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ロングロング  作者: くろ
70/85

No70 同調



      アリロスト歴1934年    8月



 俺がゲルン共和国のレーヴェの頭がイカレた演説文に脱力してから1年経ち、、、。

 デルラに住む俺へ届けられるヨークで刷られた新聞は、それのイカレた文言と類似した文面に成っていた。


 如何やら此のイカレた文面は新聞の購買数を増やすみたいだ。

 敵を指定して紋切り型でのワンフレーズ攻撃。

 ちっ。

 読む気がしねー。


 俺の暇潰しアイテムが1つ減っちまったよ。


 まあ、北カメリアもゲルン共和国と同じような不況で人々のストレスが溜まっているのかもな。




 北カメリア北部の自由党では、絶対に遣らないだろう政策を国民党のグリン・ビックベルト大統領は続けざまに議会を通し、3R政策(救済・回復・改革)を実施していった。


 金融機関に保有されていた金銀貨や硬貨は回収され政府に委託。

 そうして連合国政府当局の発行し管理する紙幣に切り替え、従来の紙幣と金銀貨を交換する権利は廃止された。

 これで巨額の金銀をもつ銀行が持っていた連合国の通貨発行への支配力はなくなった。


 遣りたい王国とかは、多そうだけどね。


 

で、


 従来の慣習法を無視して 農民への救済の為つう事で、農業調整法『小麦・とうもろこし・綿花・食肉』を制定し、政府が農民の生産をコントロールすることにした。

  減益分は政府が補助金で補填しちゃうから安心だよ。


 「農家は、個人の自由な経営に任され、国家はそれを統制しては成らない」


 てのが今までの慣習だったんだよね。

 南北で批難ゴウゴウらしいよ。

 でも、あくまで慣習だし、明文化されてないしな。

 議会は通っているから、遣ったモン勝ち。

 どの道、国外で穀物を販売出来る場所って世情が不安定な国に安値で卸すしか無いし、利益が出て無いから、現状でも経営の出来ない状況なんだろうし。


 

 でもって中南部に或るチェロキー川を開発すると言う数十億ドルに及ぶ遠大な公共事業を行う。

 支流それぞれ20に及ぶ巨大なダムを造り電力供給の安定を図ったり、洪水対策、航路の更なる開拓、植林事業、等をやり、大規模な失業者対策に取り組むとか。




 中央集権的な此の政策は、当然な事に自由党を筆頭に反対されるのだけど、まあ議会でも国民党が圧勝しているので法案は通過していった。

 1つに成った南部へ配慮し過ぎた救済策だと言う批判もあるようだけど、俺から見れば独立心の高い南部農園主たちを北部政府へ依存させるような法案に思えるけどな。


 しかし、本来なら地方分権派の国民党が反対しそうな法案ばかりなんだけどな。

 

 まあ、他にも銀行や産業界への支援策も打ち出し、一見すると社会主義的に見える金融恐慌の治療薬をビックベルト大統領は施行していく慌しい日々。

 ビックベルト大統領本人も「治療薬」って言ってるし。



 本邸のディックに、俺はこんな大掛かりな政策を次々と施行するのに何も情報が無かった事へ軽く文句を言うと、どうも大統領に就任する迄、ビックベルト大統領は何も考えて居なかったようで、有能な秘書官を急遽雇い、就任演説前に標語から政策まで決めたようだと言う。


 長い期間、自由党政権が続いていた所為で、有力な国民党の支持者を掴めていなかった、とディックは俺へ申し訳なさそうな表情で詫びた。

 いや、責める心算は無かったんだけど、余りに情報が無くて俺も驚いていただけ。


 国民党は、南部に或る保守党と内戦まで同じ政党だったんだよな。

 心情的には南部寄り。

 内戦時、北部へ残った議員達は、既に北部で成功して資産を得ているラジカルな新教徒であったりする。

 南部はクラシカルな旧教徒が多いんだよね。



 だから、ビックベルト大統領って、国民党から出た大統領となんとなく思えなくて、つい確認してしまうのだ。

 

 驚きの法案が出てきたと思って居ると、驚愕人事も発表された。

 まあ、情け無用なミントペッパー将軍を陸軍長官にしたのは聞いて居たけど、売りのケルビンが証券を監視する役割を担う『証券取引委員会』の初代会長へ就任させるとは思わなかった。


 「泥棒を捕まえるには泥棒が必要だ。」


 ビックベルト大統領は、悪名高い売りのケルビンの起用を質問した者へ、そう説明したらしい。

 ジョアンは、此のケルビンがポリウッドランドに興味を持って居ると聞いて現在、動きを隠れて邪魔している模様。

 害虫は結構入り込んでいるみたいだけど、ケルビンのポリウッドランド進入は許せないっぽい。

 恐らくジョアンも此の人事発表には驚いている事だろう。


 そういやモリアーニも金融取引委員会で呼ばれていると言ってたけど、ビックベルト大統領って兄と同じく悪党収集マニアだったりするのかね。

 くわばら、くわばら。





 

  ビックベルト大統領がこれ程まで思い切った政策を打つのは、経済危機に陥った東ヨーアン諸国の一部の国が自ら共産国に成った事への危機意識かもね。

 余りゲルン共和国のレーヴェやナショナル党への警戒はしていない。

 なーんか北部の人も心情的にレーヴェへ親近感を持っているし、現在金融不安後北カメリアに残っている数少ないゲルン共和国の資産家や企業家も一部を除いて能天気に応援している風だし。


 意外に『反ガロア』って根が深いんだよな。


 俺の右向かいの席に座っているセインは、喧嘩別れしてオーリア帝国へ帰国したガロア人のポリゴン博士を心配していた。

 ゲルン共和国って隣だから、オーリア帝国でガロア民族への中傷ビラを見たり、ナショナル党が流すラジオ放送を聴いたりし、嫌な思いをしているのじゃないかってさ。


 「彼も子供じゃ無いのだから耐えられない様なら国外に出るさ、セイン。」

 「そうだね、ジェローム。ポリゴン博士ならどの国でも受け入れて貰えるからね。」


 人の好いセインは喧嘩別れをしたポリゴン博士を想い、新聞を開いて「ポンド圏に加入せず。」と書かれたオーリア帝国の記事を読んでいた。


 

 併合していた国々が独立して行き、すっかりスリムに成ったオーリア帝国は、此れが2度目の不況とあって、可成り疲弊して来ていた。

 プリメラ大陸に或る植民地やモスニア=フロラルス帝国との通商のお陰で、なんとか経済は回っていた。

 グレタリアン帝国からポンド圏への誘いがあったけど、「色々と難しい」とオーリア帝国は、やんわり断っていた。


 甥っ子ジャックことアルバート1世のいるギール王国は、議会でポンド圏へ加入する事を決めたので、アルバート1世は「オッケー」って、了承するしか無かった。

 危なそうなゲルン共和国が北東に或るのだから、俺ならモスニア=フロラルス帝国にでも併合して貰った方が良いと思うのだけど、其処はギール国民の判断する事だしな。


 オーリア帝国にしろ、ギール王国にしろ、国の体力を削いで行ったのはグレタリアン帝国と言う、、、全く持って仕方のない国だよ。



 今は昔の1770年代、ジャックことアルフレッドが生きていた時代。

 オーリア帝国の女帝ビストールは、その地域地域の言語で教科書を作っていた、とアルフレッドことジャックは話していた。


 「ソレが良かったのか悪かったのか俺には判んないけど、その当時は凄い事だって思ったんだよ。いやあー、俺は義母ビストールに憧れたモンだよ、緑藍。向こうは旦那一筋だったけどさ。」


 そして1890年代、グレタリアン帝国の外交努力で、オーリア帝国から次々と独立運動に目覚めた国のニュースをジャックは新聞で読んで、そう呟いて俺に溜息を吐いていた。

 ジャックは若くして亡くなった嫁のアンジェリークとは、良い関係を築けなかったようだけど、義兄ランツ3世や義母ビストールとは親しく互いに外交協力をして、グレタリアンの我儘な要求を撥ね退けていた、と笑って語っていた。


 「結構、愛着の或る国が小さく成って行くのは寂しいな、緑藍。」



 オーリア帝国にとってゲルン共和国は約15年前に戦争した同じゲルン語圏の隣国。

 そう言う訳であからさまには出来ないけど、密かにレーヴェはオーリア帝国でも人気が或るそうだ。

 そういやレオンハルトがランダ国やグロリア王国へ侵攻した時は、市民に歓声で受け要られたとジャックは話していた。

 つうても市民ていうのはブルジョワの事だけどな。


 そして今北カメリアに滞在しているゲルン共和国の資本家は、レーヴェの『反共産党』に安堵していると言う。

 まあ、今残っているゲルンの商人達は、ナショナル党と何らかの取引なりをしているのだろうけど。



 俺はセインとレーヴェについて話し合っていると、艶の或る重厚なオークの扉を開いて、人好きのする笑顔を浮かべ、ウィルは俺の聖域に優雅に入って来て、左向いに置いてあるモスグリーン色のベルベットを張ったアームチェアーへ腰を降ろした。


 「ただいまジェローム、久し振りセイン。」

 「お帰りなさい、元気そうだね、ウィル。」

 「お帰り、ウィル。経済会議は進展あった?3回?4回目だっけ?」

 「ふふっ、3回目だよ。経済会議の方は進展なしだな。グロリアやオーリアやポーランやスロン他は北カメリアとグレタリアンに経済が落ち着いたら金本位制へ戻ると言う確約を欲しがっていたけど、北カメリアは明言を避けた。ブロック経済を解除して欲しいとグロリアやポーラン、ランダ、モスニア他が言うんだが、今は無理だと繰り返すのみで、時期も言わなかった。」


 「ちっ、こういう時だけは、グレタリアンと北カメリアは同調するよな、ウィル。」


 「まあ、経済会議は前回と同じだったけど、ゲルン共和国とヴェイトが来ていたんだよ、ジェローム。両国とも正式な国として認めろとさ。そしてレーヴェは大統領と首相を兼任するゲルン帝国の総統に成ったそうだよ。なのでゲルン共和国は終わり、ゲルン帝国に成った。」


 「はぁー、議会を停止した段階で別の国に成ったと俺は考えてたから、今更国名が変わってもな。それで他の国々の反応は?」

 「グレタリアンもモスニアも一先ず認めた。ああ、経済会議に参加していた北カメリアもな。」

 「まあな、面倒だもんな、ウィル。」

 「嫌だから、ジェロームじゃ無いんだからさ。前回の経済会議の折、モスニアが話していたのだが、下手な拡張をさせない為にヴェイトとゲルンを枠に入れて於こうって奴だよ。」

 「如何だろうねー、ウィルから見て2人は?兄に頼まれてマイクロフト首相に就いて行ったんだろ?」


 「ヴェイトのハーフシチ書記長は威厳があったよ、アレは190cm以上或るな。まあ信用は出来そうにないけどね。レーヴェは良く見掛ける焦げ茶の髪に暗い藍色の瞳をしたゲルン民族だった。但し時々、目に異様な熱を帯びるんだよ。そして有無を言わせない話し方だった。会議が終わった後、僕は酷く疲労したよ。まあ、あの2国を枠に入れるのは難しいかもね。」


 「まっ、どんな小さな国でも生き残るために必死に成るから、枠に入れるって考え方は無理だよね。一種の大国病だよ、ウィル。グレタリアンは良く遣って失敗してるけどさ。でもレーヴェってヴェイトのコルホーズやソフホーズみたいな事を遣っているよね?共産党嫌いなのに、ふふっ。」


 「集団農場と国営農場のことか?ジェローム。」

 「そうそう。」

 「自動車専用道路の事だな。失業者対策には成っているみたいだな。強制ボランティアだけど。勤労奉仕の精神が繋がりを強めるそうだ。でも失業者は減り評判は良いみたいだよ。」

 「軍隊式が人の成長に役立つ的な?俺には無理だな、ウィル。でも、産業界からも不満は出てないみたいだから、一応は上手く回しているのかな?」


 「メアリー・グリーンの報告だと恐怖と宣伝を巧みに使っているようだ、ジェローム。恐怖心は武装組織である親衛隊が行い、そして宣伝省のプロパガンダでガロア人問題以外は、変わらない日常を演出しているそうだよ。」


 「ああ、ブルジョワ系が出す大新聞は、今までと変わらない記事を書かせたりしている。映画も多く撮る予定みたいだよ、ジェローム。まあ全て監視は就いているけどね。」

 「ウィル、それってメアリー・グリーンが危険なのでは?」

 「別に潜入してって訳じゃ無いから大丈夫だよ。レーヴェが第1党に成る前から契約していた新聞社で同じように、新製品の紹介記事を書いているだけだから。珍しくジェロームが心配するよね。」

 「まあ、昔に縁があってね。メアリー・グリーンから俺の事は聞いてよ、ウィル。」

 「その様子だとジェロームの彼女では無さそうだね。ふふ。」

 「全くさ、ウィルは。他に変わった事はある?」

 「ゲルン帝国ではガロアの人達が少しずつ出て行ける人は国外に出ているみたいだね。軍や他の公職からも追放されたし、公民権も停止されたから。」


 「今は隔離政策を行っている国は無いから、出て行ける人は出た方が良いかもね。ヴェイトは粛々とハーフシチ体制を確立して行ってるし。後は兄からの連絡を待つよ、ウィル。」


 

 俺はそう言って、ウィルから渡された国際経済会議の報告書に目を通し始めた。

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