寂れていたので、ビックベルト大統領はアレーク町を整備してネオ古典主義の建物を増やしたらしい。

 此れも公共事業の一環なのか?

 ヤング氏やモリアーニそして亡くなったデニドーア爺から用意されていた屋敷は1700年代中期のロココ調のモノでガチガチのバロック様式より使い易いけどさ、俺って古い建物なら何でも良いと思われているのか?と、訝しく思いつつ瀟洒な建物に入って行った。

 俺も出来ればビックベルト大統領が新しく建てたロンドテイストなネオ古典主義の屋敷が良かったのだけどな。

 まあ、良いんだけどさ。


 西には北部では珍しいカリント教旧教徒の設立したアレークカレッジなんかが或るけど良い気に成って馬を走らせると下に川が流れる断崖絶壁だったりする。

 てな訳で勾配が急なんだよな。


 「引き籠りだからジェロームには関係ないか。」


 つって、ウィルが俺を冷やかしつつ町の説明をしてるんだけど、なんで俺よりウィルの方が先に色々と知っているんだよ。

 話を聴いているとヨークに或るクレッグ出版にセインと俺が訪れた頃から、『ジェローム研究所』の話を纏めていたらしい。

 ホント、お前らはいったい俺の何なんだ。

 ウィルは仕方ないよ?こう言う奴だしさ。

 でも補佐官クラーク、アレほど度々デルラのロッジに訪ねて来ていたのに、俺に一言も報告なしとか、本当に腹が立つ。

 

 毎回ヨークへ向かって居たのはアレークタウンでの俺の住処の確認作業だったのかよ。



 まあ、俺の腹立ちなど関係なく執務室にはロンドで使っていたジェローム探偵事務所の家具やランプの配置が確りと終わらせられていた。










     ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





  アリロスト歴1935年   10月




  今年の夏は暑かった。

 俺は「デルラに戻ってやる」と幾度クリストン特区のアレークタウンで嘆いた事か。

 ジョアンはでっかい氷を持って来て呉れてたけど、俺は氷だけを食べる趣味ってないからな。

 そう言うとイラドの扇で氷に風を当て、俺に冷たい風をジョアンは汗だくに成って寄こして呉れた。

 

 あのー、ジョアン、そう言うのはマジでヤメテ欲しい。

 俺って外道な奴みたいじゃん。

 悪党呼ばわりは許せるけど、外道と呼ばれるのはセインの手前、今世では遠慮したいんだよな。


 そんな事を想いつつ、俺は日々を過ごして居ると、窓から見える樹々も少しずつ色付き、冬支度を始めていた。

 庭にはリンゴや柿の木も合って、少しお得な気分。

 クロエが居たら美味しいアップルパイを作って呉れるんだろうなー。



 さて、北カメリア政府は、カレ帝国と不戦協定結んだ後、正式にバナン島での水門工事をモスニアと共同で着工することに成った。

 相変わらず、カレ帝国は貿易を行うなら物々交換なモスニア=フロラルス帝国方式。

 ウィルの話だと、モスニアも居るから別に輸出入しなくても平気らしい。

 然も金本位制でないドルなら尚更に不要だとか。

 モスニアもカレ帝国も為替や外資の金融機関を排除してるからなー。

 ある意味、共産国より面倒だと思うけどな、強いカリスマ帝国主義って。


 レーヴェもモスニアのような帝国主義国家を目指して居るのかも知れないな。

 レーヴェやローソン・ハーフスキやモッチリーノが議会を廃止したり、一党だけにするのって、モスニアを見習って皇帝の一言で決定出来る政府にしたいからなのかね。



 又、ビッグバンド大統領は労働者の保護、全国産業復興法は雇主と被雇用者の団体協約権を規定したけれど今年最高裁は同法の大部分を憲法違反と宣告した。

 そこで、議会は全国労働関係法を可決し、団体協約の尊重を規定、その施行のために全国労働関係委員会が設立された。


 当然産業界は猛烈な反対運動をしたけど、北カメリア労働同盟の支持と与党で或る国民党の賛成票で可決した。

 北カメリア労働同盟『NCL』つう事で労働者の団結権・団体交渉権を明確に認めた。


 そして、要扶養・貧困・失業・老齢などに数十憶ドルの予算を立て、社会保障法を成立させた。


 経済自由放任主義過ぎて、人権に関して遅れていると思っていた北カメリアが、なんと社会主義的な政策を執り、資本主義を修正してきた。

 ヨーアン諸国の中で、一番進んでいると思っていた啓蒙主義的なゲルン共和国憲法と並ぶ、北カメリアの法案に俺は、少し胸が熱く成ったよ。


 グレタリアン寄りだった国民党に何が合ったんだろう。

 基本は資本家の政党と思っていただけに吃驚だよ。


 そういや総統国家のゲルン帝国は、ゲルン共和国憲法を期限付きだけど凍結してるんだった。

 レーヴェ総統が、、、。

 で、クレタリアンでも労働法と社会保障法も出来ているし。

 此れはグレタリアンの労働党が与党に成って、施行したから未だ分かりやすいのだけどな。



 

 俺は煙草を咥えて薄く紫煙を燻らせていると繊細なカーヴィックで蔦を施した白い扉が開き、忌々しい笑みを浮かべたウィルは俺の新たな聖域に入り、ウォールナットで作られたライティングデスクから少し離した右前に置いてある藤色のフロラルスソファーへと腰を降ろし、ジジイの癖に長い脚を組んだ。


 「ただいま、今日は少し肌寒いな、ジェローム。」

 「お帰り、それってウィルがジジイだからだろ。」

 「ふふ、否定はしないよ、ジェローム。」

 「うわっ、素直なウィルって君が悪いな。」


 「ははっ、そうそう、ジェローム。北カメリアでもコミンテルが入っている筈なのに共産党って名乗って無いよな。久しぶりに各国の政党を調べていたら、気付いたら色々な国で共産党が出来てたよ。ローソン代表の頃より積極的な気がするヨ。ハーフスキ書記長って一国主義だったよな?」


 「まあウィル、コミンテルは、情報員でも或る訳だから、折角、他国で党員を作れたなら、其の侭で活動させるだろうさ。フロラルスとモスニアには入って無さそうだけど、カレには入っているみたいだしな。ローソン代表が生きていた頃、北カメリア北部で共産党って名乗ってた人達は拘束されたから、今は労働組合でも紛れてるかもな。南部はグレタリアンがヴェイトから入って来た人間の取り調べを厳しくしていたみたいだよ。兄もグレタリアン政府に注意喚起してたしな。」


 「流石、資本主義の牙城北カメリアだよな。そう言えば、あのアシェッタ王国にも共産党が出来たしな。オーリア帝国やポーラン共和国にも出来ていて驚いたよ、ジェローム。イラドのアガスタン王国やカザーフ王国にも。」


 「いや、イラド方面はウィルがメクゼス博士のイラド的社会論の書籍を刷ったからだろう。オーリアやポーランは兎も角、アシェッタ王国がかー。あそこはグレタリアンの半保護国だろう。」


 「その所為もあるかもな、ジェローム。貧富の差があったのに恐慌が起きてポンド圏に入ったけど不況から抜け出せないから、共産思想に感化されたのかもね。そうだ、ジェロームの甥っ子アルバート陛下が居るギール王国は、グレタリアンとなんとか頑張ってるって報告があったよ。」



 「ギール王国は、それ以前が旧プロセンの占領下で労働や税も重かったから、今は少し楽に成ったのかな。ランダ共和国と同じで旧プロセンへ抵抗運動をしてたから、懲罰的な感じだったのだろうね。あの頃の旧プロセンは連合王国として、連合を組んだ他の国々への見せしめを行っていたからな。」


 「ギール王国は鉱物の種類が豊富だしな。ゲルン共和国に成ってやっと一息つけていたのに今度はゲルン帝国になったものな、ジェローム。ゲルン帝国は再軍備も整えられているしな。それにガロア人との婚姻を禁止したヨルベルク法ってのが出来た。ゲルン民族の血の純潔を守る為だとナショナル党の大会で正式に発布された。祖父母も含め1人でもガロア人の血を持つモノと性行為も婚姻もしたら重労働に処されるそうだよ。」


 「なんだろ、逆血族主義?まあ貴族とかは遥か昔まで血筋を辿るけどさ。でも元々ガロアの人は他の宗教の人とは婚姻しないし、モリアーニとかは血族婚主義だしね。しかしレーヴェは毎年遣る心算なのかな?ウィル、ヨルベルクで党大会を。」


 「ヨルベルクはゲルン国民には大事な地だしね。それとジェローム、ガロア人は公共的な場所への出入りも禁止され、ガロア人の公旗を掲げる事も禁止された。どうもガロア人に国外へ出て行って欲しいみたいだな。」


 「はあー、またセインは隣国だからって、オーリア帝国に居るポリゴン博士を心配するんだろうなー。国外に出て行けって言っても旅費を呉れる訳でも無いだろ?でも、こうなったらモリアーニはエデリアナの地へ行けとゲルン帝国のガロア人達へ連絡を取るだろうね。」


 「一応はエデリアナの地へ移住できる状態なのかい?ジェローム。」


 「ああ、そっちは大丈夫。一部、如何しても移転したく無いって言う住民もいるけどね。其処はロレンスの腕を信じる事にしよう。妖怪ぬらりひょんデニドーア外務卿が亡くなる前に準備を済ませて於いて呉れた筈だよ、ウィル。今の所、余りガロア人は引っ越して来てはいないけどね。」


 「あそこを農地にするのは難しそうだな、ジェローム。乾いた土地だし。」


 「まーな。でもエデリアナはモリアーニのリクエストだしさ。レーヴェみたいな人間が現れるって、お告げがモリアーニへあったのかね、ウィル。ガロア人の土地を持ちたいと切望して、エイム公爵家やグレタリアン、北カメリアへとお布施していた位だから。」


 「うーん、何時まで経ってもヨーアン諸国の人間からガロア人への敵視が消えないからかもな、ジェローム。世の中が不安定に成って来ると、そう言う視線が排除へと変わるって代々言われてたのかも知れないよ。モリアーニ氏はカリント教の旧教徒で言えば司祭みたいな家柄だったらしいから。」

 「ふむ、、確かになあ。ウィル。」



 乾燥した暖かな室内でクロードが淹れた薫り高い珈琲に俺とウィルは口を付け喉の渇きを潤し、レーヴェは何をしたいのかを話し、肩を竦め合った。


 半ばテロのように政権に就いて権力を手にしても、グレタリアンにしても北カメリアにしても、国内経済を安定させれば、アクションを起こすだろうし、下手に戦端を開いたら東西南北どちらに進んでも大国と戦うように成るだろう。

 今の大国は昔のように1対1で戦う真似などせずに、きっと多対1に成るような交渉をしてから、潰しに掛かるだろう。

 まー、でも対共産党って言ってるから、ヴェイトの防壁に使かわれて生き残る可能性はあるかな。

 モスニアやグレタリアンなら利益が有ればゲルン帝国を対外的には国として扱うだろうけど。

 オーリア帝国は解らないな。

 同じゲルン語圏だし、民族的にも同じだし、但し帝国内でも併合した他の国には色々な民族が居るんだよね、ガロア人も含めて。

 小さくなったとは言え帝国だからなー。


 オーリア帝国の皇帝も未だ若かった筈。

 皇太子が亡くなって孫が祖父の後を継ぎ、23歳でランツ6世に成った気がする確か。

 こんな面倒な時期に皇帝へ成ってしまうなんて気の毒としか思えない。

 オーリア帝国は立憲君主制で議会も在ったし、通常なら23歳でもなんとか成る筈だけど、この不況だと議会も紛糾するだろうし、ヴェイトなんて邪魔なオーリアは潰れろって思ってそうだしな。

 

 こういう場合、同じ皇族なら血の縁も或るし、少しはマシなんだけどヴェイトの革命家ハーフシチ書記長もゲルンの元伍長だったレーヴェ総統もランツ6世と縁もゆかりもないパンピーだしな。

 「俺ってパンピーだから」ってのが口癖のジャックよ。

 こう言う人間たちをパンピーと言うのだよ。

 ジャックみたいな前世、王太子だった記憶の或る人間をパンピーとは言わないのだ。


 ウィルに寄るとランツ6世は、語学が堪能で信心深い旧教徒だと言う話だ。

 教育熱心な皇太子妃の母親から物心つく前からモーレツな教育を受けて居たらしい。

 祈りの時間か勉強の時間しか無かったとか。

 グレタリアンのスチュアート4世の母親もそうだけど、皇太子って教育ママに厳しく育てられるモノなのだろうか?

 レンツ6世も若かりし頃のスチュアート4世みたいに人妻好きなのだろうか?

 それか両刀使いか。


 俺はワキワキしてウィルにそう尋ねると、深緑の瞳を曇らせ整えた白い眉根を寄せ、「ジェロームもいい加減に落ち着け」と言って眉間に縦皴を作り、ワザとらしく長く息を吐き出した。


 いやぁー、俺は落ち着いて居るよ、ウィル。

 ちょっと興味本位で聴いただけだし。


 でもさ、

 案外と普通の神経の人だとこの時期は辛いと思うんだよな。


 俺は会ったことも無いランツ6世へ救いが或る事を内心でそっと願ってみた。

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