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ロングロング  作者: くろ
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高貴な養老院

  


    アリロスト歴1915年 4月




 あれから3年経ち、取り敢えず北カメリアが内戦で連盟国11州側が勝利して独立国に成り、北部は23州の連合国として歩むことに成ったのだ。

 奴隷制を残した侭で北部に残った5州は中立州して戦いには参加しなかった。

 北軍が南軍を干上がらせる為に海上封鎖をしたので、封鎖の影響を受け国益を棄損させたとしてカレ帝国とモスニア帝国が南部の味方をしたのが此の内戦の勝因だったと思う。


 俺とジョアンは、戦域が拡大して来たので、1912年夏にナユカ国のナディアへ避難していた。

 秋からジョアンをポスアード大学へ通わせる心算だったのに(えら)い迷惑だって、俺がジョアンに愚痴って居たら内戦中なのに不謹慎だと注意を受けた。

 おお、ジョアンが俺に注意してる。

 懐かなかった野良猫がちょっと俺の足元まで近寄っていた気がして、つい笑みが零れた。

 俺のそんな笑みを見てジョアンは怪訝そうな顔をして警戒を始めた。


 安全の為、一度ロンドへ帰るかとジョアンに尋ねたら、ウィルのとこのガキ、マイケルが居るから帰らないと即答した。

 ウィルめ。

 自分だけじゃ無く、ウィルのガキまでジョアンを懐かせやがって。

 そう俺が文句を言いつつ、ウィリアムが用意してくれていた屋敷に滞在した。

 ウィリアムはフロラルスにも顔が効くので此処ナディアでの生活は快適だった。

「こんな事位は、如何って事ありません。」つう、白々しいウィリアムを見て、俺はそんな所にもムカついてしまった。


 俺がナユカへ移動する為の準備を終わらせた頃、グレタリアンでは選挙が在り予想通りにフーリー党が勝った、って言ってもフーリー党って言って良いのかな?

 フーリー党って野党に居る間に3つに分かれたんだよね。

 メインのフーリー党に、労働者の為の政党、もっと自由主義を推し進めるって言うネオ自由党。

 それでもってギリギリ得票数で最多に成ったのがフーリー党なんだけど単独だと政権運営出来ないので、ホリー党のデバーレィ党首に連立を呼び掛けた。

 まあ、スチュアート4世がフーリー党の党首グラスン55歳を首相に任命するのを嫌がったりした所為なんだけどね。


 一応は皇帝に任命されないと首相に成れないんだよ。


 昔は嫌われていたけど、今では皇帝の信任も厚いデバーレイ元首相64歳を、連立パートナーと言う事で副首相にして、なんとかグラスン政権が始動した。

 いやー、しかしスチュアート4世も人妻と別れて呉れて良かったよ。

 大ロマンスと噂されていたカメリアの人妻は多情な性質で浮気し放題。

 それを知ったスチュアート4世は住まわせていたウィンター城から人妻を追い出して、今は漏れ出す精力を適度なつまみ食いで収めているようだ。

 つうか陛下も36歳、そろそろ抑えろよ。

 その人妻との恋愛や後始末をしてくれたのがデバーレイ元首相とパトリックだったので、スチュアート4世は2人を信頼しているようだ。

 その人妻の浮気癖を公にするよう企てたのが、外務卿のぬらりひょんデニドーア公爵や兄のエイム公爵だと言うのは墓場まで持って行く秘密になる。

 

 そういや政権が変わったし、兄の苦手なぬらりひょんデニドーア外務卿も引退かと思ったら、適任者がいないと言う事で残留したけど、もう75歳を過ぎていた筈。

 働かせ過ぎじゃ無いのかと他人事ながら心配。

 兄も其の侭で内務卿だったけど、兄も64歳、、、なんつう高貴な養老院。

 パトリックことパトも51歳で案の定当選していた。


 これで、選挙権の拡大が行われて一般労働者にも選挙権が与えられることに成るだろう。

 農村部にまで広げなかったのは穀物関税自由化法案を通す為だろうと思われる。

 無邪気な覇権主義者のトリス・ローデは落選していたけど、南プリメラ大使として赴任。

 人種隔離政策にも邁進しそうだ。



 そんでもってグレタリアン国内では、ヨーアン諸国の長い不況の中で金融屋というか銀行の再編が進み、200以上あった銀行は9つ位に成ったんだ。

 それに合わせて企業の再編も進み、小さな商店や工場は閉鎖されて行き失業者も増えていた中で、大資本家は益々富を増やして行っていて、そんな歪な社会構造の解消に政治家は改めてイラドとプリメア大陸と真龍国を目に留めた。

 そして新たに出来た南部のカメリア連盟国なんて投機先には持ってこい、つう話。

 北部の連合国は、プロセン連合王国の資本が、がっちり入っているからな。


 今頃はロンドで生臭い話がヒートアップしていそうだ。


 モスニア帝国は南部の勝利を聞いてマメン=カレ帝国に防衛軍だけ置き撤退し、カレ帝国も後は連盟国の内政問題として軍を引き、北カメリアの南部に残ったのはグレタリアンの外商担当者と言う。

 内戦と言う事でカレ帝国もモスニア帝国も連合国の海上封鎖を解く為の海軍以外は出さずに、物資や情報のみを連盟国へと融通していたようだ。

 北カメリアの南北総力戦と言う事で、百万近い戦死者の報告に、ヨーアン諸国が震えたのは言うまでもない。


 『総力戦ヤバい。超ヤバい!』


 そう言う記事がロンド・ポストに記されていた。

 でもきっと何年かすると忘れるんだよな、だって人間だもの。

 内戦の所為で男ががっつり減ったので労働力補充の為に、南部はグレタリアンから送られて来た失業者を受け入れ、北部にはプロセン連合王国からの失業者が受け入れられた。


 デルラの地は住み易くて気に入っていたけど、流石にグレタリアンが南部に肩入れして居たのをアソコまで見え見えに遣られると、北部に或るデルラに住めないなと思っていたらウィルから住んで良いって許可を貰ったと話して来た。

 如何いう事かとウィルに聞くと、今の侭だとプロセンの保護国扱いに成り工場や鉱山、技術の権利とかも奪われ枯れないので対抗馬としてジェームス・モリアーニの金融屋を連合政府に引き込んで於きたいそうだ。

 モリアーニ側から出した条件の1つに俺を北カメリアのアカディアに内戦前と同じ状況で居住させると言うのがあるそうな。

 クソっ、俺は悪の根源に手駒にされたのか。

 つうか、どうせ兄の差し金だろう。

 モリアーニも金融屋として南部で稼ぐより北部の方に旨味を感じたのだろう。

 


 もしかして俺の娘を預けた兄からのお礼の心算だったり?

 うんな訳無いか。

 嫁入り先が見つからないとエミリーからナユカへ旅立つ前に相談の手紙が来て、慌てて兄に連絡して23歳の娘シルビア・ラットンを預けたんだよな。

 髪色は俺とは違うとエミリーが言ってたから、兄が俺の娘シルビア・ラットンと気付いていないと良いな。

 はぁ、俺のストーカーだった兄が気付いていない筈は無いか。


 でも俺は娘シルビア・ラットンと会った事は無いし、肉親て言う実感も湧かない。

 だって俺は書類上の父親でも無いからね。

 そして今はマナーを教え直して居ると、兄からの手紙には綴られていた。

 もしかして賢き義姉エリスが亡くなったから嫁にする気じゃないよな?

 兄も64歳だし、幾ら何でもソレは無いか。


 ウィルはナユカ国のナディアではロンドの兄の所と北部の連合政府を、スキップしながら良い歳をして行ったり来たりしていた。


 そんな中で、セインの手紙を俺へマメに持って来て呉れたりしたので、其処だけはウィルを褒めて於いた。

 絶対にウィルって貴族じゃ無くて商人だと俺は思うんだよな。

 そしてウィルから渡されたセインの手紙に俺は衝撃を受けた。

 だってセインの娘オリビアと俺の息子っぽい奴が婚姻したと書いてあったのだ。

 息子っぽいつうのは、名前がユージン・ラットンと在ったからだ。


 亡くなったラットン子爵の次男で現在は少佐だそうだ。

 ビンゴだった。

 ラットン子爵は俺の4つ上の先輩で甘酸っぱいお願いを聞いて、俺は過去にエミリー夫人へ種付けしていたんだよね。

 セインは娘婿のユージン・ラットンが俺の子だと気付いて無いのでセフセフかな?

 エミリーが嫡男を出産した時に俺の役目は終わったと思ったのだけど、先輩に念の為と言われて3人も作ってしまった。

 96年に先輩が亡くなった後はエミリーともノー・コンタクトだったから、生活が困窮していたと知ったのは娘シルビア・ラットンの嫁ぎ先を頼まれた時だったんだよね。

 だから兄に世話に成った先輩の娘なので持参金は俺が用意するから相手が決まったら教えてと手紙で伝えて於いたんだけど。

 その連絡は未だ無し。


 

 セインの子と俺の子が婚姻するって嬉しいようなくすぐったいような不思議な感じだ。

 繋がっていく不思議な充足感に俺は胸が熱くなった。

 その想いは今も続いている。




 そんなセインは相変わらず忙しそうで、54歳にも成るんだからそろそろ引退してデルラの俺の側に来てくれてもよくね?って思ったり。

 でも秋口から体調を崩す人は増えるし、鉄の女セーラ・ゲイルと鉄仮面ヒースの運営しているセーラ病院も任されたりもしているから後任を育成出来るまでは難しそうだ。

 ダブル・アイアンめ、俺のセインを勝手に使うんじゃない。

 まっ、ダブル・アイアンのお陰でグレタリアンに看護学校が増え、全土の病院改革が進んでいるとセインが楽しそうに報告して来るから、俺は野良猫ジョアンを揶揄いながら、もう暫くセインが来るのを待つことにするよ。


 

 そしてサマンサことクロエからは、ニックにパブリック・スクールを辞めさせて家庭内学習をした後、俺と同じフォック大学へ入学したと報告が来た。

 ニックはクロエと違って注意深くて興味の対象が広いので色々と面白い事に出会えると思う。

 クロエをお馬鹿だと思っている訳ではないよ、念の為。

 大資本の工場に対抗するのも面倒なので、クロエの商会は石鹸や基礎化粧品をノンビリ作る受注生産制にしたそうだ。

 でもって料理作りが趣味なクロエは、親戚のシェリーや近所のマーサ達と一緒にライスや魚料理の研究に勤しんでいるらしい。

 俺もロンドを離れて恋しいと思うのはセインとクロエの料理だったりする。

 まあクロエの弟子のサニーが頑張って呉れているから今はそれで満足しよう。

 何と言ってもデルラでは新鮮なロブスター料理が食べられるからな。



 そう言えば、本邸やロッジの使用人たちは残って「俺が帰るまで敷地や屋敷を守ります。」ってキリっとした顔で言って呉れたから、俺は思わず「お前等」つうてウルって来ていたのに、後から聞いたら兄とモリアーニとが連合の大統領と密約して居たのを知らされていたと聞いて、思わず俺の感動を返せって思ったよ。

 幾ら俺がモリアーニを苦手としているからって秘密にして置く事は無いと思うんだよ。

 どうせウィルが俺に喋って来るんだし。

 俺は思うんだけどさ。

 本当の悪党って、トリス・ローデやジェームス・モリアーニみたいに、悪意無く自分の考えを推し進めれる奴なんじゃ無いかって考えるように成った。

 そうだなー、俺は2人とは相容れない気がするんだ。

 だから自然と距離を取ってしまうんだろうな。



 するすると3年間の雑多な事を脳裏に描きながら久し振りに真鍮の扉を開いてロッジへと入り玄関ホールから螺旋階段を見て、そして通路を左に曲がり懐かしの俺の聖域に入る為、オーク材で作った艶の或る扉を開く。

 俺より先に帰っていたウイルが家主然として中央左に置いてあるマホガニーのテーブルに向かい、モスグリーンの糸で織った布地張りのアームチェアーに足を組んで腰を掛け、俺のお気に入りの細巻の葉巻を優雅に燻らせていた。

 金の髪に一見人の良さそうな深緑の瞳を細めて白々しい笑顔を向けて来る忌々しいイケオジ。


 「ウィル、勝手に此の部屋に入って俺の葉巻を吸うな。」

 「ふふ、おかえりジェローム。まあまあ良いじゃないか、クロードが入れてくれたんだし。誰かにお帰りって言われるのも悪くないだろ?」

 「ウィルからは要らない。ジョアンはマイケルの部屋か。帰りは俺とじゃ無くマイケル達となんてさ。」

 「だってジェロームは途中から蒸気自動車で戻るって僕が言うと嫌がったじゃ無いか。馬車より早いし快適なのに。男の子なら蒸気自動車が良いと言うに決まってるだろ。」

 「今はナディアからデルラは道が良いから馬車も早いし快適だ。つうか俺が蒸気自動車を嫌ってるのをウィルは知ってる癖に。絶対にジョアンと俺を離す為に(わざ)とだろ?」

 「それは被害妄想だよ、ジェローム。そう言えば本邸での報告を読んだけど北部の大統領ベンジャミン・ヤングは復興演説で、南部との統合を目指すって言ったそうだ。」

 「ふーん、まあそうだろうね。その内に1つに成れるんじゃない?南部も何時までも綿花栽培にばかりに拘って居られないだろ?今はイラドが不安定だからグレタリアンも南部を必要としているけど。」

 「如何だろうな、案外考え方の違いも在るし。北部の中央集権的な考え方は受け入れがたいみたいだしね。各州の自治権を脅かされるのを嫌がっていたから。」

 「まあ、1つの州が一国並に広いからな。あの小さなグレタリアンでも5つの国みたいなモノだし。」

 「それに纏まろうとしたらグレタリアンを始めとして邪魔するだろ?よって北カメリアは一つには成れないと僕はみている。それに南部は鉄道を始めインフラが遅れているだろ?グレタリアンの投資家や企業が放って置く筈が無い。直ぐに工事が始まるよ。」


 「はぁー、そうだな。カレ帝国というかモスニア帝国とも今までグレタリアンと係争地だった南西域と南部の話し合いが出来たんだった。ヤダなー。」

 「そうそう、ジェロームもカメリア国籍が取れるよ。ポスアードの街で手続きすると良いよ。」

 「おー、サンキュー。ウィルってやっぱ便利だな。」

 「そこは使えるって言って欲しいかな、ジェローム。そう言えばジョアンも移すんだろ?」

 「うん。だから一度ジョアンと一緒にロンドへ戻るよ。あっちでも手続き在るし。」

 「そっか、僕も一度、戻るとするかな。マイケルの世話を頼める人も雇えたし。」


 そう言うとウィルはクロードの淹れた珈琲に口を付けた。

 俺も熱い珈琲に口を付けて、また慌しくなるだろう明日を想う。

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